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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
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カード図鑑1の登場

2010年09月03日 | 食玩小物
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さすらいー森の王者2

2010年09月03日 | 投稿連載
森の王者 作者大隅 充
                   2
そういえばいつも母から聞かされた話がある。これ
だけは、おまえに伝えたい。おまえがこの先どんな
めぐり合わせがあっても、又どんなつらい目にあっ
てもおまえは、オサの子孫だということを知ってい
てくれとぼくたち兄弟に夜話で語っていた。
  母が生まれたのは、北の岩山だった。そしてその
岩山は豊かな森の上にあってなぜかその岩肌だけは、
冬でも雪が積もらなかった。
母は、この岩山の森が人間に開かれる前。母から
数えて三十代遡る頃、オサという偉大な男がいたん
だよと月明かりの下でぼくたちに語った。それは、
お祖父ちゃんのお祖父ちゃんの又又又・・お祖父ち
ゃんになるんだけれど、チャータ、おまえの大きな
黒目と丸い鼻の形はそのオサ譲りで可愛い割に目も
鼻も中心に力が漲って少し尖ったように見える。人
懐っこく見えて鋭い。その違いを知ると可愛いから
と侮れなくなる。そのまっすぐでいつも真実を見つ
めた瞳は、聡明な少年みたいだという。だからその
おまえたちの中に秘めた不思議な力はみんな、あの
広大な北の大地を駆け回った優しさと強さを合わせ
もった森の王者オサの血から来ているんだよと母は
重ねて言う。それこそオサの目は他のどの生き物と
も違って、危険が迫ったときには、その黒目が一瞬
にして薄いブルーの鬼のような目に変わってどんな
巨大なヒグマでも倒してしまう迫力がその目にはあ
ったと今見て来たように母は語る。
それは、まだこの大地が森が森として誰も逆らう
ことができなかった時代。岩山の群れを引き連れて、
台風も山火事もヒグマや毒虫もオサの指示どおり動
けば群れの誰一人も脱落者はなく、見事にその危機
をくぐり抜けてしまうそんな賢くて勇敢な能力をオ
サというおのこは、持っていた。まるでサムライの
鑑のような存在だったという。
生態系の頂点にオサの群れがいた。一族と群れの
赤子まで誰もが、オサの鼻の向く方向に従い、お互
いのつまらない争いもやめ、慾をかき過ぎた者は思
い直し、オサが示す道へ又戻って行った。それほど
にオサのことは最高の指導者としての全幅の信頼を
誰もがよせていた。
しかしそのオサが生まれたのは、この雪知らずの
岩山よりさらに10キロ北の地獄谷という火山の麓
だった。ちょうど明治という時代がはじまってまも
なくした頃。アイヌ人すらそこには足を踏み入れた
ことのない太古のままの自然だった。のちに人間が
銃を持って入り込んで来てオサの一族を殺戮をする
前の平和な時代だった。俗にエゾオオカミと人間は
彼らのことを呼んでいた。
四匹の兄弟の二番目がオサで長男がカイと言って
少し知能が遅れていた。後の妹と弟は一才になる前
に死んでしまった。オサの父母は、まことにまじめ
な働き者で群れの指導者ではなかった。このときの
指導者はシンと言って力は強かったが気が弱くて頼
りなかった。火山の噴火は激しさを増してシンの群
れは100頭にもなって南へ逃げた。雪知らずの岩
山に辿りつくまでにその半数が脱落して谷底へ落ち
て行ったか、ヒグマの餌食になった。シン自身が老
齢で地獄谷を抜ける直後に倒れてイオウ谷に折れた
脚を引きずって自ら身を投げた。オサの家族では、
父母は真っ先に火山の噴火の火の粉を浴びて焼け死
んだ。残ったのは幼いオサとカイだった。カイは普
段から知能が遅れている上に脚が不自由だったので
誰からもうとまられて苛められていた。たえず群れ
には入れずひとり除け者にされていた。そんなこと
だったので弟のオサが元気づけても呼びかけてもカ
イは牙を剥いて拒んで群れから離れ、イオウ谷にひ
とりで残ってしまった。おれは、狩りもできないし
共同生活もできない。このイオウ谷に脚を滑らせて
谷にはまるエゾジカやキツネを蜘蛛の巣のようにた
だじっと待ってその死肉を食べて暮らすよと決別の
別れをした。オサは泣きながらカイの尻に噛みつい
たがカイは振り払ってイオウ沼の浮草に飛び乗って
底なし沼を漂った。オサは、どうしようもなく群れ
の後を急いで追った。そしてちょうどイオウ谷を越
えた枯れ木山峠をオサが群れと一緒に下った時、イ
オウ谷の方からカイの切ない遠吠えが聞こえた。オ
サは泣きながらその遠吠えに呼応したがやがて聞こ
えなくなった。
オサは一年かけて少なくなった群れの後について
この雪知らずの岩山へやって来た。そしてここでヒ
グマを追い出し、エゾシカを主にエサとして群れが
ひとつにまとまるように一つ一つ秩序をつくってい
った。
オサが四才のとき群れは彼をリーダーに押し上げた。
それはオサという太陽の輝きの始まりだった。
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