長生き日記

長生きを強く目指すのでなく良い加減に楽しむ日記

557 『夕陽のまつり』

2018-03-23 20:49:29 | 日記
曽我亮子第一歌集 2018年3月 ながらみ書房
鎌倉を愛するかりんの先輩女性、たぶん、まだお会いしたことはないが厚みのある人生の歌を詠まれる方。フェイスブック(だけじゃないけど)友達の鹿取さんが跋を記されている。長生き人は夕陽に万感の思いがあるものだ。ますますご健詠ください。

糸洲壕の野戦病院の土を納め父の碑(いしぶみ)完成したり
「生き延びよ」と少女ら壕より送り出し傷兵いだき死にしわが父
ブラックボックス開ける鍵なく混沌の沖縄の空暗く惨たり
腰越の川に潮の遡上して散る桜と舞ふ終の宴(うたげ)ぞ
比企ヶ丘に羊歯鳴り射干の花さわぐ風吹く朝をひとりし歩む
蟬殻を縁の下に集め秘めてゐし吾が幼日を哀しびてをり
ひとときの雲裂け海光きらめきぬテトラポッドを翔つ冬かもめ
ひとり身はかろきと言ふかひとり子と渚をゆけば北風つのる
コロニアル風の古き医院は吾が実家地震に崩れて白蓮溢(あふ)る
対東楼を号せし医師で詩人の曽祖父残しし詩集に紙魚(しみ)のきらめく
夜の更けて岸打つ波の音重くサンマルコの灯火潤みてかなし
母と呼び語り尽くすはいつまでか子は壮年期に入りにけるかも
言語野(げんごや)を損傷したるか弟の沼は深けれ疾く泳ぎ出よ
言葉なき哀しみ抱きて逝きし弟彼岸はことばの大海なるべし
地獄門見つめてをればなみだ垂るいかなる言葉もわれも消えにき
「木犀はどうして一挙に散るのかなあ」雨降る夜半にぽつりと君は
君まさねば誰と語らむこの世の雑事沈黙の一(ひと)日風吹き止まぬ
浜名湖はふかき碧(みどり)にたゆたひて流れゆく水帰り来ぬなり