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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロ-34-

2007年11月09日 | 投稿連載
愛するココロ  作者 大隈 充     
         34
枯れた松ノ木の間伐材をヌカルミとタイヤの間に差し込んで
ワゴン車の車体をバンバンと叩いて合図する由香に応えて、
運転席のトオルは思い切りエンジンを吹かした。
ぶるんぶるん上下に後輪が震えて車は、やっと硬い地面
に這い上がった。
夜の森で唸るエンジン音が高く梢を飛び交うヨタカから
急に低い地を這うイノシシの足音に変化して谷間に木霊した。
「やった!あがった。」
「よかった!」
トオルと由香は、林道を駆け上がって一旦停止したワゴン車
のヘッドライトの中で飛び出して抱き合った。
「由香ちゃん!」
「・・・・・?」
すぐに離れた由香の体を取り戻すように白くて細い手首を
トオルが掴んで引きつけた。
「そんな場合かあー」
由香は、丹波の夜の森でオオカミに変身しようとしている
トオルの赤く見開かれた目に懐中電灯のビームを照射して
運転台へ逃れた。
「エロかっこわるい!」
「由香ちゃーん。」
「早く街へ行かなくちゃ。」
「由香っぺっ!」
「いいよ。ひとりでそこで悶えても・・」
「いやだよ。待てっつうの。」
と運転席に乗り込む。
すると反射的に由香が飛び降りた。
「何だよ。何もしないって。」
「違うの。もとの道まで誘導するのよ。」
と懐中電灯を車の後ろへ向けて照らすと下へ下へと林道
を誘導しだした。
 混乱して複雑に絡み合った糸を解くには、冷静さと記憶
と根気があれば必ずどこかに緩みが出てきてあるとき突然
ほぐれ出す。
一度ほぐれ出すと今度はウソのように気持ちよく外れていく。
トオルは、一人だったら絶対に一晩この森の中で過ごす羽目
になっていただろう。子供の頃綾取りもすぐに諦めていつも
丸めてぐちゃぐちゃの堅い糸玉にして屑籠に捨てていたし、
父親から薦められたルービックキューブも五、六回廻した形
のまま本棚の間で埃を被って放置される運命にあった過去は
隠しようがない。
混乱解消の冷静・記憶・根気の三つのキーワードは一番トオル
の心情の対極にあった。
ではこれら三つの荒海を乗り越えるための宝剣としての心情
に由香やカトキチは極めて適していたが、その彼ら以上に最も
適した性質をもっているのは、ロボットだった。
しかしカトキチが造ったエノケン一号は、今までの研究室の
ロボットと違って、生来きっての放蕩者だったエノケンの
データがどっぷりと入っているのでときどき冷静でなく、
記憶もアヤフヤで根気もなく、きまぐれを起こすことがはっきり
と判明した。
 エノケン一号が高速道路のパーキングから姿を消して三日が
過ぎようとしていた。
どこかの回路がショートしてただ単に暴走したとは、加藤教授は
思っていなかった。
ロボットが意識をもって自分から逃げて連絡を閉ざした。ココロ
の回路モデルを研究してきてこのエノケン一号に試作した責任者
として記憶データがあるレベルに達するとココロ中枢基盤に
能動的な判断を下せるようになるソフトウェアを書き込んでいた。
だから赤ん坊から思春期の自我をもった人間のように何らかの
自発的な判断がでくることはわかっていたが、それがトンズラ
とは思わなかった。
九理大の加藤研究室では、もう失敗かと善明はじめ院生と
嘆いていた矢先エノケン一号からカトキチのメインパソコン
に通信が入った。
「野球はすばらしい。」
「正確にストライクを投げる快感。好き。」
モニターに現れたエノケン一号からのメッセージを読んで
カトキチは、首を傾げた。
「何だ。こりゃ。何をしとるんだ。」
とぶつぶつと雑然としたデスクで呟くと携帯電話の通話
ボタンを押した。
「ああ。真鍋くん。京都の市営グラウンドに行ってみてくれんね。
エノケン一号な、野球ばしようるっちゃ。」
「はい。先生。エノケン一号の居場所が特定できたんですね。」
夜道を助手席で揺られながら由香が出た。
「ああ。はっきり今そこから通信してきよるんたい。野球って
すばらしいげな。」
「何ですか。それ。野球してるん?エノケン一号。」
「何やわからんけど、そうみたいや。とにかくもう丹波の山は
抜けたんなら、行って見てくれんね。」
「はい。今市内に入って来ました。市営グランド、地図で探して
行きます。100メートル以内に近づいたらエノケンのパーム
トップが反応するハズですから。」
「エノケン一号は、成長している。この京都という地で何か
を思い出して一時的にコンフューズしたんち思う。見つけたら
深夜でも連絡して。」
とケイタイをカトキチは少しほっとして口笛を短く吹くと切った。
その一方的に切ったケイタイの向こうでカトキチは気づかず
オフにしたが、ほんの一瞬トオルの慌てた声と由香の悲鳴が
かすかに聞こえた。
「ほら、由香っぺ。パームが光ってる!」
「うわわわわー」


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Happy Birthday~シーちゃんのおやつ手帖22

2007年11月09日 | 味わい探訪
田園都市線の沿線ぞいの洋菓子店。
たまプラーザ、あざみ野、中央林間と多摩丘陵に比較的
新しくできた通勤鉄道でお店もウン十年とか、創業40年など
というお店は少ない。
ケーキ屋Happy birthdayのホームページ
 
 ところでおやつ手帖と関係ないけど昨日のライカ犬の話が
あまりに悲しくて一日ずっとブルーでした。
バイコヌールの宇宙基地へ連れてこられたライカ犬は「クドリャフカ」
と名付けられたらしいです。
ロシア語で巻き毛ちゃんという意味らしいです。3、4才でした。
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