熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

パパイアの葉にいたハダニハンター

2008年01月12日 | パパイア
 2008年1月4日に掲載した「パパイアの冬季温度管理について」で書いた様に、沖縄県でパパイアの経済栽培を行う際は、低温又は多雨の時期(11月~6月)は施設にビニール被覆を行うことが基本となります。

 これは言い換えると「パパイア栽培施設の中は、周年温かく乾燥した状態である」と言えます。
 パパイアの生育を促し、立枯症の軽減を図るために環境を整えると「温暖+乾燥」といった環境になりがちです。

 しかし、「温暖+乾燥」の条件下では幾つか問題が生じます。

 まず1つ目の問題は、パパイアは比較的水を必要とする作物ですので、雨が降らない(ビニール被覆により雨が当たらない)時期は、人の手で水をやらなければいけないことです。水はけが良い土地でたっぷり水をかけるのが、パパイアの栽培には向いています。

 もう1つの問題は、「温暖+乾燥」という環境下ではハダニ類が大発生することです。


※この先は虫の話題ですので、虫嫌いな方は読むのをここで止めて下さい。


 パパイアを栽培していて、「葉の色がかすり状に抜けて薄くなってきた様だ」「葉の光沢がなくなってきたぞ」「葉に小さな白い斑点が見られる」等と思った際は、ハダニ類の被害を疑って下さい(写真1、2)。


写真1、2:ハダニの被害を受けたパパイアの葉


 ハダニの寄生を疑ったなら、次は葉の表も裏もじっくりと観察して下さい。
 ハダニの大きさは、成虫でも0.4~0.5mmと小さいため見落とすかもしれないので、必要な方は虫眼鏡やルーペを用いて観察して下さい(写真3、4)。


写真3、4:パパイアの葉に寄生していたハダニ、ねこがため愛用ルーペ


 ルーペは小さな虫を観察するには便利な道具です。
 私が愛用しているのは、東海産業の「ピーク・ルーペ 15X(№1962)」です。
 これまで幾つかのルーペを使ってきましたが、このルーペは「形状がシンプル&コンパクト」「ぴったり被せたところでピントが合うから使いやすい」「レンズの下のフードが透明なので明るくて見やすい」「1,500円程度で購入できるお買い得感」等とお奨めの逸品です。
 因みに写真3のハダニ写真は、野外でルーペにデジカメのレンズを近づけマクロ撮影しました。

 話を戻します。
 とにかく、パパイアの畑はハダニ類が大発生しやすい条件が揃っています。
 2007年の年末に知人のパパイア畑を訪ねた際もハダニが大発生していました。

 私は「ハダニの被害が多いなぁ~」位にしか思っていなかったのですが、同行していた私の果樹病害虫のブレインの一人“ふたさん”が「あっ、ハダニの天敵がいますよ」と葉の裏を指差しました。指差された先には、1~2mm程度のイモムシ状の虫がハダニに齧り付いていました(写真5、6)。


写真5、6:ハダニに齧り付いてる虫を発見


 この虫を持ち帰り、ネットで調べてみると沖縄県病害虫防除技術センターが発行している「平成19年度病害虫発生予報第9号(12月予報)(PDF:52.1KB)」に掲載されているヒメハダニカブリケシハネカクシ(Oligota kashmirica benefica)の幼虫に似ています。
 しかし、専門家に尋ねたところ「沖縄県からはヒメハダニカブリケシハネカクシの分布は報告されておらず、同種が亜種に認定された報告書(Naomi.1984)内に沖縄県産の標本が含まれていないことから亜種である可能性がある」とのことです。
 従って、以下この虫をケシハネカクシの幼虫と記すことにします。

 ケシハネカクシの幼虫を実態顕微鏡下で観察していると、歩き回りながら次々とハダニの卵、幼虫、成虫と見境なく食べていきます(写真7~10)。




写真7~10:ハダニを捕食するケシハネカクシの幼虫


 ケシハネカクシの幼虫の捕食方法は、ハダニや卵に穴を開けて中身を吸い取る方式の様です。
 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所による報告(岸本.平成13年度研究成果情報)では、電子顕微鏡で観察すると、ヒメハダニカブリケシハネカクシの幼虫は、ハダニ類の卵に2つの大型孔(左右の孔の大きさ、形状がほぼ同じ(7~15μm)で孔と孔の間隔が広いのが特徴)が見られるそうです。

 次々とハダニを捕らえる様子が面白いので、30分程実態顕微鏡を覗いていました。
 ケシハネカクシの幼虫(恐らく終齢幼虫)が卵の捕食に要する時間は15秒前後、ハダニの成虫の体液を吸うにも1分程度しかかかりません。そして、食べ終えると2分程徘徊して再び捕食します。
 観察されている状況下で、これだけ積極的に捕食行動を見せてくれるとは誠に頼もしい天敵です。

 ヒメハダニカブリケシハネカクシについては、本土でもハダニの有力天敵として研究が行われている様ですので、それらを参考にしながら沖縄県でもケシハネカクシがハダニの天敵として活用できれば面白いと思います。

 最後に、2008年1月に再びケシハネカクシの幼虫を見つけたパパイア畑を訪れました。
 そしてハネカクシの成虫を見つけましたので、写真を掲載しておきます(写真11、12)。
 成虫の体長は約1mmとゴマ粒より小さいので、幼虫同様に知らないと見逃す虫だと思います。
 因みに、ケシハネカクシの成虫もハダニを食べるそうです。


写真11、12:ケシハネカクシの成虫


○参考資料:
 ・「果樹栽培要領」.2003.沖縄県農林水産部.
 ・「写真による 農作物病害虫診断ハンドブック」.2002.沖縄県植物防疫協会.
 ・「Studies of the Genus Oligota MANNERHEIM(Coleoptera Staphylinidae) from Japan;Ⅰ. On the Species-group of O.yasunatui KINSTNER, with Description of a New Subspecies」.1984.Shunichiro Naomi.The Entomological Society of Japan; Konchu, Tokyo, 52(4):516-521.
 ・「ミカンハダニ卵上に残された捕食痕に基づく天敵種の識別法」.岸本英成.平成13年度研究成果情報一覧.独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所.

○参考サイト
 ・「東海産業
 ・「Yahoo!ショッピング
 ・「沖縄県病害虫防除センター
 ・「むしこら」:ハダニが増えるとやって来る天敵ケシハネカクシ