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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-16-

2008年06月27日 | 投稿連載
 こちら、自由が丘ペット探偵局 作者古海めぐみ
        16
一週間という新しい航海は、あっという間に過ぎた。
特に自由が丘デパートの最も若いカメラ店主になった猫田春
にとっては一瞬のように思えた。それはまたボートに乗ったら
いきなり荒海に投げ出されたようなもので新装開店と暴漢事件
とたて続けてあり、気がついたら帰って寝るだけの日々だった。
こども用のポートレートは、あれから土日に三人来たぐらい
だったがパスポート用と免許証用とが普通の日の夕方何件か
あった。
何より大きかったのが、品川の建設会社からの社員旅行の大量
のデジタル写真の焼きまわしの仕事だった。その大量のサービ
スサイズのプリントが一段落ついて、昨日の夜頼まれた花屋
ツルさんからの芦ノ湖の写真の四つ切りサイズへの引き伸ばし
を朝一番から春がやっていたら、良く通る張りのある声がした。
ごきげんよう。ネコタさん。春さん。
ハルおばあちゃんだった。
この前とまったく同じ縞の着物を着てツヤツヤした肌で店の中
へ入ってきた。
「おはようございます。ポートレートのお写真ですね。」
春は、焼き回し機のオペレート台から離れてカウンターに両手
をついてハルさんを出迎えた。
「今日が待ち遠しくて、朝から私ワクワクしちゃって。」
「ご注文通り、額入りでできていますよ。」
後ろの仕分け棚から箱入りの六つ切りのポートレート写真を取り
出して、テーブルで春は開けて見せた。
「あら、綺麗に撮れてるわ。」
ハルは、少し離れてじっと見入った。
「こんなお婆ちゃんなのに・・・別人みたいよ・・・」
「そんな、モデルがいいから!水野さん。」
「さすが画家のお孫さんね。すばしいわ。」
「有難うございます。気に入ってもらえてうれしいです。」
「私、今日宝物持って来たんです。」
「何?おばあちゃまー。ああ、すいません。水野さん。」
「いいの、いいのよ。おばあちゃまで。その方がずっとうれし
いわ。あなたに呼んでもらえると・・・身内みたいで。」
「そうですか、おばあちゃま。」
「はい。これよ。」
と風呂敷に包まれた菓子折りのようなものを
開いてテーブルに置いた。
「ああ!これ。」
春が思わず声を出した。
それは、油絵だった。そしてハルだった。
池をバックに若い瑞々しい洋装の女が微笑んでいた。
「これ、おばあちゃま!」
「若いときの記念です。」
「うわっ、もしかしてこれ・・・」
「そうー。」
「お爺ちゃんが描いたの。」
「そうー。」
「へーえ。素敵な絵ー。」
「洗足池で描いて貰ったの。」
「お爺ちゃんの人物画、初めて見る。風景画だったら見た
ことあるんだけど・・・」
「あなたに見せようと思って・・」
「うれしい。」
カウンターにハルの出来たばかりの写真と古い肖像画とを
並べて、応接ソファにふたりの春とハルが並んで座り、
かつてルーブル美術館で春の大好きなシャガールの本物に
ご対面したときのような荘厳な沈黙の海にぽっかりと浮か
んで二人して美術鑑賞にしばらくの間身をゆだねた。
ガラス越しに店の外から見ると、同級生が手をつないでい
るのか、と一瞬勘違いするほどハルの気持ちが童心に返っ
ていた。
「ずいぶん仲いいな。なんだか気持ち悪いんですけど・・」
写真館HALの入口にカバンを抱えて犬飼健太が微妙な
笑いを浮かべて立っていた。
「ああ。健太さん。」
春が立ち上がった。
「またあなた。忙しいお兄さん!」
ハルは、健太に目で制するように微笑んだ。
「ねえ。これ見て!私のお爺ちゃんの描いた絵なの。」
春は、健太の手をとってどうしても見せたいとカウンター
まで連れて行った。
「これ、おばあちゃまヨ。」
「別人に見えるけど・・」
「本当にハルさんなの。」
健太は、キョロキョロハルと絵を見比べて、
「この若い女だったらオレ恋してもいいぜ。」
「どうぞいまからでも・・・」
ソファでカラカラとハルは笑った。
「オレ、若い春の方にする。」
と春の腕に腕を絡めてくる健太に春は、するりと身をかわした。
「健太さん、今日は?」
「ええ?ああ。あの例の怪しいワンニャン天国堂の犬たちを
デジカメで撮ったんで引き伸ばして欲しいんだ。」
カバンからSDカードを取り出して春に渡した。
「このオバチャマみたいに楽しい写真じゃないだろうけど・・」
「判りました。お昼前の仕上げでもいいですか。」
「アイヨ。」
と健太はハルの隣にどっかりと座った。
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伊勢屋~シーちゃんのおやつ手帖52

2008年06月27日 | 味わい探訪
清澄白河はのらくろの街。他では手に入らない、様々なのらくろグッズが
販売されています。
また、江東区森下文化センターの1階にはのらくろコーナーが設けられ、作者・
田河水泡さんの書斎の再現や、貴重なマンガの原稿などを見ることが出来ます。

コメント (2)
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