眺めのいい部屋

人、映画、本・・・記憶の小箱の中身を文字に直す作業をしています。

2007年に観た映画  (オフシアター日本映画編)

2008-01-13 12:41:22 | 映画1年分の「ひとこと感想」2006~
オフシアターの日本映画というと、毎年1月に県立美術館で、土日や祝日に連続して何週にもわたって行われる、ある監督の作品を網羅するかのような特別な「映画祭」から始まる。

去年は没後50年企画ということで、溝口健二の作品20本が上映された。私は1月は体調が非常に悪く、どうしても観に行くつもりだった『近松物語』さえ観られずじまいになって、今でも残念で堪らない。欲張っても仕方が無いのだけれど。

実は高知の自主上映は、最近日本映画が多くなってきたということで、去年は外国映画の2倍近い作品が上映されている。私は外国映画の方が元々好きなので、オフシアターでも映画館でも、外国映画を観ることの方が多い。

それでも、日本映画は映画館でより断然オフシアターで観ているのに、自分でも驚いた。外国映画以上に、日本映画では特にシネコンとオフシアターでの上映作品の違いが大きいのかもしれないと、改めて思った。

という訳で、今年も来月初めに「2007年オフシアター・ベストテン選考会」が開かれる。2006年の時より、特に日本映画は観てない作品が多いので、何が1位に選ばれても初めて観る作品になりそうで、今から楽しみにしている。(外国映画と日本映画の1位に選ばれた作品プラス高知未公開で面白そうな作品1本が、「無料」!で観られる上映会が、後日開催されるのだ。朝日新聞の太っ腹!と、選考会・上映会を主催される、熱心な映画好きの方たちのお陰で、私のような一映画ファンが楽しませてもらえる、幸せ一杯な企画だといつも感謝している。)



【オフシアターで観た日本映画から】(最初5本が「溝口健二映画祭」より)

『残菊物語』  私などは、「CGの無かった時代のセットって凄い! ほんとにこんなモノ作ったんだ~」などという驚きから始まる。主人公二人の純粋さも、物語の古風な悲しさも、何もかもがきちんと調和していて、丸ごと一つの世界、観ること自体が「一つの体験」だった。

『元禄忠臣蔵』  これも、原寸大という「松の廊下」に驚く。「討ち入り」のシーンが無いということにも。地味なのか派手なのかワカラナイ独特の「忠臣蔵」で、私は寧ろ気に入った。

『歌麿をめぐる五人の女』  江戸の風俗を見るのが楽しかった。(こういう着物の着方は、今の時代劇ではまず見ることがないと思うので。)田中絹代さんの年増ぶりも素敵。

『お遊さま』  谷崎の「蘆刈」が原作というけれど、私にはなんとなくチグハグな感じに見えた。もしかして、こちらは絹代サンがミス・キャストなのかしら・・・などと、後からふと思ったくらい。

『西鶴一代女』  女性のこういう人生を、私は見たいのか見たくないのか、自分でもよくワカラナイ。どこかで非常にヨクワカル気もするので、余計に困る・・・って感じかも。それくらい、監督は女主人公を徹底的に不幸にしようとするし、当の女性は負けるものかと更に自分から汚れていく?ように見えて、監督と女優との闘いを見せてもらったような印象が残った。


『幸福のスイッチ』  上野樹里サンの不機嫌な顔は、意外に彼女に似合って見えて、これまで見た中で、一番自然な樹里サンのような気がする。(父親役のジュリーの方は、正に「今も昔もあのジュリー」で、なんというか・・・面目躍如!?)

『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』  これもポスターやチラシが美しい。もしかして「音」が無ければ、この映画はこういう美しさなのだろうか・・・なんて、ふと考えてしまったくらい。作品の方は、とにかく「音」の洪水が凄まじい!!のだ。ただ、そんなノイズィーな音楽も、じゃあ本当にイヤかというと、少なくとも私には「微妙・・・」。耐えられるギリギリの、それでも確かに「音楽(の美しさ?)」と感じさせるものがあり、なんだかとても珍しい映画を観た気がしている。

『六ヶ所村ラプソディー』  「再処理工場反対の立場を今も変えていない」人たちの日常を、淡々と描いているように見えて、実はこれは本当にオソロシイ現実なのだということをヒシヒシと感じる・・・そういう映画。(原子力の話はいつも、そうなんだけど。)

『パビリオン山椒魚』  香椎由宇サン、いいな~。オダギリ・ジョーの役は、J・デップだったらもっと面白いんじゃないかな~などなど。

『かもめ食堂』  とてもたくさんのお客さんで、昔の映画館を思い出すような雰囲気の中で観た。作品自体も、とても気持ちよく出来ていると思った。にもかかわらず、どうして自分はこの映画が「ちょっと苦手」なんだろう。こういうもっともらしさ?(と私は感じる)が、昔から私は好きじゃない・・・。こういう「男の人たちの影の薄さ」のような雰囲気も含めて。(この監督サンとの相性は、あんまり良くないかもしれない・・・という予感も。)

『鉄コン筋クリート』  色彩の美しさも含めて、映像としての技術の高さに眼を瞠った作品。当時エネルギー不足気味だった私にとっては、ちょっと刺激が強過ぎそうで、パスしようかな・・・とも思っていたけれど、実際に見て「いたたまれなくなる」ほどツラク感じないのも、この「絵」の美しさに負うところが大きかったと思う。ただ・・・私の眼には「内容が負けてる」ように見えてしまうのはなぜなんだろう。私はアニメーションにどれほどのものを期待しているんだろう・・・と、後から逆に考え込んでしまった。

『選挙』  この映画は、日本の選挙風景を見たことがない人には、とても面白い(ショッキング?)だろうと思う。外国で上映して話題を呼んだというのはよく分かるんだけれど、私自身は途中から観ているのが苦痛になった。ふと、(私は決してファンではなかったけれど)伊丹監督が「お葬式」ではなく「選挙の手伝い」?をしていたら、一体どんな映画を作っただろう・・・などと考えたりしたくらい。ただ、私は元々人を見ているのが好きなので、どんなに退屈な映像でも、2時間ある人の顔を見ていたら、その人がどんな人なのかをいろいろ考えて、それだけで楽しい(だろうと思う)のに、この映画の山さん(立候補者)は2時間たっても金太郎アメみたいに「同じ顔」にしか見えなかった。「可愛い」、「痛々しいほど純粋」、「驚異的な打たれ強さ」などと「賞賛された(チラシより)」というこの人って、一体何者??という疑問が、もしかしたら一番強く印象に残ったことかもしれない。

『日本の青空』  最近観た映画の中で、最も「勉強になった」映画。ちょうど改憲が話題になっていた頃で、日本国憲法の出来上がる過程を、誰にでも分かるように(しかもあまりメディアには取り上げられない気がする部分まで)丁寧に説明してもらったと思う。

『風音』  私は沖縄を、今でも異国と感じているところがあるのを、こういう映画を観ると再確認させられる気がする。あの戦争についても、それ以前からの(例えば薩摩による搾取・・・といった)「本土」との関係についても、私は大して知らないくせに。(それとも知らないからこそ?なのだろうか。)オキナワ出身の両親を持つ大阪育ち・・・といった知人を外国人と思うわけではないけれど、鹿児島出身の両親を持つ岡山育ち・・・といった人でさえ、どこかに「薩摩(日本の中でも特殊な文化風土の土地だと思うことがある)」を感じさせることを思うと、背負っているモノが私などとは違うような気がしてならない。

『不滅の男 エンケン対日本武道館』  遠藤賢司をかつてのフォークソングでしか知らなかったので、文字通り度肝を抜かれた。(「脚本・監督・音楽・主演 遠藤賢司」で、しかも「無観客ライブ」?って、どんなものか見当もつかずに観に行ったのだけれど、どんな想像をしていたって外れたに違いない。)とにかく「パフォーマンス」と言う言葉は、こういう時に使うためのものなのだろう・・・と。(そして、ここまでやれたら「パフォーマンス」という言葉に値するのだろうと。)

『レフト・アローン第1部』  映画の中でも「保守」を自称する西部邁サンが非常に話上手で、それに助けられて、68年当時は中学生でニューレフト運動など全く知らなかった私でも、最後まで面白く観られたのかもしれない。(「当時はきっと、優秀なアジテーターだったんだろな・・・」などと、後からアンケートに書いてしまった。)序盤のソ連の写真は衝撃的。ただ私自身は、新左翼についてよりも、むしろもっと普遍的な「人間」や「歳月」について、考えながら見ていたと思う。

『海でのはなし。』  映像と音楽が互いに邪魔し合っているのが残念。(私は、スピッツも主演の2人もとても好きなので、途中から、珍しくもちょっと腹が立ってきた?くらい・・・。)

『草の乱』  私は「秩父事件」のことをほとんど知らないので、会場が近いこともあって、軽い気持ちで観に行った。しかしこの映画は、私にとっては思った以上に「勉強」になり、また映画としても(単なる教育映画?のようなものではなくて)新鮮なところのある作品だったと思う。教科書に載っているような、歴史上の「有名人」はどちらかというと悪役?で、メインは名も知らぬ人々の群像劇。とにかく、「ついこの間まで『江戸時代』で、まだ議会制度も始まっていない頃の、以前も今回も『薩長と戦う側』になった人々」の話を、私は映画でもTVドラマでも、あまり観た記憶が無い。しかも、この映画の作り手は、当時の状況といまの日本の社会状況が重なっていることを、強く意識している・・・。当時の住居、室内の調度、人々の衣装から武器弾薬にいたるまで、時代考証が行き届いていて、穏やかな色彩とも相俟って、作った人たちの力の入れようが感じられ、エンディング・ロールに「ボランティアエキストラ8000人」という文字を見つけた時には仰天した。

『赤い鯨と白い蛇』  以前に観た『紙屋悦子の青春』に似たテンポの作品。ただ、こちらは「戦争」よりも、寧ろさまざまな世代の「女性の人生」の方が前面に出ている気がする。(女優さんたちがそれぞれ好演。)実は、残念ながら私にとっては、(作品自体よりも)舞台となる旧家の佇まいから、初めて個人的なフラッシュ・バックのようなものを体験して驚いたのが記憶に残る。(ほとんど50年も前のことなのに、鮮やかに私の中で生きているようで、幼い頃の記憶というものの生々しさにゾッとした。)・・・・・ここまで書いて、漸く気がついた。この映画は「昔の、でもとても大事な記憶をなんとか思い出したい」という70代女性の強い想いが、物語の大きな流れになっていて、作品全体に「遠い昔を振り返ろうとする」雰囲気がある。テンポがゆっくりなことも手伝って、私はぼんやり自分を映画の中に開放しきって、観ていたのだろう。そして、ストーリーを追う必要性が殆ど無いため、寧ろ自分の記憶の方に捕まりかけたのだと思う。それにしても、一瞬、映画の中に(気体にでもなって)散ってしまっていた自分を、大慌てでまとめて現実に引き戻すなどという作業をしたのは初めてだった。あの女性は60年ほども前のことを思い出そうと一生懸命だった。わたしが50年前に連れ去られようとしたのも不思議ではなかったのかもしれない。そういう特別の雰囲気のある作品だったのだろう・・・と。

『NARA:奈良美智との旅の記録』  「アーティストたちの視点と肖像」という、「アーティストたちの創作の秘密」を探るドキュメンタリーを集めた、県立美術館主催の特別企画の中の1本。奈良サンという、いかにも現代の日本でこそ現れるだろうと思われるものを感じさせるこの画家(というより、正にアーティスト)の、独特の「口数の少ない雄弁さ」をよく捉えていると思ったけれど、それ以上に本人の描く「絵」の物語るモノの方が、私の眼には大きく写った。

 (以下の5本は「オフシアター・パラダイス」で上映された作品)

『秒速5センチメートル』  「絵」の美しさだけでも、1時間見惚れてしまう作品。桜の花もそうだけれど、特にあの雪は、私の「記憶の中にある雪」と同質の美しさを感じさせた。普段、実写の映像で見る雪は、不思議なことに私には、どれほど美しく撮られていても「記憶の中にある雪」の美しさには及ばない。これが、アニメーションの抽象性とでもいうべきものの良さなのかもしれない・・・などと思いながら、なんだか呆然と観ていた。ストーリーの方は、いっそ『時をかける少女』に感じた「オジサンオバサン」?的センスが混じっていないことに、私は好感を持った。こういう、ある種のめめしさ?とか他愛なさ、センチメンタリズムのようなもの(語彙が不足で、上手く説明できない)は、もしかしたら昔々から、日本の文化の中に脈々と続いてきたもののような気もして、私にとってはそういう意味でも考えさせられるものがあった。同じ監督の『雲のむこう、約束の場所』を以前観られなかったのが、改めて残念。

『すきまの時間』  以前観た『赤ぱっち』の監督のビデオ作品。もうすぐ3歳という主人公の女の子の目線で「初めてのお留守番」が、とても丁寧に撮られている。ただ、同じくらいの年齢の頃、やはり「初めてのお留守番」をして、母の姿が消えた途端わーわーと狭い家の中を、最初から最後まで泣きながら歩いた私としては、つい、これはリアルじゃないな・・・などと思ったり。(本当に1人っきりだったら、撮影できないんだから、当たり前なんだけど。そもそも、そういうことは作品とは関係ないんだし。でも・・・ちょっとイジイジ?)

『Vagueness 3cm』  手法を試した?美しい習作。これを、実際にはどういう風に使うのかな~。

『竹やぶ遊び』  竹やぶで、私も「目隠し旅行」を、それも大勢でやったことがあるのを思い出した。(あれは不思議な感じだったな~。)

『ワタシの王子』  表現したいことがあるからこそ撮っている・・・という迫力と、観る者に対する親切さ(が、実際必要な内容なので)の両方を感じた。だからこそ、私はこれを撮った人とは全く違う感覚の人間だと思うけれど、それでも、これはこれで「作品」として面白いと思ったのだろう。


『あしたの私のつくり方』  女の子2人が、それぞれ違った個性で魅力的。私は『神童』のせいで成海璃子サンがちょっと苦手だったけど、この作品ではその大人びた容貌と演技力が噛みあって見えて、好感を持った。(見逃してしまった『きみにしか聞こえない』を、いつか観たいと思う。)ストーリーについては、上映直後のアンケートに「ちょっと説明しすぎだと思う。でも、これは若い人に観てもらいたいと作り手が思っている作品のように見えるので、そのためにはこれくらい『誤解の起きないような説明のしかた』をしておかないといけないのかもしれない・・・。」などと書いた記憶がある。全編通して、今の若いひとたちのデリケートさ、日常的な人付き合いの難しさ!が繊細に描かれていて、携帯というツールの力、その持つ意味合い?などについて、ン十年「引きこもって暮らしてきた」私には、なんだかため息が出るようなシーンの連続でもあった。ただ、この監督の作品としては、今まで観た中で一番好きだと思う。(『トニー滝谷』も『あおげば尊し』も、私はちょっと苦手。もっと前のを観ないといけないのかも。)








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2 コメント

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すごい量ですね~。 (chon)
2008-01-20 02:56:20
知らない映画ばかりですよ~~~。

あ「かもめ食堂」だけ観ましたが。
あれは、舞台がフィンランドってことだけで観て、それだけで私には充分だったので、後で小説(映画を作るために書かれたらしいです)を読んで、「何だかなぁ・・・。」と思ったのを思い出しました。
そして同じ監督さんの「めがね」を観て(シネコンでやってました)、たぶんムーマさんのおっしゃる影の薄さみたいなものが、「めがね」ではただ一人を除いて、殆どの登場人物に感じられたこと思い出してます。
私はよっぽどの事がないかぎり、映画を観に行く事をしない人間なんですけどね~。「めがね」は、観なくてもよかったなぁと思いました。(期待した私が馬鹿でした(^_^;))
ーーーーーーーー
自主上映映画があるってことは、ほんとにありがたいですね♪
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ほんと、高知の自主上映ってスゴイ! (ムーマ)
2008-01-20 12:33:38
chonさん、ここも見てくださったのね。ほんとにありがとう。(自分の観た作品を探すだけでも面倒・・・と思います。)

それにしても、高知(というか、ヨソを知らないのですが)の自主上映に、私もとっても感謝してます。私なんかが観たいと思うような作品は、シネコンではなかなか上映してもらえないというか・・・。(あたご劇場サンが『ミリキタニの猫』を上映して下さって、嬉しかった~。) 

お嬢さんの映画選びのセンスと情報は、私よりずっと正確!という気がするので(本当)、どうぞまた一緒に観にいらして下さいね。普段は映画館にはあまり行かないっていう方の感想を読んだりすると、すごーく新鮮で、私はいつも、映画を観るシアワセが倍になるような気がします。
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