もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ちぃの落書き、首すっぽん 

2018-03-25 14:53:44 | K市での記憶
おじいちゃんも、おばあちゃんも
本家のおじさんも、洋品店やってるおばちゃんも
み~んな、おかあちゃんのこと
「ちぃ」って呼ぶ。

「ちいさなお嬢さん」って
意味なんだって。

おじいちゃんは

「ちぃは賢い。ひとつ聞いたら十悟る」

アタシが屏風の女の人見て
おかあちゃんに似てるって言ったら

「似とらん(きっぱり)」

「ちぃはもっとベッピンじゃ」


ずっと後になって
本人から聞いたこと。

「とにかく叱られた記憶がないわね」

・・・イタズラとか失敗とかしなかったの?

「したけど、怒られなかった」

「たとえば」と思い出す顔になって・・・


「小さい頃、本家に連れてかれたときに
縁側に立派な鉢植えの花があったの」

「オトナは話が弾んでても
こっちは退屈で仕方ないでしょ?」

「面白かったから、お花をひとつずつ
従兄弟の男の子とちぎってたら
木がまるはだか~になっちゃって」


「でね、もちろん見つかった。大人に」

「そしたら男の子だけ怒られて
引っ張っていかれちゃった」

おかあちゃんは可笑しそうに

「なんて言うんだっけ、ドナドナ?
あんな感じで、男の子がこっち見て
助けて~って、顔で言ってた」

・・・笑いごとじゃないと思うけど。


おかあちゃんは何も言われなかったの?
って聞いたら

「言われなかったよ、なんにも。
男の子に、お前が誘ったんやろって」

でも、アレ始めたのわたしだったのよねって
おかあちゃんは澄ましてる。

男の子、可哀想。

「まあね。でも、とにかくそれで済んじゃった」


もっとあるよって顔になって

「お雛さまの首も
いっぱい抜いたっけ」

・・・首、抜くの?

「面白かったのよ。すっぽんすっぽん
あれって簡単に抜けるの」

だからうちのお雛さまの顔は
一段ごとに違ってる筈だって。

「首がなくなると次の買うんだけど
やっぱりヤッちゃうのよね、スッポン!」

・・・はぁ・・・


「でもねえ」と彼女。

「一度フスマに落書きしたときは
失敗だったな~」

「やっぱり本家のお座敷で
新しい真っ白のフスマ見つけて
誰もいなかったし、全部そろって
あんまり真っ白だったから
つい、なんか描きたくなって」

描き出したら止まらなくて
次々描いてたら
本家のオジイサンが
通りかかったんだって。


「それがねえ、オジイサン
まじまじと、描いた絵見てるの」

あんまり時間かけて見てるんで
やめるわけにもいかなくて
次のフスマにも描き始めたんだけど
やがて、おじいさんは背筋を伸ばして
たった一言。

「ちぃは上手やのォ」


おかあちゃんのお父さんじゃなくて
めったに会わないオジイサンが
ほんとに感心した様子で
しみじみそう言ったもんだから・・・

「あ~んな具合悪かったの
後にも先にもなかったわ」


それ以上は、何も言われなかったけど
落書きは、その後しなくなったとか。

さすがのおかあちゃんも
ちょっと気恥ずかしそうな顔してた。


でもねえ・・・


こーゆー話を聞いたのは
アタシが高校生の頃だったけど
正直思った。

「アナタ、ほんとにアタシのお母さん?」

子どもの頃、ほんとに厳しかったから
何かして怒られないように
おねえちゃんもアタシも
あんなにビクビクしてたのに・・・


「今頃になって言うなんて」

おかあちゃん、ズルイ!!!





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ねねの日記・31 ・・・「レ... | トップ | 星空との会話  »

コメントを投稿

K市での記憶」カテゴリの最新記事