IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

ロケット、今週ワシントンに来襲

2005-07-18 15:50:44 | 医療・健康
日本の友人がやってるブログをのぞいた時、そこに映画のレビューもあったので幾つかを興味深く読ませてもらい、そのレビューでも紹介されていたドイツ映画のエス(原題はDas Experiment )をDVDで見ることにした。DVD自体は金曜日に借りていたけれど、なかなか映画を見る時間が作れず(クリント・イーストウッドの西部劇ですら全部見れていないというのに…)、日曜日の朝8時から頑張って見る事に。この映画、朝の8時から見るようなタイプのものでは決してなく、見た後で思い気持ちがしばらく続いた。2001年に作られたこの映画、監督もキャストも全てドイツ人で、映画の舞台はどうもケルン(懐かしい)周辺に設定されていたようだけど、実はアメリカの話なのです。アメリカで1971年に行われた心理学実験をテーマに、スリラー調で展開するこの映画、色々と考えさせられるものがあった。

映画のストーリーを少しだけ説明しておくと、ドイツの医療施設で一般人を被験者にした心理実験が行われた。これは20人の被験者をランダムに2つのグループに分け、一方が囚人として、そしてもう一方が看守として、施設内に設けられた刑務所で2週間の共同生活を行うもの。囚人チームの被験者は人権が全く存在しない状態で、看守チームの被験者の命令に全て従わなければならず、実験を企画した心理学者らは施設内に設けられたモニターで2つのグループの心理状態の変化を事務的に記録していく。看守側の被験者には「暴力を振るってはいけない」というルール以外に何も通達されておらず、看守役の被験者は次第に今まで経験した事の無かったサディズムに目覚めていくのだ。続きは実際に映画で見てほしいんだけど、この映画のベースとなった実験は1971年にスタンフォード大学で行われており、僕も実験の話を少しだけ聞いたことがあった。

「スタンフォード・プリズン・エクスペリメント」と名付けられた心理実験は、スタンフォード大学の心理学者フィリップ・ズィンバルドによって1971年に実施され、24名の被験者が映画と同じように囚人と看守の2組に別れ、大学内の施設で「刑務所生活」を送っている。実験は海軍からの資金援助で行われた。実験当初はロールプレイングだと割り切っていた被験者達だが、時間の経過とともに看守側の被験者の中に残虐性を見せ始める者が出始め、囚人役の被験者にが暴力や性的虐待を加えられるケースが続出した。監獄の衛生状態の悪さも際立っていたようで、実験は途中で座礁するが、精神障害をおこした被験者が何人も出る結果となった。34年前の実験における恥辱行為や暴力行為の数々、イラクのアブグレイブ刑務所での虐待例と酷似している。アブグレイブ・スキャンダルでは、前述のズィンバルドが「収容所内の雰囲気が看守をサディスティックにした」との証言を行っているが、米軍はこれを一蹴している。映画、ぜひチェックしてみてくださいな。

昨年、10代後半から20代前半の女性十数名が血塊が原因で死亡しており、オーソ・エブラとよばれる避妊用パッチの使用が原因ではとの説が浮上してきている。AP通信は情報公開法に基づいて、政府がまとめた医薬品の安全性に関する報告書を入手した。報告書では、死亡に至らなかったものの、さらに数十名が脳梗塞や凝血に見舞われていたことも判明している。オーソ・エブラを使用して血塊に見舞われた何人かの女性の家族はすでに訴訟を起こしており、弁護士によれば、訴訟の件数はこれから間違いなく増えるだろうとの事だ。米食品医薬品局(FDA)と避妊用パッチ製造元のオーソ・マクニール社はパッチの危険性について発売前から幾つかの指摘を受けていたが、パッチはピル同様に安全だと指摘してきた。

AP通信が入手した安全性に関する報告書では、パッチを使用した女性が血塊に見舞われる可能性はピルよりも約3倍高い事が指摘されている。2004年には全米で約80万人がオーソ・エブラを使用している。通常ならば、若くて健康な女性が血塊で死亡する例は少ない。しかし、18歳の学生ザキヤ・ケネディはパッチを定期的に使っていた昨年4月、マンハッタンの地下鉄駅構内で突然倒れ、そのまま死亡している。25歳で2児の母親でもあったサーシャ・ウェバーは、パッチを使用してから6週間後の昨年3月に心臓発作で死亡している。パッチが血塊を直接引き起こしたのかどうか、明確な答えが出せない産婦人科医は少なくなく、科学的な調査の実施も被害者のプライバシーの問題によって困難な状態へと陥っている。

パッチは2001年より全米で販売されているが、販売前からFDA側はパッチの危険性を少なからず懸念していた。喫煙をしない35歳以下の女性がパッチを使った場合、1万人に12人の割合で血塊が発生し、20万人に3人は血塊が原因で死亡するというデータがFDAによって報告されている。血塊は足で作り出される場合がほとんどで、それが肺や心臓などに移動した場合、深刻な問題を引き起こす。FDAは2000年にオーソ・マクニール社の避妊用パッチの臨床試験を行っているが、3300人の被験者の中で血塊が肺に達して治療を受けたケースが2例あり、これはFDA内部でも問題視されていた。オーソ・マクニール社は、「血塊で治療を受けた女性の1人は過去に手術を受けていたので、こちらが求めた被験者の条件とマッチしなかった」と主張したが、FDAは安全性の見直しを書面で求めていた。

CIA工作員バレリー・プレームに関する情報が複数のジャーナリストに漏らされた問題で、大統領次席補佐官カール・ローブの進退問題が注目される中、スキャンダルの渦中にいるもう1人の人物であるマシュー・クーパー記者が17日にCNNの番組内でインタビューに答えた。プレームに関する記事を書いたタイム誌のクーパー記者とニューヨーク・タイムズ紙のジュディス・ミラー記者は、連邦裁判所から情報源を明らかにするよう命じられていた。ニューヨーク・タイムズ紙とミラー記者は情報源の守秘義務を主張し、関連資料の提出も全て拒否したが、7月6日にミラー記者はバージニア州アレクサンドリアの刑務所に収監されている。当初はクーパー記者も証言と関連資料の提出を拒んできたが、7月6日になって証言する姿勢を打ち出し、ギリギリで収監を免れた。

CNNの番組の中でクーパー記者は上司でありタイム誌編集長のノーマン・パールスタインのとった行動について語り、クーパー記者の取材メモやEメールを大陪審に提出したパールスタインの決断が、将来的にタイム誌の取材力に大きな影響を及ぼすかもしれないと危惧した。これまで匿名を条件にタイム誌の記者達に協力していた情報源が、今回の大陪審への証拠品提出で以前よりも話をしなくなるのではとう心配である。クーパー記者はタイム誌がこれからも情報源の秘匿を続け、時間の経過とともにタイム誌の信頼が回復される事を願っているとも語っている。しかし、諜報活動保護法によって、秘密活動に従事する工作員らの実名を明かすことは連邦法の違反となるため、政府がこれからもこの法律を利用する可能性は高い。

タイム誌のアクションとは対照的に、ニューヨーク・タイムズ紙は現在も「情報源を決して明らかにしない」というスタンスを取り続けている。クーパー記者と異なり、プレームに関する記事を書いていなかった(取材は行っていた)ミラー記者だが、すでにアレクサンドリアの刑務所で2週間近くを過ごしている。タイム誌のパールスタイン編集長は大陪審への証拠品の提出は彼の独断で決めた事を強調したが、社内でも記者が報道の自由を守る合衆国憲法を最後まで守るべきかどうかの議論が繰り返されたのだという。連邦最高裁判所が今回のケースへの介入を拒否した事も、パールスタイン編集長が決断を下すきっかけになった模様だ。しかし、タイム誌への批判は少なくなく、同誌が罰金を払い、クーパー記者に少しばかりの刑務所暮らしを我慢してもらった方がよかったという声も存在している。

嬉しいニュースが1つ。地元球団のワシントン・ナショナルズがナショナルリーグ東地区でまさかの首位。53勝39敗の成績で、アトランタ・ブレーブスやニューヨーク・メッツを抑えてのトップだ。僕はレッドソックス・ファンだけど、地元のチームが(しかも、ワシントンに移転してきて1年目で)ここまで頑張っているのには嬉しくなる。クローザーのチャド・コルデロは今年になって一気にブレークした右腕で、2勝1敗32セーブ(防御率はなんと1.11)という数字を残している。今週末にはアストロズがやってくるけど、なんとかして相手チームのロジャー・クレメンスが先発する試合を見に行きたい。ボストン時代に彼の投げる試合(ただ、その時はすでにヤンキースの投手で…、残念)を3回ほど見たけど、今年43歳の彼に残された時間はそれほど長くない。と言っても、現在7勝4敗(防御率は両リーグトップの1.47)のクレメンスを見ていると、あと3年くらいはまだまだやれそうなんだけどなぁ。