IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

地図をポケットにつっこんで

2005-07-31 14:36:40 | スポーツ
この2~3日の間、幾つかのニュースを見ているうちに、ボストン時代に取材したアイルランド人のオッサン達の事を思い出した。サッカー日本代表の中村俊輔がスコットランドのグラスゴー・セルティックというチームに移籍するという話を聞いてワクワクしていると、今度はIRA(アイルランド共和国軍)が完全な武装解除を行うと声明を発表し、北アイルランド問題に少しばかり変化が生じる可能性が出てきたのだ。グラスゴーとベルファストの両方を訪れた経験があるため、この2つのニュースがかなり近いタイミングで入ってきた偶然性に驚きすら感じている。僕が94年夏にベルファストに滞在した際、自分の滞在する近くの路上で過激派が「処刑」されたこともあったし、国境近くのニューリーという町の警察署がIRAの迫撃砲攻撃を受け、乗っていたダブリン行きの電車がストップした事もある。武装解除の発表をプロテスタント側は全く信用していないけど、今回は「可能性」を信じたい。グラスゴーの名門チームで日本人がゲームメイクを任される可能性すらあるんだから。

中村俊輔がこれからプレーするセルティックというチームだけど、チームが設立された経緯がすごくユニークだ。1887年にマリスト会のアンドリュー・ケリンズがセルティック・フットボール/アスレチック・クラブをグラスゴー市内東部に設立した時、その設立目的は市内のイーストエンド教区における貧困を和らげる事にあった。同じくスコットランドにあるアバディーン大学で社会学を教えるリチャード・ジュリアノッティ博士の論文によれば、チームに入ってくる収益金で貧困に苦しむカトリック教徒の子供達に食事を与えることが一番の目的だったらしい。今では立派な企業へと変貌を遂げたセルティックだけど、アイルランド人やグラスゴーのカトリックからは今でも絶大な支持を受ける。ライバルチームのレンジャーズは市内に住むプロテスタント系住民が作ったクラブで、ある時までカトリック系の選手が入団できない時期が存在した。レンジャーズも今では立派な企業へと変わっているが、少し前にチームのスター選手アンディ・ゴラムがUVF(プロテスタント系テロ組織)の旗をバックに写真を撮影し、えらい騒ぎとなった事がある。

そんな文化的背景もあって、セルティックとレンジャーズのファンの間にはどこか「ぎこちなさ」があるのも事実だ。日本やアメリカではほとんど聞くことのない言葉だけど、僕はアイルランドや北アイルランドのフットボール場で「セクタリアン(日本語では宗派という意味になる)」なんて言葉を耳にタコができるほど聞いた。悲しいけど、僕がこの言葉をアメリカで聞いた唯一の場所はサウスボストンだった。ボストンにはセルティックのファンが多く(バスケですら、そんな名前だもんね)、僕がボストンに住んでいた頃にはセルティックの車内広告を地下鉄で見かけたほど。で、申し訳程度のレンジャーズ・ファンもいて、お互い口も聞かない状態が続いていたけど、5年ほど前から一緒にゴルフコンペなどをするようになった。コンペの主催者は僕に「もうセクタリアンなんて言ってても、しょうがないしね」と語ってくれたが、僕も同感だ。日本のアホ政治家が主張する「サッカーで世界平和を」なんて夢物語、日本の外では5歳の子供ですら信じないけど、今回はグラスゴーの雰囲気が少しだけ変わることも期待したい。

欧米の民間軍事会社は大量の武装警備員をイラクやアフリカ諸国などに派遣しているが、30日のロサンゼルスタイムズ紙によると、この軍隊のアウトソーシング化は今後さらに拡大する傾向にある模様だ。コロンビアではアメリカの警備会社がイラクなどの地域における警備任務のための人員募集を行ったところ、軍人や警察官を中心に約1000名の申し込みがあった。これら1000名から選抜され採用された者は、イラクやその他の紛争地帯に送られ、軍人と同じような装備で警備任務に従事する。開発国を中心にして、軍事や警察関係者が西側の民間軍事会社に転職するケースは少なくなく、本国では得ることのできない高給が大きな魅力となっている。コロンビアで人員募集を行うアメリカ人男性がロサンゼルスタイムズ紙に語ったところでは、1人あたり最低でも月に1万ドルかかるアメリカ人警備員と比べて、コロンビア人はその半分以下の給料で紛争地に送れるとの事。

軍隊のアウトソーシング化を大きなビジネス・チャンスと考える企業が存在する一方で、これが将来的なトラブルの種にしかならないと懸念する声も少なくない。ジャン・シャコウスキー下院議員(イリノイ州)は、アメリカ政府の仕事を受注した民間軍事会社が、開発国の元兵士らを十分な身元調査も行わないまま採用している現実を危惧する。加えて、アメリカがコロンビアに対して行っている軍事援助が、民間軍事会社によって意味の無いものにされているとシャコウスキー議員は語る。アメリカ政府は2000年から「プラン・コロンビア」という対テロ・麻薬プロジェクトを開始させ、コロンビア軍や警察関係者の訓練などに40億ドル以上を費やしてきた。しかし、米軍の訓練を受けた兵士らが高給を求めて民間軍事会社に移るケースが少なくなく、本来は民間軍事会社が出すべき警備員の訓練費用がアメリカ国民の税金で支払われている現実がある。

ワシントンで民間軍事会社の業務拡大に関するロビー活動を行うダグ・ブルックス氏は、現在イラク国内で2万6000人(そのうちイラク人が2万人程度)が民間警備会社に雇われて働いていると語っている。アメリカはイラク復興支援に約184億ドルを捻出しているが、警備費用は全予算の25パーセントにまで達しており、ペンタゴンなどの下請けを行う民間軍事会社にとっては非常に魅力的な金脈でもある。ブッシュ政権は「確固たる意思のもとで集まった多国籍軍部隊」をこれまで主張してきたが、皮肉にもそれは民間軍事会社スタッフを意味する結果となっている。出身国も南アフリカからフィジー、ウクライナと様々で、最近は80年代の中米紛争を戦った元兵士らがイラクに職場を求める傾向もあるようだ。イラク国内にどのくらいのコロンビア人が送られたかは定かではないが、民間軍事会社の大手ブラックウォーター社は120人程度をすでに派遣した模様だ。

メジャーリーグのチーム間によるトレードの最終期限(東部時間で31日午後4時)が刻一刻と迫る中、今夏のトレードで最も注目される選手の動向が全米のスポーツメディアを賑わせている。ボストン・レッドソックスはニューヨーク・メッツとタンパベイ・デビルレイズとの三角トレードを計画し、チームの主力選手であるマニー・ラミレス外野手を放出すると伝えられていた。しかし、ニューヨークタイムズ電子版によると、この三角トレードは30日に御破算となり、現在はレッドソックスとメッツの間でラミレス外野手のトレードについて話し合いが行われている模様だ。メッツはラミレス獲得のために外野手のマイク・キャメロンを含む3人をボストンに放出すると一部で囁かれているが、メジャーリーグ機構関係者が匿名を条件にニューヨークタイムズ紙に語ったところでは、ボストン側がより実績の高い選手の放出をメッツに求めている背景があるため、土曜日夜の段階でトレードの成立には至っていないのだという。

高給取りとしても知られるラミレスは、レッドソックスとの契約が2008年末まで残っており、その間に支払われるサラリーは総額で6400万ドルとも言われている。前述のメジャー関係者によれば、今回のトレードで金銭的なネックはほとんど存在せず、メッツ側が6400万ドルの約4分の3を支払い、レッドソックス側が残りをカバーする事で合意に達している模様だ。また、マイク・キャメロン外野手の獲得に乗り気なレッドソックスだが、彼の他に2人の選手を獲得するよりは、打線の中軸を担える選手をもう1人だけ獲得したいという思惑もあるようだ。レッドソックスはトレードについて言及を避けているが、土曜日に本拠地フェンウェイ・パークで行われたミネソタ・ツインズ戦では、試合前にラミレスがスタメンから外されている(ラミレスに代わって、元巨人のゲーブ・キャプラーがフェンウェイの復帰を飾った)。

現在33歳のラミレスは1993年にクリーブランド・インディアンズでデビューして以来、常にバッティングで好成績を残しており、この13年間で413本のホームランと3割1分3厘の通算打率をマークしている。一部のメディアから気難しい性格と評されるラミレスだが、それでもメッツ側はラミレス獲得に計り知れないメリットがあると確信しているようだ。一時は今シーズン終了後にフリーエージェントでフロリダ・マーリンズのカルロス・デルガドを獲得すると考えられていたが、最近になってメッツは方針を大幅に変えている。1500万ドルの年棒を稼ぐ捕手のマイク・ピアザが今シーズンを最後にメッツを離れるのは確実とされており、ラミレスのサラリーも十分に工面できるからだ。レッドソックスの投手陣の要だったペドロ・マルチネスが昨シーズン終了後にメッツに移っているが、今年の夏もまた主力選手が荷物をまとめてニューヨークへ向かう可能性が高くなってきた。

デトロイト出身の友人とひさしぶりにランチを一緒にした。お互い、そんなに離れたところに住んでるわけではないけど、普段なかなか合う時間が無く、先週木曜日のサッカーの試合で偶然にも僕の近くの席に座っていたのだ。そんな事もあって、久しぶりにメシでも食おうと約束していたんだけど、今日は彼のデトロイト時代の友人2人もランチに飛び入りで来てくれた。その2人が新聞記者だった事もあり、お互いを紹介された僕らは、週末には絶対にする事のない名刺交換までする始末。1人はデトロイト・フリープレス紙の記者で、僕は日本に戻る際に利用する空港でこの新聞を必ず買っている。もう1人は最近ワシントンポストに転職してきたスポーツ担当記者で、まだワシントン周辺の地理が分からないらしく、ジーンズのうしろのポケットにはワシントン市内の地図がついたガイドブックが入っていた。ボストンやワシントンに来て間もない頃、僕も地元の本屋で買った地図をズボンにずっと入れてた記憶があって、少し懐かしくも感じたのでした。