歯医者を疑え!簡単なQ&Aで彼らのウソを見抜く方法 ケース別 迷ったら、こう訊ねよ
2018年6月17日 13時0分
現代ビジネス
何度も削ったり埋めたり。歯の治療には、「本当に必要か?」と思うことがたくさんある。でも、いくつか質問をするだけで、その要不要が判別できるんです。
「残念なことですが、歯医者の中には、カネ儲けのため、患者にとっては必要のない治療をする人がいることも確かです。彼らは必要もないのに、虫歯を削る、何度も作り直しが必要な義歯を誂えるなど、ムダな治療を行っています」
著書に『歯科医は今日も、やりたい放題』がある林歯科の林晋哉院長はこう溜め息をつく。林氏が言う通り、歯の治療には「ムダ」がつきもの。カネ儲けのためには、その治療が必要であるかのようにウソをつく歯医者もいる。患者はどうウソを見破ればいいのか。
有効なのは、「質問」だ。歯科医の提案に対して的確に質問をぶつけられれば、それが本当に必要な治療かどうかを見抜ける。
提案を受けたケースごとに、どのような質問をすればいいのかを紹介していこう。
インプラントを勧められたら
「インプラントに関するトラブルは、いまだに多く起きています。少し前に来院した40代の男性は、別の病院でインプラントの治療を受けていました。
土台となる金属部品を差し込み、その上に被せ物をしたのですが、直後からその部分がグラグラし始め、ものを噛めない状態になってしまったと、相談にいらっしゃったのです」
こう語るのは、「削らない治療」を標榜する天野歯科医院の天野聖志院長である。
周知の通りインプラントとは、歯を抜いてしまった後、アゴの骨にネジ状の金属部品を差し込み、それを土台に、セラミックなどでつくった人工の歯を被せたものだ。
保険適用外なので、価格は医院によって異なるが、相場では1本10万~100万円とかなり高価で、値段の幅も大きい。
「入れ歯やブリッジに比べて高価ですが、うまく治療できれば、入れ歯よりも硬い食べ物も噛みやすく、自分の歯を使って過ごしていた時と比べても生活の質が低下しにくい」(日本歯学センターの田北行宏院長)
しかし、腕の悪い医師がカネ目当てでインプラントを設置すると、先に天野氏が述べたように、つけた直後からグラグラし始める、ネジが骨から取れてしまう、歯茎に炎症が出る、ひどい場合には、アゴの神経を傷つけて口内が麻痺してしまうトラブルが起きる。
では、キチンとした治療をしてくれるかどうか、どのような質問で確かめればいいのか。神田中央通りいけむら歯科の池村和歌子院長が言う。
「インプラントを埋め込む際に大切なのは、ほかの歯との兼ね合いなどを含めて、口腔内全体の環境がどうなっていくのか、という点です。
たとえば上の歯にインプラントを入れると、それに対応する下の歯が、硬いインプラントの影響で抜けやすくなることもあります。
診断力の高い医師であれば、インプラントを入れることによって、ほかの歯にどのような影響が出るかを予測することができる。
だから、インプラントを提案されたら、『インプラントを入れてから、5年後、10年後、ほかの歯はどうなりますか』と訊ねてみてください。
インプラント以外の歯に、今後どんなリスクがあるか、どんな治療をする可能性があるかについて答えてくれれば、かなり信用が置けます。それができない歯科医は、その場限りの治療をしている可能性が高い」
ほかに、リスクの高い歯医者を見分けるには、治療を受ける歯科医院の「体制」を確認しておくことも重要だ。前出の天野氏が語る。
「最近は、歯科医の業界でも専門分化が進んでいます。インプラントも専門医の養成が進んできている。
一人しか歯科医がおらず、その人が虫歯治療も、矯正治療も、インプラントも、すべての治療を行っている医院は、相対的にリスクが高いかもしれません。
一人しか歯科医がいない医院でも、インプラントや矯正といった専門的な技術が必要とされる治療の場合は、ほかの医院から専門医を呼んでくるというところもあります。
治療を提案された際に、『インプラントの専門医に治療してもらうことはできますか』と訊ねてみて、医院側がそうした対応をとってくれれば、信頼が置けると言えます」
高いカネを払うのだから、診断力が高く、丁寧に治療をしてくれる歯医者を見つけたい。
「とりあえず削りましょう」と言われたら
「大した歯の痛みもないのに、別の病院で『8本が虫歯で、削る必要がある』と言われ、我々の病院に相談にきた患者さんがいます。しかし診てみると、削る必要があるのはそのうちわずか2本だけでした」(前出の天野氏)
歯医者にとって、虫歯を「削って埋める」作業は、手っ取り早くカネを儲けられる治療行為だ。あくどい歯医者は、削る必要のない歯も削ってしまう。都内で歯科医院に勤める歯科衛生士の女性が打ち明ける。
「私が以前勤めていた歯科医院では、控え室に『ノルマ表』のようなグラフを貼っていました。それぞれの歯科医の先生が、どれだけ診療報酬を稼いだのかを示したものです。
当然、先生方はプレッシャーを感じ、手っ取り早く報酬に結びつく『削って、埋める』治療ばかりを繰り返していました」
歯科健診のつもりで歯医者に行ったら「とりあえず削りましょう」と言われた経験のある人も少なくないだろう。
しかし、削ることのリスクは大きい。一度、歯を削ると、歯に細かいヒビが入るなどして、菌が溜まりやすくなり、虫歯を再発しやすくなる。歯の寿命も短くなる。
だがもちろん、本当に削る必要に迫られていることもある。どう見分ければいいのか。前出の池村氏が解説する。
「虫歯の治療において何よりも重要なのは、病の『元を絶つ』こと。たとえ、歯を削り、患部を治療したとしても、口の中が雑菌だらけのままだったり、砂糖の摂取量が多いなど原因となっている生活習慣を放置していたりしたら、意味がない。
再び虫歯になってしまう可能性が高いからです。削る前にキチンと口内の状態を検査し、生活習慣の指導などをするというのが、正しい治療の順序と言えます」
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池村氏によると、「削りましょう」と言われた時、「口腔内の検査のデータをください」「虫歯の原因、再発予防法を教えてください」と聞くことが大切だ。
「検査は非常に重要ですが、あまり診療報酬を得られず、検査をしたフリをしている歯科医もいます。求めても検査のデータをくれない、説明をしてくれないといった場合は要注意です。
そのうえで重要なのは、『虫歯の原因』を説明してもらうことです。原因は糖分の過剰摂取なのか、歯磨きの仕方なのか、それとも服薬状況(服薬によって口が渇き虫歯になることがある)なのか。そういった根本的な原因についての説明を避け、すぐに削ろうとするのは問題です。
短時間に何人も削ることでしか利益を得られない、診断力のない歯科医である可能性が高い」(池村氏)
初診で削る提案をされた場合は、断ったほうがいいという歯科医も多い。「削りましょう」には警戒したほうがいい。
いつまでも治療が終わらないときは
「進行した虫歯を抜いた後、『翌日も消毒のために来てください』なんてことを言う歯科医がいますが、再診料と消毒料を稼ぐための口実であることが多い。
翌日消毒しなくても問題ありません。こうした歯科医は、そうやって何度か来てもらっていれば、次に症状が出た際にも来院してもらえると考えているのかもしれません」(前出の林氏)
歯医者を訪れて不可解に思うのが、何度も来院を求められ、なかなか治療が終わらないということだ。診療報酬のために、無用に何度も来院させているケースは珍しくない。
しかし、虫歯が取り返しのつかないレベルで進行している場合など、おおがかりな事態になると、治療はそれなりの回数が必要となる。これも見分けが難しい。前出の天野氏が言う。
「まずは、治療の提案が行われた際に『治療には何回来院すればいいですか。どのくらいの期間がかかりますか』と聞いておくのがいい。
診断力が高ければ、目安を答えてくれるでしょう。治療内容にもよりますが、期間が1年以上かかると言われる場合は、セカンドオピニオンをとってもいい」
都内で働く歯科医はこう打ち明ける。
「虫歯の治療で時間がかかりがちなのは、神経の治療です。場合によっては1~2年かかるケースもありますが、1回につき1時間の治療をすればより短期間で済むところを、診療報酬を稼ぐために30分の治療を2回行うために長引いていることがある。
もし治療が3ヵ月、4ヵ月かかって長引いていたら、『1回の治療にかかる時間を延ばせないか』を聞いてみるといい。時間を延ばしてくれるなら、長期的に見て治療期間は短くなる可能性が高い」
保険診療で時間がかかっている場合、『自由診療の専門医を紹介してもらえますか』と訊ねるのもいい。前出・天野氏が言う。
「自由診療は、値段は高いですが、保険診療で1~2年かかる治療が1ヵ月で終わることもあり、総合的に見れば、治療費が保険診療と変わらないということもある。専門医を紹介してくれる医師は信頼が置けます」
この質問に答えてくれないなら、その後もダラダラ治療が続くだろう。
保険適用外の治療を提案されたら
歯医者で、「保険適用外」の治療を勧められるシーンは、詰め物や被せ物の種類を選ぶタイミングで訪れる。
銀や歯科用プラスチックは保険適用内なので1本につき数千円で終わるが、ゴールドやセラミックなど保険適用外の素材を使うと数万~数十万円単位で費用がかかる。
値段の高い後者の治療ばかりを強く勧められた経験はないだろうか。
「『保険外』のセラミックだけを妙に勧める歯科医がいますが、これは要注意。セラミックは割れやすく、治療する歯の場所などによっては金属のほうがいいこともあります。
保険外のセラミック治療を勧められた場合は、『セラミックと金属の治療、それぞれのメリットとデメリットを教えてください』と聞いてみてください。
もちろん歯科医によっても好みはありますが、セラミックだけを強く推薦する場合には、一度疑ってかかったほうがいいと思います」(前出の天野氏)
メリット、デメリットに関して、とくにわかりやすいのは、その詰め物、被せ物を使い続けることができる「期間」だ。
詰め物、被せ物は、一度つけた後でも、劣化したり、歯からズレたりするため、銀であれば2~3年、セラミックは銀に比べて長持ちするものの、10~15年が経てば交換は避けられない。
しかし、「セラミックはどれくらいの期間使い続けられますか」と訊ねても、「一度つけたら交換する必要がなく、長期的に考えると安い」といった説明をしたり、目安の期間より寿命を長めに告げたりする歯科医がいる。
このような歯科医は、自分の儲けのために、高額な保険適用外の治療を勧めていると考えて間違いない。
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保険適用外の治療としては、先に紹介したインプラントや歯並びを調整する「矯正治療」もある。いずれも、100万円単位で費用がかかることも多い高額な治療だ。
「こうした保険外診療を勧める歯科医院の中には、経営が切羽詰まっているところもあります。それが疑わしい場合は、『支払いは分割で大丈夫ですか』と訊ねてみるといい。
『割り引きするので一括でどうですか?』などと提案してくる場合は、日銭に困っている可能性が高い。一度『考えさせてください』と言って即答しないほうがいい」(前出の天野氏)
噛み合わせが悪いと言われたら
歯の治療において、「噛み合わせ」が重要であることは、健康意識の高い人々の間ではすでに常識だろう。
「噛み合わせが悪いと、特定の場所に菌が溜まりやすくなり、虫歯や歯周病が進行しやすくなるばかりでなく、偏頭痛や肩こりなどに繋がることもわかっています」(前出の天野氏)
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治療としては、歯に厚さを微細に調整した被せ物をして、噛み合わせを改善していく手法が一般的だ。保険診療なら数千円だが、自由診療となると、10万円以上かかることもある。
自由診療であればかなりの儲けになるので、多くの歯科医は噛み合わせ治療に手を出し、「噛み合わせ治療ブーム」の様相を呈している。
しかし、ある治療が持ち上げられるということは、その治療を悪用してカネ儲けをしようとする人々が現れはじめる、ということでもある。
日本歯学センターの歯科医・三原優子氏が最近の事情を明かす。
「患者さんが歯科医院を訪れる場合、口腔内のどこかの部分に痛みや異変を感じている――つまり『主訴』を抱えているわけですが、その訴えには大して耳を貸さず、すぐに『これは噛み合わせが悪いからだ。まずは噛み合わせの治療をしましょう』と提案してくる歯科医が出てきています。
しかし結局、患者は自分が治療してほしい歯を放っておかれてしまい、困惑するというケースがあるのです」
都内で歯科医院を経営する別の歯科医も言う。
「『噛み合わせバカ』とでも言えばいいのか、何でもかんでも噛み合わせのせいにして、ロクに主訴部分を検査しない歯科医が増えています」
では、こうした歯科医には、どのように質問するのがいいのか。
前出の三原氏が言う。
「まず、『主訴についてはどう治療するのがいいでしょうか』と聞いてみる。それに耳を貸さず噛み合わせの話ばかりする場合は、疑ってかかったほうがいいでしょう。
さらに、『主訴の部分と噛み合わせはどう関わっていますか』と確認しましょう。いろいろ説明をされると思いますが、一つの判断基準になるのは、『左右』の問題です。
たとえば、右の歯が痛い場合、右側の歯のいずれかに噛み合わせの問題があることがほとんどです。右の歯が痛いのに、左の歯の噛み合わせ治療を勧めてくる歯科医とは、警戒して付き合ったほうがいい」
流行っている治療だからといって安易に飛びつかず、よくよく説明を受けたほうがいい。
ケースごとに、「訊ね方」を紹介してきた。どの例にも共通して重要なのは、訊ねたことに対して歯科医が意を尽くして説明してくれるかどうかだ。
これから歯を治療しようという方、現在通っている歯医者に不満がある方は、こうした質問をぶつけ、歯医者の「質」を見極めてみよう。もし質問したことで嫌な顔をされるようなら、即刻、歯医者を変えるべきだ。
2018年6月17日 13時0分
現代ビジネス
何度も削ったり埋めたり。歯の治療には、「本当に必要か?」と思うことがたくさんある。でも、いくつか質問をするだけで、その要不要が判別できるんです。
「残念なことですが、歯医者の中には、カネ儲けのため、患者にとっては必要のない治療をする人がいることも確かです。彼らは必要もないのに、虫歯を削る、何度も作り直しが必要な義歯を誂えるなど、ムダな治療を行っています」
著書に『歯科医は今日も、やりたい放題』がある林歯科の林晋哉院長はこう溜め息をつく。林氏が言う通り、歯の治療には「ムダ」がつきもの。カネ儲けのためには、その治療が必要であるかのようにウソをつく歯医者もいる。患者はどうウソを見破ればいいのか。
有効なのは、「質問」だ。歯科医の提案に対して的確に質問をぶつけられれば、それが本当に必要な治療かどうかを見抜ける。
提案を受けたケースごとに、どのような質問をすればいいのかを紹介していこう。
インプラントを勧められたら
「インプラントに関するトラブルは、いまだに多く起きています。少し前に来院した40代の男性は、別の病院でインプラントの治療を受けていました。
土台となる金属部品を差し込み、その上に被せ物をしたのですが、直後からその部分がグラグラし始め、ものを噛めない状態になってしまったと、相談にいらっしゃったのです」
こう語るのは、「削らない治療」を標榜する天野歯科医院の天野聖志院長である。
周知の通りインプラントとは、歯を抜いてしまった後、アゴの骨にネジ状の金属部品を差し込み、それを土台に、セラミックなどでつくった人工の歯を被せたものだ。
保険適用外なので、価格は医院によって異なるが、相場では1本10万~100万円とかなり高価で、値段の幅も大きい。
「入れ歯やブリッジに比べて高価ですが、うまく治療できれば、入れ歯よりも硬い食べ物も噛みやすく、自分の歯を使って過ごしていた時と比べても生活の質が低下しにくい」(日本歯学センターの田北行宏院長)
しかし、腕の悪い医師がカネ目当てでインプラントを設置すると、先に天野氏が述べたように、つけた直後からグラグラし始める、ネジが骨から取れてしまう、歯茎に炎症が出る、ひどい場合には、アゴの神経を傷つけて口内が麻痺してしまうトラブルが起きる。
では、キチンとした治療をしてくれるかどうか、どのような質問で確かめればいいのか。神田中央通りいけむら歯科の池村和歌子院長が言う。
「インプラントを埋め込む際に大切なのは、ほかの歯との兼ね合いなどを含めて、口腔内全体の環境がどうなっていくのか、という点です。
たとえば上の歯にインプラントを入れると、それに対応する下の歯が、硬いインプラントの影響で抜けやすくなることもあります。
診断力の高い医師であれば、インプラントを入れることによって、ほかの歯にどのような影響が出るかを予測することができる。
だから、インプラントを提案されたら、『インプラントを入れてから、5年後、10年後、ほかの歯はどうなりますか』と訊ねてみてください。
インプラント以外の歯に、今後どんなリスクがあるか、どんな治療をする可能性があるかについて答えてくれれば、かなり信用が置けます。それができない歯科医は、その場限りの治療をしている可能性が高い」
ほかに、リスクの高い歯医者を見分けるには、治療を受ける歯科医院の「体制」を確認しておくことも重要だ。前出の天野氏が語る。
「最近は、歯科医の業界でも専門分化が進んでいます。インプラントも専門医の養成が進んできている。
一人しか歯科医がおらず、その人が虫歯治療も、矯正治療も、インプラントも、すべての治療を行っている医院は、相対的にリスクが高いかもしれません。
一人しか歯科医がいない医院でも、インプラントや矯正といった専門的な技術が必要とされる治療の場合は、ほかの医院から専門医を呼んでくるというところもあります。
治療を提案された際に、『インプラントの専門医に治療してもらうことはできますか』と訊ねてみて、医院側がそうした対応をとってくれれば、信頼が置けると言えます」
高いカネを払うのだから、診断力が高く、丁寧に治療をしてくれる歯医者を見つけたい。
「とりあえず削りましょう」と言われたら
「大した歯の痛みもないのに、別の病院で『8本が虫歯で、削る必要がある』と言われ、我々の病院に相談にきた患者さんがいます。しかし診てみると、削る必要があるのはそのうちわずか2本だけでした」(前出の天野氏)
歯医者にとって、虫歯を「削って埋める」作業は、手っ取り早くカネを儲けられる治療行為だ。あくどい歯医者は、削る必要のない歯も削ってしまう。都内で歯科医院に勤める歯科衛生士の女性が打ち明ける。
「私が以前勤めていた歯科医院では、控え室に『ノルマ表』のようなグラフを貼っていました。それぞれの歯科医の先生が、どれだけ診療報酬を稼いだのかを示したものです。
当然、先生方はプレッシャーを感じ、手っ取り早く報酬に結びつく『削って、埋める』治療ばかりを繰り返していました」
歯科健診のつもりで歯医者に行ったら「とりあえず削りましょう」と言われた経験のある人も少なくないだろう。
しかし、削ることのリスクは大きい。一度、歯を削ると、歯に細かいヒビが入るなどして、菌が溜まりやすくなり、虫歯を再発しやすくなる。歯の寿命も短くなる。
だがもちろん、本当に削る必要に迫られていることもある。どう見分ければいいのか。前出の池村氏が解説する。
「虫歯の治療において何よりも重要なのは、病の『元を絶つ』こと。たとえ、歯を削り、患部を治療したとしても、口の中が雑菌だらけのままだったり、砂糖の摂取量が多いなど原因となっている生活習慣を放置していたりしたら、意味がない。
再び虫歯になってしまう可能性が高いからです。削る前にキチンと口内の状態を検査し、生活習慣の指導などをするというのが、正しい治療の順序と言えます」
Photo by iStock
池村氏によると、「削りましょう」と言われた時、「口腔内の検査のデータをください」「虫歯の原因、再発予防法を教えてください」と聞くことが大切だ。
「検査は非常に重要ですが、あまり診療報酬を得られず、検査をしたフリをしている歯科医もいます。求めても検査のデータをくれない、説明をしてくれないといった場合は要注意です。
そのうえで重要なのは、『虫歯の原因』を説明してもらうことです。原因は糖分の過剰摂取なのか、歯磨きの仕方なのか、それとも服薬状況(服薬によって口が渇き虫歯になることがある)なのか。そういった根本的な原因についての説明を避け、すぐに削ろうとするのは問題です。
短時間に何人も削ることでしか利益を得られない、診断力のない歯科医である可能性が高い」(池村氏)
初診で削る提案をされた場合は、断ったほうがいいという歯科医も多い。「削りましょう」には警戒したほうがいい。
いつまでも治療が終わらないときは
「進行した虫歯を抜いた後、『翌日も消毒のために来てください』なんてことを言う歯科医がいますが、再診料と消毒料を稼ぐための口実であることが多い。
翌日消毒しなくても問題ありません。こうした歯科医は、そうやって何度か来てもらっていれば、次に症状が出た際にも来院してもらえると考えているのかもしれません」(前出の林氏)
歯医者を訪れて不可解に思うのが、何度も来院を求められ、なかなか治療が終わらないということだ。診療報酬のために、無用に何度も来院させているケースは珍しくない。
しかし、虫歯が取り返しのつかないレベルで進行している場合など、おおがかりな事態になると、治療はそれなりの回数が必要となる。これも見分けが難しい。前出の天野氏が言う。
「まずは、治療の提案が行われた際に『治療には何回来院すればいいですか。どのくらいの期間がかかりますか』と聞いておくのがいい。
診断力が高ければ、目安を答えてくれるでしょう。治療内容にもよりますが、期間が1年以上かかると言われる場合は、セカンドオピニオンをとってもいい」
都内で働く歯科医はこう打ち明ける。
「虫歯の治療で時間がかかりがちなのは、神経の治療です。場合によっては1~2年かかるケースもありますが、1回につき1時間の治療をすればより短期間で済むところを、診療報酬を稼ぐために30分の治療を2回行うために長引いていることがある。
もし治療が3ヵ月、4ヵ月かかって長引いていたら、『1回の治療にかかる時間を延ばせないか』を聞いてみるといい。時間を延ばしてくれるなら、長期的に見て治療期間は短くなる可能性が高い」
保険診療で時間がかかっている場合、『自由診療の専門医を紹介してもらえますか』と訊ねるのもいい。前出・天野氏が言う。
「自由診療は、値段は高いですが、保険診療で1~2年かかる治療が1ヵ月で終わることもあり、総合的に見れば、治療費が保険診療と変わらないということもある。専門医を紹介してくれる医師は信頼が置けます」
この質問に答えてくれないなら、その後もダラダラ治療が続くだろう。
保険適用外の治療を提案されたら
歯医者で、「保険適用外」の治療を勧められるシーンは、詰め物や被せ物の種類を選ぶタイミングで訪れる。
銀や歯科用プラスチックは保険適用内なので1本につき数千円で終わるが、ゴールドやセラミックなど保険適用外の素材を使うと数万~数十万円単位で費用がかかる。
値段の高い後者の治療ばかりを強く勧められた経験はないだろうか。
「『保険外』のセラミックだけを妙に勧める歯科医がいますが、これは要注意。セラミックは割れやすく、治療する歯の場所などによっては金属のほうがいいこともあります。
保険外のセラミック治療を勧められた場合は、『セラミックと金属の治療、それぞれのメリットとデメリットを教えてください』と聞いてみてください。
もちろん歯科医によっても好みはありますが、セラミックだけを強く推薦する場合には、一度疑ってかかったほうがいいと思います」(前出の天野氏)
メリット、デメリットに関して、とくにわかりやすいのは、その詰め物、被せ物を使い続けることができる「期間」だ。
詰め物、被せ物は、一度つけた後でも、劣化したり、歯からズレたりするため、銀であれば2~3年、セラミックは銀に比べて長持ちするものの、10~15年が経てば交換は避けられない。
しかし、「セラミックはどれくらいの期間使い続けられますか」と訊ねても、「一度つけたら交換する必要がなく、長期的に考えると安い」といった説明をしたり、目安の期間より寿命を長めに告げたりする歯科医がいる。
このような歯科医は、自分の儲けのために、高額な保険適用外の治療を勧めていると考えて間違いない。
Photo by iStock
保険適用外の治療としては、先に紹介したインプラントや歯並びを調整する「矯正治療」もある。いずれも、100万円単位で費用がかかることも多い高額な治療だ。
「こうした保険外診療を勧める歯科医院の中には、経営が切羽詰まっているところもあります。それが疑わしい場合は、『支払いは分割で大丈夫ですか』と訊ねてみるといい。
『割り引きするので一括でどうですか?』などと提案してくる場合は、日銭に困っている可能性が高い。一度『考えさせてください』と言って即答しないほうがいい」(前出の天野氏)
噛み合わせが悪いと言われたら
歯の治療において、「噛み合わせ」が重要であることは、健康意識の高い人々の間ではすでに常識だろう。
「噛み合わせが悪いと、特定の場所に菌が溜まりやすくなり、虫歯や歯周病が進行しやすくなるばかりでなく、偏頭痛や肩こりなどに繋がることもわかっています」(前出の天野氏)
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治療としては、歯に厚さを微細に調整した被せ物をして、噛み合わせを改善していく手法が一般的だ。保険診療なら数千円だが、自由診療となると、10万円以上かかることもある。
自由診療であればかなりの儲けになるので、多くの歯科医は噛み合わせ治療に手を出し、「噛み合わせ治療ブーム」の様相を呈している。
しかし、ある治療が持ち上げられるということは、その治療を悪用してカネ儲けをしようとする人々が現れはじめる、ということでもある。
日本歯学センターの歯科医・三原優子氏が最近の事情を明かす。
「患者さんが歯科医院を訪れる場合、口腔内のどこかの部分に痛みや異変を感じている――つまり『主訴』を抱えているわけですが、その訴えには大して耳を貸さず、すぐに『これは噛み合わせが悪いからだ。まずは噛み合わせの治療をしましょう』と提案してくる歯科医が出てきています。
しかし結局、患者は自分が治療してほしい歯を放っておかれてしまい、困惑するというケースがあるのです」
都内で歯科医院を経営する別の歯科医も言う。
「『噛み合わせバカ』とでも言えばいいのか、何でもかんでも噛み合わせのせいにして、ロクに主訴部分を検査しない歯科医が増えています」
では、こうした歯科医には、どのように質問するのがいいのか。
前出の三原氏が言う。
「まず、『主訴についてはどう治療するのがいいでしょうか』と聞いてみる。それに耳を貸さず噛み合わせの話ばかりする場合は、疑ってかかったほうがいいでしょう。
さらに、『主訴の部分と噛み合わせはどう関わっていますか』と確認しましょう。いろいろ説明をされると思いますが、一つの判断基準になるのは、『左右』の問題です。
たとえば、右の歯が痛い場合、右側の歯のいずれかに噛み合わせの問題があることがほとんどです。右の歯が痛いのに、左の歯の噛み合わせ治療を勧めてくる歯科医とは、警戒して付き合ったほうがいい」
流行っている治療だからといって安易に飛びつかず、よくよく説明を受けたほうがいい。
ケースごとに、「訊ね方」を紹介してきた。どの例にも共通して重要なのは、訊ねたことに対して歯科医が意を尽くして説明してくれるかどうかだ。
これから歯を治療しようという方、現在通っている歯医者に不満がある方は、こうした質問をぶつけ、歯医者の「質」を見極めてみよう。もし質問したことで嫌な顔をされるようなら、即刻、歯医者を変えるべきだ。