カジュアル・アミーガ         本ブログの動画、写真及び文章の無断転載と使用を禁じます。

ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-13-

2008年06月06日 | 投稿連載
   こちら、自由が丘ペット探偵局 作者 古海めぐみ
          13
待ち合わせの場所は、多摩堤通りの二階建てのドッグカフェだった。多摩川が
二階のデッキ席からちょうど真下に眺めることができた。
昨日の夜から降り出した雨のおかげで川の水嵩が増して中州が小さな孤島に
なってそこに密生していたアシ原もろ共うす茶色の濁流に流されるのを必死で
堪えていて、さらに土手下に忘れられていた自転車が三分の一ほど水に
浸かっていた。
雨は、昼過ぎにやや小降りになった。
赤いテント屋根と透明なビニールの風除けが張られたそのデッキスペースには、
8席のテーブルセットがあり、お客は午後遅いながら半分は入っていた。
アゴヒゲの立派な老人とラブラドール、若い女の子と柴犬、そして佐藤沙織と
水島ミカとワンニャン天国堂の金のブレスレッドに金ブチメガネの中年女の
安田美貴。
そしてテーブルの下にピンクのバスケットに入ったプードルの子犬が上フタ
を押しのけて愛くるしい顔を覗かせている。
「吠えないですね。」
水島ミカは、そう言うと仔犬を抱き上げた。
「うんうん。いい子ですよ。大人しくて。生まれてちょうど二ヶ月目なの。」
丸まる太った頬をプルプルふるわせて人の良さそうな笑みを浮かべた安田美貴は、
ワンニャン天国堂プレスというパンフレッドをテーブルに置きながら
子プードルの顎を触った。
「随分安いですね。先天的な病気とか、この子大丈夫?」
今度は佐藤沙織がミカから子プードルを貰い受けながら、極端に感情を押さえた
口調で安田に尋ねた。
「うちはインターネットで直に販売しているので安く設定できるんです。余分な
マージンを一切省いて可愛いワンちゃんといい飼い主さんとの幸せな出会いを目指
しているの。」
笑った顔から急にまじめな顔になるとあの人の良さそうな雰囲気はどこへ行った
のか、少し冷たくて怖いくらいな表情になる。
しかしそんな美貴に負けまいと沙織は、プードルを抱きしめて聞き返した。
「わたしは、この前おたくでチワワを買ったんですけどね。すぐに水痘症で
死んだの!確かわたしのときは、痩せたおじさんだったけど・・・」
沙織は、最後のおじさんという言葉を発音したとき思わずマジマジと頭の禿げた
痩せぎすの五十男を思い出して、つい鼻の穴がピロンと膨らんだのをどうすること
もできなかった。
美貴は、ひとつも感情を壊さず晴れやかな善人の笑顔をみせて静かにしゃべりだした。
「チワワは、よくあるのよ。生まれたばかりだと獣医さんだってわからないのよお。
それに佐藤さんでしたっけ、あなたの担当したそのおじさんは、群馬のブリーダー
でうちに登録はしてたんですけど、今連絡がとれなくなってるんです。うちだって
幾らかお金貸しているもんで困ってるのお。本当よっ。」
「そんな・・・そんな・・まるで詐欺じゃない。」
「どうぞ訴えるなら訴えてちょうだい。契約書も血統書もありすから。」
沙織もミカも黙り込んだ。
ビニールの風除けに小さな雨粒がパチパチと当たる音が大きくなったり小さくなった
りした。
ぴぴぴぴぽぴぴぴ・・・
沙織のケイタイにメールが入った。
健太からだった。
 今やっと迷子犬の捜索時間の今日の予定が 終わって、もうそちらに着く。
 自由が丘探偵事務所。

遅いよ。と沙織は呟いてパチンとケイタイを閉じた。
「このプードル買わないのね。」
と美貴は、佐織の手から子プードルを奪いとってバスケットに仕舞い込んだ。
ワンワンワンー、フタが閉められるとき初めて仔犬が鳴いた。
「買わないって云っていません。」
ミカがテーブルのパンフレットを押さえて大きな声で言った。
「いえ。売りません。私ね。この子のためにも売りたくありません。あなたたち
にこの子を渡して幸せになるって希望がなくなったもん。いやよ。売らないわ。」
「何云ってるよ。へんな云われ方・・・」
ミカは、思わず立ち上がったけど沙織に手をとられて座った。
「コーヒー代400円。ここに置いたわよ。」
安田美貴はコインをコーヒーソーサーの中へカチンと入れて席を立った。
「ちょっと・・・待ってください・・・」
沙織が叫んだ。
美貴は太った体を揺すってドタドタとバスケットを抱えて階段を下りていった。
しばらくしてワン!と仔犬が出口で鳴く声がした。回りの客が沙織とミカを一瞬
振り返った。
ぴぴぴぴぽこぴぴぴ・・・
健太のメールが来た。
 激しいおばさんだな。今問い詰めても法的 には逃げられるだけ。
と書かれたメールにドッグカフェを出る安田美貴の顔写真が添付されていた。
「あら、下にいるの。犬飼さん。」
と沙織がケイタイを覗いていたら健太が入ってきてテーブルに座った。
「いやあ、遅くなってどうもです。」
「もう帰っちゃったわ。」
「話は、だいたい聞きました。」
「?????」
「聖子ちゃんは、優秀な探偵助手でしてね。」
と窓手すりの下を指差した。
「ああ。カラス!」
ミカがびっくりして声に出した。
「あのカラスは聖子ちゃんと云ってね。首に小型マイクが見えるでしょ。」
「えーと、あの首輪?」
「そう。あの聖子ちゃんのマイクですべて聞きました。お話。」
と耳にしていたイヤホンを外して鞄からレシーバ端末機を取り出した。
ククックウ、クッククゥ・・
健太が鳴き声を発声すると、聖子ちゃんは小雨の中飛び立っていった。
「車のナンバーを記録したので住所は、すぐにわかるさ。で、何をぼくは
すればいい?」
「知り合いでまだまだいっぱい被害にあってる人がいるの。中には輸入禁止
の動物も扱ってるって話もあるんで、飼育場所だけでも確かめられれば
いいんです。」
沙織が涙目で訴えた。
「わかりました。場所と飼育状態を突き止めましょう。」
と再び健太は、立ち上がって階段を下りて出て行った。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ダロワイヨ~シーちゃんのおやつ手帖49

2008年06月06日 | 味わい探訪
ダロワイヨは、自由が丘駅前ロータリーに面しています。
パリの本店は、チョコレートのケーキ「オペラ」を生んだことで有名です。
ケーキは全般に高価ですが、味はどれも上品で美味しいですよ☆

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする