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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー幽霊屋敷9

2009年04月17日 | 投稿連載
 幽霊屋敷 作者大隅 充
      9
僕がライトの明りをその小箱に当てると、それはべっ甲や
琥珀で飾られた綺麗なウルシ塗りの小物入だった。
「これ。キレイだったからさ。」
と秀人は、女の子みたいに小指を立てて箱を開いた。する
とその中には、大きな真鍮のキラキラ光る鍵が出てきた。
「何?」
「何かわからないけどキレイだったから・・・さあ。それ
よかここから早く出ようよ。」
「ちょっと待って。これって二階の書斎の鍵かもしれないぞ」
タツヤ兄ちゃんは、その鍵を手にとってクイズ番組で一番に
正解がわかった解答者みたいに自信たっぷりに発表した。
「何?それ。もういいよ。早く帰ろう。」
秀人が鍵を早いとこ小箱に仕舞おうとタツヤ兄ちゃんの手の
中から取り返そうと手を伸ばしたが、簡単によけられて作業
ズボンのポケットに収められてしまった。
「ちょっと預かっとく。」
そう有無を言わさずに宣言してタツヤ兄ちゃんは、サーチラ
イトで階段から二階の天井へゆっくりと照らしてこの幽霊屋
敷の今日のアトラクションは、何だろうと通いなれたディズ
ニーランドのホーンテッド・マンションの常連客のようにし
げしげと落ち着いて屋敷全体を眺めて穴の開いた床の周囲を
ぐるりと歩き出した。
「兄ちゃん。もう夜だから・・もう帰らないと・・家でみん
な心配してる。」
ぼくが兄ちゃんの後をついてそう言うと秀人もそうだ、そう
だと穴の周りをぐるぐる回る大小のライトの明りを眼で追い
ながら叫び声に近い高音で合いの手を入れた。
「うーん。そうだよ。お前らの父ちゃん母ちゃん、もう八時
だべ。心配してるよな。黙ってシューパロさ来たっけが・・・」
立ち止まって僕も秀人も大きく頷いた。
「まあ。でもよ。せっかくここまで来て、幽霊屋敷の一番の
謎の、開かずの書斎さ見ねえで帰るのもモッタイないべ。」
タツヤ兄ちゃんは、階段の欄干の前で振り返って言った。
「えええー・・・」
秀人は、明らかに不賛成のブーイングを漏らした。
「いやぁ、あのー、モッタイないとかないです。噂の幽霊屋
敷に入っただけでもういいです。はい。」
一生懸命兄ちゃんを説得しようと僕も早口に意見したが、大
きくため息をついてニヤリと笑うとタツヤ兄ちゃんは、階段
を手すりを頼りに昇りだした。
「お前ら、勇気出してシューパロの幽霊屋敷にせっかく来た
んだ。もうちょっとだけ頑張ろうぜ。この鍵合うかどうかだ
けでも確かめてから帰ろうお。なあ!」
あの・・・・兄ちゃん・・・・
僕らは、何を言おうがこの場面でタツヤ兄ちゃんに従わなけ
れば生きていけない無人島に難破船で流れ着いた子羊のよう
なものでタツヤ兄ちゃんの大人の存在と又闇の中に取り残さ
れるより昼のように赤々と照らしてくれるサーチライトの頼
もしい明るさとに従順に従って、埃だらけの階段を二階へ上
がった。
とにかく道を照らしてくれる明りを持ったタツヤ兄ちゃんの
お尻にぴったりとくっ付いて僕と秀人は、離れなかった。
もしここの幽霊が見ていたら深海のちょうちんアンコウが長
い尻尾を振りながら泳いでいるみたいに思われたかもしれな
い。
できれば早く兄ちゃんの望むミッションが終わって今度は帰
りのシューパロの森の道をあのライトで照らしてほしいと切
に僕は願った。

 二階は、いくつかの部屋があって真ん中に広めの廊下があ
った。そしてどの部屋もドアが破れたり、外れたりしてその
各部屋の中の月明かりが窓を通して廊下へもれていた。
タツヤ兄ちゃんは、その二階の部屋には眼もくれずまっすぐ
廊下を歩いて突き当たりのバルコニーのある所まで行った。
「ここからヨッチンは落ちたんだ。」
とガラスのない窓から外のバルコニーへライトを照らして言
った。
僕は、窓枠のガラスの破片がギザギザに残っている桟に注意
して指を置き外を覗き込んだ。
「本当だ。バルコニーの手すりが壊れいる。」
「まあ。ヨッチンも下が果樹園でよかったよ。ブドウの木が
クッションになって足折るだけで済んでよ。」
「よく一人で来たね。ヨッチンー。」
秀人がぴったりと僕の肩にくっ付いてか細い声を出した。
ライトに照らされた紫の葉の生い茂ったブドウの木がいきな
り暗闇の黒で塗りつぶされた。
ああああーと僕と秀人が悲鳴をあげると、こっちだ!とタツ
ヤ兄ちゃんは、サーチライトをバルコニー下から廊下の天井
に移して次のミッションへ僕らを誘導した。
ライトに照らされた廊下の右側には、小さめのクモの巣だら
けの階段が続いていた。
「この上は、実際は中二階なんだ。あの昇ったところにある
扉の向こうが開かずの書斎だ。」

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アニバーサリー~シーちゃんのおやつ手帖91

2009年04月17日 | 味わい探訪
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