昨日の朝方、母が怖い夢を見たという。
夜、三人組の強盗が玄関から家の中に入ってきて、自分の寝床にやっ
て来た。母は怖いので眠った振りをしていた。男たちは、この家には
何も無いなと言いながら、家から出て行ってしまったという。母はそ
の時、時計を見たら夜中の三時だった。
(二階で寝ている息子の私は、この異変に気づかず、階下に降りて来
てくれなかった。ので、自分から二階へ行こうと思ったが、体がいう
ことをきかなかったとも、夢の続きを語っていた。)
男たちは皆怖い顔付きをしていたという。私は、三人組の顔は誰かに
似ていなかったかと尋ねると、親兄弟・夫・子供・親戚、近所の人々
等々、誰にも似てないという。けれど母は「怖い夢」と言いながら、
思い出しては、何故かどこか愉快そうであった。
私が思い出したのは、昔私の祖母(母の親)がしてくれた戦時中の実話
である。男たちは皆徴兵で戦地へ駆り出されていたので、家には女と
子供しかいなかった。それを知っていて、昼間でも他人の家に勝手に
入って来ては、室内や家人を物色する、見知らぬ親爺がいたという。
我が家は、町工場を経営していた。すなわち軍需に奉仕していたため、
祖父は徴兵されず、他にも工場勤務の男手がいたので、前述のような
親爺は男がいることを見るや、サッと逃げていくのだという。当時の
我が家は、若い頃の祖父と祖母に一人娘の母の、三人家族であった。
母の夢とこの昔話が、どこか呼応しているよう感じたので、母に訊い
てみた。すると、「歯が痛い」と言い出し、話題を逸らそうとするか
のようであるので、私はそれ以上、訊くのをやめた。今朝再度尋ねる
と、戦時中の話と夢は関係ないという。でも、どこか引っ掛かりがあ
るような表情にも見えた。
「夢」の解釈は本人しか判らないものである。本人が解釈について関
連する体験や事実、それへの気持ちや感情を説明してくれないと、他
人は外からでは何も判らないものである。夢は、複数の現実体験等が
重畳的に織り込まれており多義的である。専門の心理学者や精神科医
なら判るとかいう類の話でもない。
母にとって「3」という数字は、家族を表象するものかもしれない。
昨年、同居の父が他界したが、現在の家族も三人であった。ではその
三人が「怖い顔をした強盗」とはどういう体験の絡みだろうか。三人
(=家族)は家から出ていってしまい、自分は取り残されてしまう。が、
二階で寝ている息子(私)を思い出し、傍に行こうとするが、体が動か
なかった。
ここには別離や加虐、自罰や後悔等々、色々な色彩が含まれて感じら
れるが、母が夢を語ることは極めて稀で、この夢は、母自身のトラウ
マの在り様を示しているのかもしれない。しかし、様々に矛盾した観
念や体験が凝縮されて一つの夢として表出された訳であり、ここに心
の落ち着きやまとまりの端緒も、私は感じている。
夜、三人組の強盗が玄関から家の中に入ってきて、自分の寝床にやっ
て来た。母は怖いので眠った振りをしていた。男たちは、この家には
何も無いなと言いながら、家から出て行ってしまったという。母はそ
の時、時計を見たら夜中の三時だった。
(二階で寝ている息子の私は、この異変に気づかず、階下に降りて来
てくれなかった。ので、自分から二階へ行こうと思ったが、体がいう
ことをきかなかったとも、夢の続きを語っていた。)
男たちは皆怖い顔付きをしていたという。私は、三人組の顔は誰かに
似ていなかったかと尋ねると、親兄弟・夫・子供・親戚、近所の人々
等々、誰にも似てないという。けれど母は「怖い夢」と言いながら、
思い出しては、何故かどこか愉快そうであった。
私が思い出したのは、昔私の祖母(母の親)がしてくれた戦時中の実話
である。男たちは皆徴兵で戦地へ駆り出されていたので、家には女と
子供しかいなかった。それを知っていて、昼間でも他人の家に勝手に
入って来ては、室内や家人を物色する、見知らぬ親爺がいたという。
我が家は、町工場を経営していた。すなわち軍需に奉仕していたため、
祖父は徴兵されず、他にも工場勤務の男手がいたので、前述のような
親爺は男がいることを見るや、サッと逃げていくのだという。当時の
我が家は、若い頃の祖父と祖母に一人娘の母の、三人家族であった。
母の夢とこの昔話が、どこか呼応しているよう感じたので、母に訊い
てみた。すると、「歯が痛い」と言い出し、話題を逸らそうとするか
のようであるので、私はそれ以上、訊くのをやめた。今朝再度尋ねる
と、戦時中の話と夢は関係ないという。でも、どこか引っ掛かりがあ
るような表情にも見えた。
「夢」の解釈は本人しか判らないものである。本人が解釈について関
連する体験や事実、それへの気持ちや感情を説明してくれないと、他
人は外からでは何も判らないものである。夢は、複数の現実体験等が
重畳的に織り込まれており多義的である。専門の心理学者や精神科医
なら判るとかいう類の話でもない。
母にとって「3」という数字は、家族を表象するものかもしれない。
昨年、同居の父が他界したが、現在の家族も三人であった。ではその
三人が「怖い顔をした強盗」とはどういう体験の絡みだろうか。三人
(=家族)は家から出ていってしまい、自分は取り残されてしまう。が、
二階で寝ている息子(私)を思い出し、傍に行こうとするが、体が動か
なかった。
ここには別離や加虐、自罰や後悔等々、色々な色彩が含まれて感じら
れるが、母が夢を語ることは極めて稀で、この夢は、母自身のトラウ
マの在り様を示しているのかもしれない。しかし、様々に矛盾した観
念や体験が凝縮されて一つの夢として表出された訳であり、ここに心
の落ち着きやまとまりの端緒も、私は感じている。