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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロ-33-

2007年11月02日 | 投稿連載
  愛するココロ  作者 大隈 充    
            33
夜間照明が市営グラウンドの人工芝を青々と照らし出している。
金網ネットで囲われたそのグラウンドの周りをチビとノッポが
ランニングしていた。
走っているというよりむしろ転びそうになりながら、学と祐樹
は、真新しいユニホーム姿でふらふらと足を前に出していた。
「おい。いま何周だっけ?」
「もう20周はしてるよ。」
「居残りランニング。もう8時過ぎた?」
「わからへんけど、過ぎてるよ。きっと」
「腹減った・・」
「オレも・・・」
「ああ。監督がこっち見てはる。もう終わりやない?」
KBとイニシャルの入ったキャップをとって汗を拭きながら
立ち止まった学がそう言うと、ネットフェンスを隔てて、
グラウンドのサードベースの脇で仁王立ちしている赤い
ウィンドブレイカーを着た痩せて背の高い髭面の監督が
メガホンで怒鳴った。
「お前ら、練習を30分も遅れてきてみんなと一緒に帰ろう
なんて思うな。後10周!」」
「へえええええー」
ヘタヘタと座り込む学ち祐樹。
「と言いたいとこやけど、面白い機械もって来たよって、
帰ってよし!」
わあああーい!
キャップを放り投げて抱き合う学と祐樹。
まるで地区優勝でマウンドでレギュラー選手たちが
華やかに抱き合う中でベンチの隅で球拾いの新入生が
遠慮がちに二人だけで抱き合うみたいな気の抜けた
サイダー色のはしゃぎ様で、二人は一刻も早くベンチ
ロッカーへ行こうとネットフェンスの入口へ走り出した。
その途端ボールが開けようとした金網の扉に飛んできて、
目の前で弾けて転がった。
ヒイイーと二人とも腰を抜かした。
バッティング練習していたバッターボックスの中学生が
打ったボールが飛んで来たのだった。
「悪い、悪い。あんまりピッチャーがいい球投げるよって
ファールになった。」
と中学生がそう言うと、監督が走りよって来て、ニヤニヤ
ガム噛みながら、学と祐樹の小学生をしっかりと抱きしめた。
「いいもの持ってきたなあ。」
と監督の指差す先のマウンドに照明ライトにきらきらと
輝くマシーンがあった。
そいつは、正確に振りかぶった腕がバッターボックスの
ストライクゾーンにビシビシ決まって投げていた。
マウンドの上でバスケットに入った軟球の山から器用に
カニバサミの鉄の指で一球づつ掬い上げて、ゆっくりと
した弧を描き、振り上げて振り下ろして球を投げる
ピッチングマシーンと化したエノケン一号だった。
すべてストライク。ときどき内角高めの際どいところ
にカーブが決まる。
バッターの中学生は、仰け反って空振りをする。
『ごぉめんっ!』と豪腕の鉄のサウスポーがぼそっと
小さな声を漏らして又嬉々とした投球モーションに入った。
「どこであんな機械拾って来はったん?」
宝物を掘り当てて小判の海へ飛び込んで笑みのスウィッチ
が入ったまま切れなくなった山師のような髭面で痩せた
監督は、猫なで声を出した。
「いえ。ユウちゃんの家からついて来た。」
学は赤くて太い監督のウィンドブレイカーの腕から
逃れながら呻いた。
「ウソつけ!」
監督は、執拗に逃げる学を羽交い絞めにして祐樹と一緒
に又胸の中に絡めとった。
「本当っす。」
「本当。本当おう!」
「バカ。キャプテンがお前らが賀茂川からあのピッチング
マシーンを拾ってるの見たって報告に来よったでえ。」
「そんなの、知らん。」
と学は、するりと監督から逃れて走り出した。
「じゃ、今から祐樹の家にあのマシーン、
先生持っててもいいか。」
と祐樹を解放して監督が言った。
「そりゃ、いいいけど・・・」
ロッカールームへ行く足が止まって立ちすくんでいる学
が祐樹をじっと見つめた。
「おーい。今日はこれで練習終わりや。全員集合!」
と監督がグラウンドにメガホンで叫ぶと、ちびっ子選手
たちが黄色い掛け声と共に監督の周りに集合してきた。
「今日はもう遅そうなったんで速やかに道具を片付けて解散
「オースっ」
とみんなの声が共鳴してロッカールームへ散っていく。
「あーと、キャプテンは残れ。俺と一緒に祐樹の家に
ピッチングマシーンを届ける。」
祐樹は、思わず目をむいて唇を振るわせた。
「あの、いいっす。自分らでもって帰りますから・・・」
「遠慮せんと。車で送りまんがな。」
「あの、それは・・・」
と学の方へ擦り寄って、助け舟を求めるように学の顔
を覗き込んだ。
学もすっかり今喜んで帰ろうとしていたことすら忘れた
ように困りきって足が止まってしまっていた。
「どうする?この機械、クラブのために置いていくか、
それとももって帰るか。明日警察に落し物届けを出して
もええけど、勿体ないなあ。」
学の口は、への字のまま。
「どうする?」
「お、置いていきまっス。」
祐樹は、きっぱりと言った。
「学もいいか?」
「はい・・・」
「じゃ。キャプテンと用具置き場へ押していけ」
祐樹と学は、肩を落としてテクテクとエノケン一号へ
歩み寄っていった。
「これ、どないして動かすん?」
マウンド上でエノケン一号と待っていたキャプテンが
ボールのバスケットを抱えて呼びかけた。
「自分で動きますぅ。」
とエノケン一号の腕からボールを取ると学は対戦ゲーム
の裏技を一番教えたくない敵に罰で教えなければならなく
なったペナルティーボーイみたいに蚊の鳴くような声
で早口に返事をした。
「ええ?何?聞こえへんて・・」
中学生のキャプテンが意地悪にわざと苛ついてみせると
学と祐樹はエノケン一号の背中に身を寄せた。とその時、
エノケン一号は、ぐるりと自分で用具倉庫へ進み出した。
「わあっ。スゲエえー。どこ触ったんや。教えろ。お前ら。」
「はい。背中です。」
と咄嗟に学は言い返して栄光のサウスポーの後を祐樹と
一緒について歩いた。
正確に迷わず倉庫の入口へ入っていくエノケン一号を
関心してキヨロキョロ学の二倍はありそうな体を揺すって
キャプテンは、倉庫の中で見守った。
「充電をしないと・・」
と祐樹がコンセントにエノケン一号のお尻からコードを
出してつないだ。
「へええー。」
とお尻を覗き込んだキャプテンの頭にエノケン一号の
サウスポーの腕が思い切り振り下ろされた。
「痛いっー、」
キャプテンは、叫んで倒れた。
思わずクククっとオデコをくっつけて笑い合う学と祐樹。
「あああ。これは、ごぉめん。」
とエノケン一号は、咳払いして目の電源を切って
ケケケっと笑うようにトランペットを鳴らして動かなくなった。
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OVALE~シーちゃんのおやつ手帖21

2007年11月02日 | 味わい探訪
鎌倉のスウィーツの店。これからは、紅葉の季節です。
こちらがオヴァールのホームページ。
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