Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

記録は消えても記憶は残る

2012年04月01日 | 那覇、沖縄
 3月最後の土曜日、僕の最後の仕事は空っぽの研究室に残したPCのハードディスクの記録を跡形もなく抹消することだった。ディスクを使って初期化が終わるまでの約1時間、ぼくは何もない部屋で、なんとなく首里城を眺めたり、この研究室で書いたたくさんの論文のことや、さまざまな出来事を反芻したりした。反芻することで記憶はより鮮明になったような気がするのだ。
 静かな研究室では、ときどきPCのため息のような「カタカタ」となる音が、妙に部屋に反響するようで不思議な気がした。これまでは壁に張り付けられたように並んだ本が、そんな音をきっと吸いこんでいたんだろう。
 画面には初期化が終わるまでの残りの分数が刻まれていく。45分、37分、21分、16分、7分、1分…、そして画面が変わると、すべての記録は消えていた。なんだか、時をかける少女の主人公のあらゆる記憶が消されて、別人のようになった笑顔を思い出した。
 pcの記録は消えても、僕のこの記憶は残り続けるはずだ。楽しい記憶も悲しい記憶もすべてが…。ぼくはすべての記憶を両腕で抱えているのだからね。もちろん時間とともにそれが少しずつ融解していくことはわかっているんだ。それも楽しい記憶から抱えきれなることも。でも、もう行かなくっちゃいけない。だって自分で決めたのだからね。