最近は、猫といっしょにビールを美味そうに飲むTVのCMで見かけるだけだった緒方拳。いつだったか、随分やつれた印象で、もしかしたらどこか悪いのではないかという思いを一人抱いていましたが・・・・その訃報に意表を衝かれました。
今月5日に逝去という報が昨日7日に公表されました。
緒方拳という日本映画界を牽引してきた俳優の死を悼み、
拙ブログで彼の映画を振り返ってみたいと思います。
★好きだったのは、『必殺仕掛人』での藤枝梅安役。
1970年代の映画なので、緒方拳は30代。
実にいい味わいの俳優だと後年見たときも改めて思ったものですが、緒方拳=藤枝梅安というのが、私の緒方拳に対する最初のイメージでした。
★好きな映画は、
今村昌平監督で主演した『復讐するは我にあり』(1979年制作 原作佐々隆三)と『鬼畜』(1978年 野村芳太郎監督)の2本。
★感動したのは、『楢山節考』(1983年 今村昌平監督)
深沢七郎氏の原作を読んでいたせいもあり、原作の持つ力もあっての映画だったように思われますが、実に日本的ないい日本映画だったという記憶があります。インターナショナルというのは、ナショナルなものを内包してこそなのだという好例となった映画。
こうした作品で遺憾なく持っている演技力を表出させた緒方拳ですが、エンターテイメント性の高い娯楽映画にもかなり出ています。
私はTVは観ないので、TVドラマでの彼をご紹介することができないのは残念ですが、以下の映画は、個人的には好きな映画ではなく緒方拳じゃなく他の俳優でも良かった類だと思っています。
★何か鼻につく・・・・と思ったのが、一連の五社英雄監督と組んだ作品群。『吉原炎上』『薄化粧』や、原作が宮尾登美子作品の『陽暉楼』とか『櫂』どうも好きになれなかったです。緒方拳のイメージが、監督と私とでは違っていたせいかもしれません。
★80年代もっとも「旬」だった女優、松坂慶子と共演した映画が多い印象がありましたが・・・・・、出演作品一覧表を眺めてみたら、『悪い奴ら』(1980年 野村芳太郎監督)と『火宅の人』(1986年 深作欣二監督)くらいなんですね。緒方拳40代。
華のある旬の女優との共演を誰が持ち込んだにせよ、多くのファンが喜んだに違いない組み合わせだったのではないでしょうか。けれど、女優の方が目立ってしまっていたと言えなくもない、そんな仕上がりになっていたのは、監督の思い入れのせいかなァと。
この深作欣二監督で撮った『火宅の人』は、壇一雄の私生活を描いた私小説の映画化ということで多くの観客を動員したようですが、女優陣(妻役がいしだあゆみ、愛人役が原田美枝子、旅先で出会った葉子役を松坂慶子が演じるという布陣)という女優の競演が見所となったようにも思える映画で、いしだあゆみが凄みが出ており、松坂慶子は美しかった。
まあ、これだけ業の深い女性役を演じた女優陣を相手にたった一人で立っていられる俳優ということで、この役を演じられる俳優は80年代には緒方拳だったということかもしれません・・・
駄作の『華の乱』(1988年)でも与謝野晶子役の吉永小百合が主演で、鉄幹役の緒方拳は、ただの脇役と言ってもいい存在だった印象があります。当時52歳で脂の乗った俳優となっていたというのに、もったいなかったなァと。深作監督は、緒方拳という俳優の生かし方を知らなかったと評されてもしかないですね。
★イマイチパワーを感じなくなったのが、映画『隠し剣鬼の爪』(2005年 山田洋次監督)での家老役でした。あれは似合わなかったですね。それと『蝉しぐれ』(2005年 黒田三男監督)での主人公の文四郎の養父役も、なぜ緒方拳なのかなァという思いがありました。藤沢周平作品の映画化として注目された一連の映画化作品の一つでしたが・・・・単に年齢的に存在感のある俳優ということで起用されてしまったのかなと。
★印象的だった作品は、松本清張の原作を映画化し、森田健作が唯一のミスキャスティングだった映画『砂の器』(1974年制作 野村芳太郎監督)での、純朴で人情篤い田舎の警察官役も印象的でした。この映画では大きな意味を持つ存在だったと評価している1本でした。それと、『魚影の群れ』(1983年 相米慎二監督)も印象に残っていますね・・・・
こうして表紙の画像を眺めているだけで、
いろいろな場面の表情が目に浮かんできます。
そうそう、夏の暑い日に主人公の子役の少年の頭を刈っていた緒方拳・・・・あれ、良かったですね。
★緒方拳&直人の親子共演で話題となった映画『優駿』(1988年 杉田茂道監督)。このときの緒方直人は悪くなかったけれど、後年DVDを借りて見たNHKの大河ドラマの信長・・・・あれは緒方拳の親の七光りだったのか・・・・・。イマイチ小粒な印象が拭えず、学芸会ドラマの信長でした。キャラも似合わず、好意的に言っても早すぎました。緒方拳もそのとき、フツーの人の子の親だったのでしょう。
後年、いろいろな作品にちらっと出ていたような印象の緒方拳ですが、改めてその作品の一覧表を眺めてみると、氏はこれまでに演じたことのないような新しい作品への意欲をお持ちだったのだろうと思います。
70歳になって主役を演じられる数少ない日本の俳優だった緒方拳氏には、70歳になったいまこそ、ぞくぞくするようなサスペンスで、人間の底知れなさを軽妙に味わい深くそして恐ろしく演じて魅せてくれるような作品を期していただけに、氏の訃報は残念でなりません。そういう人間像を演じて観客を魅了する俳優を、私たちは失ったんだという思いですね。
緒方拳主演作品をご覧になられたことのない方にとって、
このささやかなブログが参考になれば幸いです。
末尾ながら、
俳優緒方拳氏のご冥福をお祈りしたいと思います。