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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

ルタオ~シーちゃんのおやつ手帖112

2009年10月23日 | 味わい探訪
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さすらいー地球岬 13

2009年10月23日 | 投稿連載
地球岬 作者大隅 充
        13
アルコールを打たれてオレは、線路に寝かされる。
死に方はどうでもいいけど、最後に見たものが液晶テレ
ビの画面だったのが悔まれる。まあ、今更言っても仕方
ないことだけどこの世の最後は、テレビのサッカー中継。
つまらない人生にもってこいかもしれない。オレはその
程度の価値のない奴だった。
誰からも愛されず、いつもノケモノにされて親の愛情も
知らず友だちもなく、冷たい水にはアカギレがして、血
が滲んでいると少しは自分も人間なんだと安心する。オ
レは、あの夕陽に群れ飛ぶ海鳥になりたかった。少なく
ともあいつらは、帰る巣をもっている。住む所とか、金
があるとか関係ない。番屋の子ってバカにされることも
ない。
オレは、どうしようもないカスだったけど、最後はテレ
ビ画面なんかじゃなく母ちゃんの顔だったらよかったの
に・・・・
 真っ暗になった。何も見えないが最後の最後に後頭部
が冷たい鉄の線路にコツンと当たる感触があってオレの
人生はパチンと切れた。
     * * *
 白い鳥が空を飛んでいる。
青い空をオレは、泳いでいる。
綿のような雲が足元を掠めていく。
なぜかミッキーマウスがオレに手を振っている。暖かく、
柔らかな光に包まれてすごくいい気持ち。レースのカー
テンから涼やかな風が吹いてくる。そして女の笑い声。
 これがオレの人生最初の記憶だ。どういうわけかこの
空を飛んでいる感覚だけは、すごく鮮明に残っていて、
幼い日の一番はじめの映像がいつでもこれだった。暗い
押入れの中で泣き疲れて寝入ったときも、東京のアパー
トの誰もいなくなった昼間寝転んだ三畳の畳の上でもい
つも同じこの飛行の記憶が甦ってきた。
 あれはなんだったんだろう。この懐かしくて唯一幸せ
な浮遊している感覚。どうしてこんな断片がオレにはあ
るのだろうか。もしかしたら本当にオレは昔々鳥だった
のか。と不思議だった。それがオヤジをやって飛び乗っ
たスーパー特急カムイの夜行で真っ暗な車窓に映った犯
罪者の自分の顔を眺めていてふと気づいたことがあった。
それは、赤ちゃんのときの布団だった。一番最初の記憶
がベッドで寝かされていた時、おそらくオレは赤ちゃん
で母親がかけてくれた青いミッキーマウスの絵の入った
掛け布団だったのではないかとあのとき思いついた。
たしかダンボもいて空をミッキーと飛んでいるような図
柄だったような気がする。なぜそれを思い出したか、と
いうとオヤジと過ごしたサロベツをいよいよおさらばす
る段になってあの、幼稚園に上がる前の番屋での生活が
ふうっと甦ってきたのだ。そしてその番屋のあった浜で
寝小便して干していた布団が確かミッキーの青い布団だ
った。
 なぜかサロベツへの決別があの浜に干していた青い布
団と直結していた。その後この青い布団は捨てられたの
か小学生になる頃にはもう家にはなかった。たぶんオヤ
ジが温泉宿へ番屋から引越した時に焼いたか廃棄したん
だと思う。
 ただ今となればあの布団が母さんとの最初で最後のつ
ながりだったのではないだろうか。
青い空の絵の布団の中から天井に吊るされた紙飛行機。
まだおっぱいしか飲めないオレが吸いダコのついた唇で
笑っている。母さんがオレの小さな指をつまんで笑って
いる。風がレースのカーテンからひらひらとそよいでい
る。
何か母さんが言っている・・・・何かオレに優しく語り
かけてくれている。
そこでいつも記憶の映像が途切れて音と感覚だけになっ
てしまう。もう少しで母さんの顔が見えるところで必ず
再生不能になって終わってしまう。
 しかし今回は違う。母さんのカタチのない声が、優し
くオレに降り注いでくる。しかもオレの胸を坊や起きて
と撫でている。オレは心地よく眠っていたがだんだん苦
しくなってもがき出す。やがて母さんは、オレの口にキ
スをする。それも執拗に長く。熱く柔らかい感触が歯と
舌に纏わりつく。オレは、我慢出来ずに母さん!と叫ん
でしまった。
ワンワンワン・・・・
仔犬がオレの口を必死で舐めていた。
重い体をやっとの思いで起こしてその犬を抱きとめた。
チャータだった。
あの駅に捨ててきた鞄に入っていた黒毛の仔犬だった。
室蘭本線の線路をずっと歩いてきたのか全身の毛が濡れ
傍だって疲労しきった筋肉の肢でぐいぐいとオレの胸に
押し付けてくる力強さは若い生命力に満ちていた。
わかった、わかったから、ペロペロ舐めるのは、やめて
くれ!
しかし仔犬はやめようとせずむしろ益々強く舐めてきた。
オレは、たまらず仔犬の口を振り払って起き上がると身
体の下にあるレールにゴォーという振動が伝わって来る
のがわかった。
見ると橋の向こうから列車が向かって走って来るのが見
えた。
仔犬は、ワンワンワンと必死で吠え立てた。
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