ホメオスタシスとは、homeo(等しい)とstasis(平衡状態)を結び付けた造語であり、日本語では「生体恒常性」と訳されています。
フランスの医師、クロードベルナールが1890年代に生体の内部環境の固定性を唱えたのが、その始まりと言われ、アメリカの生理学者、ウオルターキャノンが1932年に発表した主著 『人体の知恵』の中で提唱された生物学上の重要概念であります。
多細胞生物である動物の組織や器官は、それぞれの役割が互いに関連して機能して居り、変化する外部環境に対応して、個体としての調和した生体内部環境を、一定の状態に保つ事から、ホメオスタシスと命名されたのです。
ーホメオスタシスのイメージイラストーWebPagesより
その生体調整のメカニズム、対外環境の変化が、生体へのストレス信号として伝えられると、そのフィードバックとしての応答信号が、自律神経系や視床下部下垂体などの内分泌器系から、組織や器官に伝えられ、生体の恒常性を維持するための生体反応が起こるのです。
その働きは、体温や血圧、体液の浸透圧、pHなど調整から、血糖の恒常性、免疫機能の恒常性、血中カルシュウム平衡など、生体機能の全般に及ぶと言います。
其の関連で 興味深いのは、中国では古代から、自然には風・寒・暑・湿・燥・火という6種類の異なる気候変化があり、これらを捉えて 『六気(ろっき)』と言います。
六気には、万物を育む性質があると考えられ、人体はその変化に対応して、体内環境を自律的に一定の状態に保つ能力を備えているので、問題がないとされています。 ところが、その『六気』に異常が起って、例えば冬なのに寒くなかったり等、異常な気候変動が出現した場合や何らかの理由で人体の抵抗力が低下して、その適応能力を超えたりすると 『気』(生命維持のエネルギー代謝活動)の乱れが起こり、いわゆる、生体の恒常性、ホメオスタシスが損なわれるのです。
東洋医学では、それを病の発症因子として捉えていて 『六淫』と呼んでいます。中国では、このようなホメオスタシスの概念が、医学的に古くから認識されていたのです。
―中医学から見た自然観―WebImagesより
扨て、本題の土壌のホメオスタシスですが、土は様々な物質の集合体であり、生体のような生きた存在では無いのですが、土は自然の中にあって刻々と変わる、春夏秋冬の外界変化、前述の風・寒・暑・湿・燥・火の気候変動にも、常にホメオスタシス的な恒常性を保つ事から、その対応する土の動態変化を指して、比喩的或いは観念的に、よく言われている言葉が 「土は生きている」であります。
そう言われて見れば、それも亦、土の組成と機能から、そう表現されるのも頷ける気が致します。
それでは此処で、土壌が持つその組成や機能がその周囲の環境変化に如何係わって恒常性の維持反応が現れるのか一寸考えてみたいと思います。
ー土壌の三要素の物理性、化学性、生物性―Webimagesより
土は母材である岩石が風化して生じた緒粒子の構成物の集合体ですが、その一部が水や風で他の場所に移動させられて堆積し、其処に植物が生え、地上や地下には様々な動物や微生物などの生物が生息して生活し、それらの遺体は有機物として土の中に混入して分解されていきます。
大地を覆っているその土粒子、物動や植物の生息や生育環境を与える場であり、特に食料等の農産物の生産の場としての役割が大変大きいのであり、その土の構造と機能は様々な角度から研究が進んでいます。
その中で、土の恒常性の体系化の意味で、そのホメオスタシスについての記述があり、見つけました内容について、ちょっと紹介させて頂きます。
土の自律性とは、その外界の変化に対する自己調節能であり、また外力を和らげる土の性質、緩衝能に他なりません。
土が作物の生育培体として大きな役割を果たし、長い農耕の歴史に耐えて来たのも土の持っている緩衝能、自己調節能であります。
その最たる例が、土の化学反応の一つであるpHに対する緩衝能であります。ご存知のように、水は生物の生存の基本物質でありますが、その水は土の中では、酸やアルカリ対する緩衝能が高くなっています。
それが何を意味するかと言えば、土の中に溶けている肥料成分を作物が摂取して土壌のイオンバランスが変化するのですが、土壌水の水素イオン濃度は容易には変化しないのです。これは土壌水と平衡関係にある肥料成分(化学物質)が、水素イオンの増減を中和しているからであります。
ー土壌のホメオスタシスは構成ファクターは-WebImagesより
作物は根から炭酸を土に放出し、或いは肥料成分の水和物である+イオンや-イオンを不均衡に摂取するために、土のpHは変化を常に余儀なくされます。
土壌は、この変化するpHを常に一定範囲にと止めないと、作物は充分には生育できません。その良き例が、土壌の持つ緩衝能の期待できない水耕栽培であります。
土壌機能を用いない水耕栽培、ハイドロポニックス農法は、植物の根からの養水分の重力に逆らっての吸収エネルギーを節約して、高い生育効果が得られる装置栽培法ですが、そのために作物に供給する肥料養液のイオンバランスと、刻々と変化する均衡培養液のpHの調整が、栽培管理には欠かせない主要な課題となっているのです。
ー今流行りのアクアポニックスのイメージ写真―WebImagesより
更に土壌の緩衝能で大切なのは、土壌の持つ養水分の供給緩衝能であります。作物が土壌から養分を吸収すると無機物のバランスは当然変化します。その崩れたバランスを戻すように土壌溶液の養分を補給する働きが養分供給能であります。
生物のホメオスタシスが、多くの生体物質系の反応によって保たれるように、土のホメオスタシスも亦、多くの化学反応系よって維持されているのです。此処で留意しなくてはならないのは、土壌のホメオスタシスは、その量的因子を抜きにしては考えるわけにはいかない事です。
例えば、同じ土でも小さな栽培容器では、大きい栽培容器に比べて植物の生育が悪くなりますが、土壌の緩衝能に関与する容量が少な過ぎるのであり、作物栽培には培土の機能改善が大切であることがよくわかります。
―新プランター栽培のトマトおどりこー
新プランター野菜栽培法は、水耕栽培のコンセプトから出発したのですが、その栽培容器内での限られた培土容量(根域容積)で、如何に高い栽培効果を上げるかに腐心したのであり、その核心は、水耕栽培と同様の均衡培養液に依る栽培でありながら、敢えて培土に養液の供給緩衝能を付加した事にあります。
この土壌のホメオスタシスのコンセプトが、新プランター野菜栽培法の皆さんの理解の一助になれば幸甚に存じます。今年一年のブログ拝読有難う御座いました。良いお年をお迎えください。
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