IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

意外な場所で

2005-07-02 13:17:08 | Weblog
今日も結局「バットマン・ビギンズ」を見に行く事ができなかったんだけど、それには少し理由がありまして、映画館ではなく自宅近くの地下駐車場に行ってみようと突然思い立ったのデス。午後7時からサッカーの練習があるため、4時過ぎに上映される映画をサッカーのチームメイトの1人と一緒に見る計画だったんだけど(そう、こっちはすでに休みモードに突入なのだ)、ワシントンポストの記事が気になって予定を突然変更する事に。3時半頃、友人のジェイが我が家まで車で迎えに来てくれたものの、助手席のドアを開けた僕は開口一番「1401のウイルソン・ブルバードまで言っていい?」と聞いてみた。「いいよ」とジェイは言ったものの、やはり気になったのか、「コンビニにでも行くの?」聞き直してきた。「ただの地下駐車場だけど、ちょっと面白そうなんだわ」、僕はそういってジェイに今朝のワシントンポストの記事を見せた。
 
ワシントンポスト紙のウォーターゲート事件報道、やがて当時のニクソン大統領を辞任に追い込むきっかけともなったのだが、ポスト紙の調査報道に幾つもの重要な情報を与え続けた政府高官がおり、正体の全く分からないその人物は当時流行っていたポルノ映画のタイトルを取って「ディープ・スロート」と名付けられた。ディープスロートと接触して情報を入手していたワシントンポスト紙のボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインの両記者は、ディープスロートがこの世を去るまでは、その正体を一切明かさないと公言してきた。しかし、最近になってウォーターゲート事件当時のFBI副長官だったマーク・フェルト氏が、月刊誌「バニティ・フェア」の記事の中で自らがディープ・スロートだったことを告白し、これにはアメリカ中が驚いた。
 
自伝出版の契約料に魅了されて、フェルト氏の娘さんが正体を公表するように強く勧めたとの説もあるが、突然の告白にウッドワード記者らもショックを隠せないようだった。現在ワシントンポスト紙の編集局次長を務めるウッドワード氏は、マーク・フェルト氏の死後にディープ・スロートとのやり取りをテーマにした本を出版する予定だったが、予想外の展開を迎えたことで、その本(タイトルは「ザ・シークレット・マン」との事)は来週発売される事になった。今日のワシントンポスト紙は本の内容の一部を紹介しており、フェルト氏の情報提供がワシントンから橋を渡ってバージニア州に入ってすぐの所にあるロズリン地区の地下駐車場内で行われた事が初めて明かされた。
 
今日の記事には地下駐車場の住所まで記載されていたため、僕はその場所に実際に立ってみたいと思い、ジェイにわがままを聞いてもらう事にしたのだ。2人で駐車場に向かい、外観の写真を撮影してから、駐車場の中に入ってみる。NBCのクルーが来週放送予定の特番の撮影で駐車場にいると聞いていたが、僕らが着いた時にはどうやらクルーは撤収した後だったようだ。駐車場のスタッフに「ディープ・スロート」と一言言った瞬間、ウッドワードとフェルトが会っていたとされる場所への行き方を細かに教えてくれた。「あんたの仕事も大変そうだね」とスタッフのオヤジは気を使って言ってくれたけど、その時の僕の服装といえばサッカーシャツに短パンという格好で、個人的な興味オンリーでその場所を訪れたんだけど、仕事の時の顔つきになってたのかな…。やだやだ、休日だというのに。
 
1976年公開の名作「大統領の陰謀」の中で、ロバート・レッドフォード演じるウッドワードがディープ・スロートとどこで情報のやり取りを行ったのかは完全に忘れてしまったけど(もう一度見直さないとなぁ)、実際の駐車場の中は小さな声で話をしても周囲に響き渡るのが印象的だった。地下1階の一番奥で2人は会っていたようだけど、当時は周囲に何も無いようなエリアだったので(ロズリンに地下鉄が通ったのが1977年の事で、今ではこの周辺に多くの高層ビルが並んでいる)、もしかすると非常に都合のいい場所だったのかも。ドラマ「Xファイル」にも登場したディープ・スロート、大学生の時に読んだ本で彼の事が気になっていたが、自分の住む家から車で5分の場所でアメリカ政治史の1ページが作られていたかと思うと、なんだか得したような気分にさえなった金曜日の夕方だった。