長生き日記

長生きを強く目指すのでなく良い加減に楽しむ日記

553 『褐色のライチ』

2018-03-16 20:48:48 | 日記
鷲尾三枝子第三歌集 2018年1月  短歌研究社
かりんのベテラン歌人、亡くす人が増えてくる、でもじんわりと生きる下町根性。
多言を要さないだろう。ますます、よろしく、しなやかに、お元気で。

ここにおいで だれの声なり耳すます入相の鐘ながるる吉野
最後まで杖をつかいこなさざり母の負けん気 夏日なつかし
日曜のひとりの家を蝶番締めてまわりぬドライバー手に
秋くれば円谷幸吉かなしめる人がわが夫干し柿食みて
帰り来しゆうべの卓に湯豆腐が肩ぶつけ合うニッポンの冬
ゆうぐれの郵便受けよりはみだせり「チラシ配りのパート」のチラシ
「ここからはしゃべってはダメ」路地おくは無口な井戸が待っております
本郷をそぞろ歩きのうたよみが団子坂にて流れ解散
蒟蒻屋の酸ゆき匂いのかえりくる母訪う道はもう往かぬ道
「上手ひねり」ガクッと膝より崩れ落つ安美錦あな悔しき一敗
母のノートに歌がたくさん「もっと具体を」わが文字の見ゆ
カリウムは多いけれども晩年の母に買いたり鰤のお刺身
愛すべきは女主人の明快さ五枚の毛布アフガンに発つ
   夫、小高賢氏への挽歌の章より
軒端より昨夜の雪の落ちる音おおきくちいさくちいさく とおく
雪の上に降りつもる雪があおく見ゆわれは夫のしら骨だきて
一月の空に張り出す夏蜜柑きみが切り採りわれは手に受く
耳朶ふかくあなたの声をしまいたい青葉の中にとけないように
きみおらぬへやは微塵のふりやすく赤みおびゆくごとき一室
たましいをかんがえるのはずっとさき写真のまえにまた坐るなり