塀の上に猫がいます。何かを眺めています。
猫は不思議な動物です。自分の身の回りの変化がとても気になるようです。それで、いつも、見張り番をしています。誰かのために見張るのでなく、ただ、変化が起きないかどうか見張っているようです。
「何見てるの？」
＜…………＞
「何が見えるの？」
＜…………＞
近づいて声をかけても、まだじっと見ています。目線の先は、
道を隔てた広瀬川の流れです。
夏が過ぎて伸びきった大枝垂れの枝先が流水を浴びています。夕日の影が、水面に映り始めています。
塀の上の猫は、広瀬川の水の流れを見てたんです。
＜それよかさ、大変だね、いろいろ…＞
「俺かい？ 大変なことなんか何もないよ」
＜お前のことじゃないよ、アサヒシンブン…＞
「ああ、そうだいね…」
＜間違いをして、反省してこなかったことが、ひとり、アサヒの責任問題でなくて、メディア全体の信頼問題になってしまったみたいだね…＞
「そうだね、何でもそうだけど、自分の問題としてしか捉えることができないでいると、おおきな過ちになっちゃわいね…」
そうなんですよね、『反省』ってことがどんなに大切なことか、感じますよね。
カラスウリのはなです。夏の終わりから秋の初め、日が落ちると花開きます。暗闇の花、純白の花です。
この間、あちこちで萎んでしまったカラスウリの花を見かけていたんです。そいで、そのうち、夜、どこかへ出かけてお花見しようと思ってたんですけど、あれこれしてるうちに９月になってしまったんです。
そうしたらさ、我が家のご近所のお家の塀にカラスウリが絡んでいるのを見つけました。そうそう、前に聞いてました、カラスウリの実を採ってきて、お庭に植えたって…
それで、昨夜、観に来たんです。
不思議な花です。一夜咲いて、日の出とともに萎みます。
この花を私は美しいと思って眺めています。
でも、暗闇に白く、浮かび上がる姿を気味悪いという人もいます。
一つのものを、人はいろいろに受け止めます。花の姿は、人それぞれの受け止め方があっても構わないですよね。むしろ、その方がいいやいね。
けど、それがあってはいけないこともあるのだな、と思いながら見ていました。昨夜は、この花を眺めるのにふさわしくない、シャバ臭いヒゲおじさんでした。
＜どこ行ってきたの？＞、家に戻ると箱の中で寝ていたキキが起き出しました。
「カラスウリの花を観て来たんだよ」
＜写真撮った、あたしにも見せて＞
キキも、カラスウリの花が見たいと言います。
＜わああ～、凄い～…＞
「すごいよね、不思議だいね、でもきれいだろう」
＜うん、きれい、素敵だね…＞
キキと私の認識は共通してました。よかった…
午後の3時過ぎのことです。大学の仕事を終えて帰宅しようと出てみたら、中庭で学生たちが何かしています。
ああ、そうか、総合デザイン工学科の2年生が製作実習をしてるんだ…
一昨日書きましたいね。夏休み返上で、ステンレスパイプとワイヤーを使った造形に取り組んでいるんです。ようやく、形になってきたんですね…
学生たちはチームごとに議論をして、木製のモデルを先ず作るんです。それで、造形の方針と手法などを確認したうえで、みんなで力を合わせて、一つの形を創り出すんです。
ひとりで作るんではないんです。共通の目標と認識を整えて、それから制作に取り組んでるんです。
「ねえ、この長いの、組上げたら立てるの？」
「そうです、立てます」
「こっちが上になるの？」
「そっちが上です」
大学教育は個人を育てる仕事です。でも、個人は一人で生きてけません。組織や地域社会のような人の集まりの中でしか生きていけないんです。
こういう実習は、単に技術や知識だけでなく、組織的な仕事に取り組むのに大事な資質を育ててるんですね…。
＜ねえ、出来上がった作品、見せてね＞
「うん、見せてあげるよ」
＜必ずだよ…＞
キキが、机の脚の陰から見張ってます。
猫は、見張りの動物なんですね…
前橋で日本舞踊の師範をしております、直派若柳流の若柳糸駒です。
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若柳糸駒ア
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