志情(しなさき)の海へ

かなたとこなた、どこにいてもつながりあう21世紀!世界は劇場、この島も心も劇場!貴方も私も劇場の主人公!

二冊の詩集『洗面器』と『世界は朝の』

2019-08-03 23:11:40 | 詩、詩集
身近にあった新しい詩集を手にした。ふと朝を描いた二つの詩の差異が単に年齢の差異ではなく、詩に向き合う実存そのものなのだろうか、と「朝が朝」で、異なる朝の空気を感じていた。
          



『洗面器』   林嗣夫              『世界は朝の』 佐藤モニカ
 
 朝                       世界は朝の匂いで

いつものように                  早起きして散歩へ行った                 
暗い四時ごろ目が覚めて              息子を連れて散歩へ行った
布団の中でじっとしていたら               

牛乳や 新聞配達の                外は朝の匂いで充ちていた
バイクの音 庭を来る足音             おろしたてのハンカチのような
そして去っていく                 まっさらな朝の匂いで充ちていた

やがて外の暗闇に
何か かすかな・・・・・・            私たちは鼻をとがらせて歩いた
響きのようなものが満ちはじめる

吹くともない風の始まりだろうか          雨上がりのような 土の匂いを嗅ぎ
生きものたちのささやきかもしれない        みずみずしい 草花の匂いを嗅ぎ
静かな律動に耳を澄ませる             どこかの家からただよってくる 味噌汁の匂いを嗅ぎ

夜が明けると まず気になって
近くの畑に降りてみた               お弁当に用いるのであろう 唐揚げの匂いを嗅ぎ
目も覚める鮮やかなカボチャの花!         焼きたての パンの匂いを嗅ぎ
                         少し焦げてしまった 焼き魚の匂いを嗅ぎ
用意されていたいくつものつぼみが         いれたての コーヒーの匂いを嗅ぎ           
羽化するように割れ                すがすがしい シャンプーの匂いを嗅いだ
天に向かって開いている
遠いものの声を聴こうと              家からまだ十分歩いただけなのに
震えながら受粉を待っていた            世界は朝の匂いで充ちていた



  

  五感が捉える朝、聞こえてくる音、かすかに息づいているもの、震える命、遠ざかっていく音、鮮やかなカボチャの花!
  一方、匂いに充ちている朝、生活の匂いが充ちる朝、多様な匂いに包まれる朝、生活の匂い!
今テレビから聞こえてくる声、中絶したばかりなのに・・・、いろいろな声が聞こえてくる、と女の人がつぶやいている。赤子の泣き声、「命ってなんだろう」と女がつぶやく。
 「人生で一番大切なものは語り合える人がいることだな。俺は絶対的な孤独を生きてきた」とつぶやく声があった!

   *******************
     洗面器

夏は
朝食前の涼しいときに
畑仕事を一つ澄ませる
それからシャワーを浴びると
毎回のように
洗面器に浮かぶ 白い垢

分子生物学によると
わたしたちの体は
絶えまのない分解と合成のさなかにあり
組織は交替し
自分は自分からずれながら
ようやく平衡を保っている、と

危ういような うれしいような
からっぽのような
希望のような

おぬしは見るべし
朝の洗面器に漂う花筏
そこから立ち上がって よろける
一つの影を

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何気ない日常のルーティーンの中にある実存の綾、有から無へ、生きるとは影を道連れにーーー。  



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