長生き日記

長生きを強く目指すのでなく良い加減に楽しむ日記

530 『裸眼で触れる』

2017-10-10 22:39:39 | 日記
  松本典子第三歌集 短歌研究社2017年9月刊
かりんの女性歌人で、お能関係のお仕事をされているらしい。歌会では的確なコメントをなさるな若い方で、あまりお近づきになることはないなあと思っていたが、夏の全国大会で僕の歌を褒めてくれたので親近感を持つ(現金な奴だ、あ、僕の事)。古典と現代、日本的と世界へのまなざしが違和感なく同居している歌集である。父母の歌、相聞歌もよい。鳥がお好きなのかも。

しめり帯びてふくらむ心の稜(かど)きみが湯ぶねに読める『山家集』かな
そらに舞ふ桜 こころはわたくしの体こそせまき囲ひとわらひ
みずを汲みいひを炊く電気にまさるもの答へられず劇場は閉ざせり
さくら咲きわれは舞ふのみだれもみな代役のきかぬいのち生きゐて
春の塵モップで拭ふひとありて黄を取りもどす点字ブロック
書き上げてなディテールを書き加ふる感に詰めゆく君との日々を
ひなどりら発ちて静まる百舌鳥の巣に孵れなかつた卵がひとつ
きふとけふは違ふから街へ部屋干しのシャツの匂ひに腕くぐらせて
遠からず奇貨と呼ばれて籃(かご)に揺れむ遺伝子組み換へでないはない子ども
たちのぼる香をおもはせて舞へと言ふゆうがほの扇ひらくとき師は
いちまいの扉とおもふわがからだ君のこゑ青く吹き抜けるとき
だれの眼にも触れざりし句誌書架にならび祖母三十年の孤独をおもふ
はぐれたる半身のやうにおひなさま集むる母よ戦時に生まれ
オレンジの拘束衣目に焼きついて立ちすくむ燃える夕やけのなか
シリアから逃れしだれもが持たぬ鍵ひかれりわが家のドア閉むるとき
わずかなる野菜育つる少女の向かう青ぞらと崩れ落ちし建てもの
おもざしを鋭(と)くし稽古を重ねゐむまことの「山姥」舞ふべくきみは
春うらら渋谷の狭き坂をゆくCoca-Colaの赤いラッピングバス

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