名古屋の神社

名古屋、近郊の行ける範囲の神社の記録

「駅近」神社神社 お引越し(椿神明社)

2019-01-05 00:00:07 | その他

中日新聞 2019年(平成31年)1月5日 朝刊より


南に数㍍ 水平移動

JR東日本が名古屋駅で進めるリニア中央新幹線の新駅工事で、駅西地区の人々が氏神として大切にしてきた名古屋市中村区の神社「椿神明社」の境内が一部、用地買収の対象になる。
社殿をそのまま水平に動かす「曳家」で移し、少し狭くなる境内で歴史をつなぐ見通しだ。
氏子らは「神様のお引越し」に複雑な思いを抱えながらも、新たな潤いの場として整備にとりかかる。 (中野祐紀)
二〇二七年の開業を目指すリニアの駅は、南北に延びる東海道新幹線、在来線と直角に交わる形で、地下三十㍍に建設される。東西約一㌔、幅は最大六十㍍。
地表から掘り下げる「開削工法」のため、新駅の真上は全てJRが買収し、工事現場となる。
 現在の駅の西二百四十㍍にある椿神明社は、一帯が牧野村と呼ばれた江戸時代以来の歴史を持つ。古来、伊勢神宮の神領だった縁で神宮の外宮と同じ神様を奉り、神宮に似た高床式の「神明造」の本殿を構える。約千五百平方㍍の境内のうち、一九五〇(昭和二十五)年に再建された本殿の一角を含む北側四百平方㍍が買収対象になった。
 氏子総代で総責任役員の倉科博之さん(七四)は「ずっと地元で大切にしてきた神様にお引越し願うのは畏れ多いこと」と悩んだが、氏子らの間で全面移転も含めて慎重に話し合った末、本殿を南に数㍍動かし、残る境内で存続することを決めた。「皆さまのお役に立ちながら、恥ずかしくない形で神社を残す方法を探りたい」と倉科さん。拝殿、手水舎も全体的に南へ移動する新しい境内の配置を検討しており、一定の費用をJR側が負担する方向で調整している。
 一色恭暢宮司(四一)は「百年、千年の単位で考える神社にとって、リニア工事は一瞬のこと」と語る。曳家の際は神様を一時的に仮殿に遷座し、訪れる人の参拝を途切れさせないつもりだ。「同じ場所にあり続けることで地元の安心につながる。さらに、リニアでやってくる外国の方に日本らしさを感じてもらう空間にもなるのでは」と、リニア開業後のあり方にも思いを巡らせている。
 JR東海によると、名古屋駅の工事で買収対象の地権者は百二十人。現在、駅西で契約できたのは件数ベースで五割にとどまっているという。


 中部空港の建設時にも遷座

 公共性の高い大規模な開発に関連した名古屋近郊での神社移転では、愛知県常滑市で二〇〇七年、同市で一番古い1200年の歴史を持つとされる梅椙(うすぎ)神社が遷座した例がある。
 愛知県神社庁(名古屋市熱田区)によると、05年に開港した常滑沖の中部国際空港(セントレア)へのアクセス道路整備に伴う区画整理で、丘の上にあった元も境内の一部が道路用地に。約300㍍離れた場所に社殿を新築し、全面移転した。
 神社の境内の形を変えたり、社殿を移転したりする場合は、県神社庁を通じ、全国8万の神社をまとめる神社本庁(東京)に申請する必要がある。リニア工事の概要判明後、県神社庁は椿神明社、JR東海側と複数回協議した。
 「セントレアの時と同じく、公共のため。一番大切な氏子さんたちがご納得され、申請があれば、所定の手続きを進めたい」と話している。