眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

ゼン・カウボーイ、90歳 ・・・・・ 『ラッキー』  

2018-08-11 10:02:35 | 映画・本

『ラッキー』というタイトルは、主人公(演じている男優さんは90歳!)の呼び名だけれど、映画の冒頭では(文字の大きさ・デザインを調節しながら) "HARRY DEAN STANTON"  "IS"  "LUCKY" という風に紹介される。

この映画は要するに、その「ラッキー」を演じるハリー・ディーン・スタントンに対する、作り手たち(監督・2人の脚本家)からのラブ・レターみたいなもの・・・と、後でチラシやパンフレットにあるのを見て、「なるほど」・・・。そもそもラッキーという役柄は、最初から、H・D・スタントンの俳優人生と重なるように作られていたらしい。


私は昔から、外国映画に出てくる「オジイサン」たちが好きだ。

『ストレイト・ストーリー』の主人公、『ハリーとトント』のハリー、『小さなピアニスト』の祖父、『世界最速のインディアン』の主人公や『サイダーハウス・ルール』のドクターは・・・まだ60代くらいでオジイサンじゃないのかな?(自分が60代になったら、自分のことはオバアサンと思っているのに、他の人はオジイサンにもオバアサンにも見えなくなった) なあんて、久しぶりにそんなオジイサンたちのことも思い出させてもらった。


映画『ラッキー』のことを、公式サイトからテキトーに引用すると・・・

「神など信じずに生きてきた90歳のラッキー。今日もひとりで住むアパートで目を覚まし、自己流?ヨガを5ポーズ、21回こなした後、着替えて、テンガロン・ハットをかぶり、行きつけのダイナーへ。店主といつものバカ話をして、砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲み、新聞のクロスワード・パズルを解く。夜は夜で、やはり行きつけのバーでブラッディ・マリア(と彼は言う)を飲み、馴染み客たちと過ごす。
そんな日々の繰り返しの中、小さな事件をきっかけに、人生の終わりが近づいていることを思い知らされた彼は、初めて「死」について考え始めるのだが・・・」



長々とラッキーの「日課」を書いたのは、そういった彼の日常風景が映画の大部分を占めていて、何よりラッキーという人の人格そのものに見えたからだ。

映画の中のラッキーは、相当偏屈な人?に見える(^^;

けれど、町の人々からは愛されているのが、はっきりわかる。それは当然で、元アメリカ海軍所属で第二次大戦ではフィリピン、オキナワにも行った?という彼は、決まりごとに従わなかったり、コワモテ風の言動があったりしても、彼なりに高潔で、人が傷つかないようにユーモアを使う術も知っている・・・「悪い人じゃない」以上のものを彼が持っているのに、人々はちゃんと気づいているのだ。


自分の思想・信念ゆえに、他人との間に自分と相通ずるものを見つけにくい人。そんな彼が、たまたま出会った元海兵隊の男性からオキナワの少女の話を聞く場面は、(日本人である私の目には「?」な部分もあるけれど)「天の配剤」だと思った。

メキシコ人一家の誕生パーティーでは、ひとりぽつんと「浮いて」いたのに、突然きれいなスペイン語で歌いだして・・・そのロマンチックな歌詞が、案外スタントンの表情に似合って見えて、私はちょっと感動した。(この歌詞のようなラブ・ストーリーが、ラッキーにもあったのかもしれない)

ラストで同じスクリーンに映っているラッキーと大きな陸ガメとは、「王の気高さとおばあちゃんの優しさを併せ持つ」雰囲気がソックリで微笑ましかった(^^)。



スタントンの出演作を知りたくて、家に帰ってから調べてみた。これだけ俳優暦が長い人だと、私でも何本も観ている(らしい)。

大好きな『ストレイト・ストーリー』(デヴィッド・リンチ監督作。『ラッキー』には印象的な「親友」役で出演もしてる)で、スタントンは主人公の兄を演じていたと初めて知った。(そう言われれば確かに彼だ)

最近TVで放映していたポール・ニューマン主演の『暴力脱獄』(1967)では、スタントンは囚人の一人だけれど、労働が休みの日にはギターを弾きながら歌うような役柄で、その優しげな風情ときれいな声に、もう一度驚かされた。


彼の主演作という『パリ、テキサス』を、観たことがないのが残念でならない。(上映当時(1984?)話題になっていたけれど、私は映画を観られるような環境に居なかったし、その後も家で観るような機会はなかった) いつか絶対観ようと思う。

スタントンは生前、「仏教徒じゃないけれど仏教に親和性のある感覚を持つ」とかで「ゼン・カウボーイ」と呼ばれたりしたんだそうな。(さもありなん) いかにもキツそうな撮影(強い陽射しとか)で寿命が何年か縮んだ??としても、最高にカッコイイ遺作になったんだから、いいよね!!(当分の間、私にとっての「オジイサン」ベスト1になりそうデス(^^))



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