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もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

バリの黒魔術

2007年06月26日 | 
 先週の土曜日、神保町のアジア文庫でバリ人作家A. A. パンジ・ティシュナ『バリ島の人買い』を買って、三日間で読み終える。この作家は戦前にバリで出された雑誌Djatayuの編集長で、バリの文化人としてよく知られている。以前、大学生協で注文したときには、すでに版元品切れで買うことができなかった本である。小説はバリの恋愛関係、黒魔術、奴隷売買をテーマにしてもので、原書は1935年に出版されている。バリ人が書いていることもあって、戦前のバリの様子や習慣が小説とはいえ、忠実に描かれているように思える。
 タイトルは「人買い」であり、バリで以前から行われていた奴隷貿易について書かれてはいるが、どちらかというとこの大半は、黒魔術によって男性が女性の気を惹いて結婚をしようとする企てが詳細に描かれている。
 現在のバリではこの手の黒魔術が存在しているのかどうか、たまに友人や学生に聞かれることがある。さて、そう聞かれても回答に困ってしまう。あるのか?といわれれば、きっと「あるに違いない」と答えるしかない。私の周辺のバリ人の何人かは、「この病気は○○の魔術のせいだ」とか、「魔術のせいで△△になった」とまことしやかにヒソヒソと私に耳打ちするのである。また実際に、私がバリで勉強していた人形遣いの先生のところに、人を不幸にするための黒魔術の依頼にきたバリ人に遭遇したこともある。少なくてもバリ人は、「魔術」や「呪術」は「ある」と信じ続けている。
 「それじゃ、日本人もその魔術にかかるんですか?」と学生がつっこんでくる。「そんなこと、知るわけないでしょう?そんなに知りたいのだったら、バリにいって、魔術師を探して「かけて」もらえるようにお願いしてみたらどうですか?」などと面倒になって私は、無責任な発言をする。この本によれば、少なくても恋愛に関する魔術は、魔術師に高額な経費を支払ったところで、一時的な効果しかないようである。だから小説の中では、その精神状態を「麻痺」させた期間に、公的に認知される婚姻関係を築いてしまおうとする。2度目、3度目と魔術を使っても、その効き目は最初ほどではないという。結局のところ、黒魔術の効力は永遠ではない。「ホンモノの恋愛」をしなければ「ホンモノの関係」は築けないということだ。


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