一晩と半日滞在した高山市街を後に、41号線を南下してきました。高山の一つ隣の飛騨一ノ宮駅を訪ねます。
JR東日本とともに、古い駅舎は維持費をかけずに取り壊すという無思慮な政綱を貫くのがJR東海です。高山本線に残っていた木造駅舎も、この十年ほどの間に櫛の歯が欠けるように次々と姿を消していきました。それらの駅舎が在りし頃に一通り訪ねてはいるものの、これ以上取り壊しが進む前に、最新の機材で今一度記録しておきたいという考えはかねてからあり、それが今回飛騨を訪ねた理由の一つでもあります。
こうして訪ねた飛騨一ノ宮駅、焦茶の羽目板、白い漆喰壁と赤茶色の屋根の組み合わせは、
一昨年訪ねた上枝、飛騨国府などと同じ高山本線ならではのもので、駅舎のくすんだ色合いと新緑の鮮やかさが意外なほど様になっています。駅舎の間口はかなり広く、一ノ宮の駅名にちなんだか、さりげなく神社を模した車寄せが駅舎の佇まいを一層引き立てているようです。しかもその車寄せの下には、「飛驒一ノ宮驛」と旧字体で一文字ずつ記された、正方形のタイルが残っています。
駅舎の設えはもちろんのこと、国道から少し離れた静かな駅前の雰囲気、ところどころに植えられた立派な桜、一段高いところにあるホームの上屋の造りなども好ましく、しみじみ鑑賞しているうちに、かなりの時間を消費してしまいました。
それはよいのですが、非常に残念な現実を目の当たりにしました。待合室にゴミが散乱していたのです。それも、ただゴミを放置するだけでなく、食べ残し、空缶、吸殻などが散乱しているという、およそ正視に耐えないものでした。駅全体は小ぎれいに手入れされていることからして、何日も放置されたわけではなさそうです。おそらく昨晩あたりに不逞の輩が侵入したのでしょう。
このような輩によって駅が荒らされ、防犯上、管理上の目的から古い駅舎が取り壊されていくのだとすれば、鉄道会社だけのせいにすることもできません。こればかりは他人事と見過ごすこともできず、やむなく後始末をしておきましたが、そうしたところで問題を根本的には解決できないわけです。駅の秀逸さとは裏腹に、後味の悪さだけが残る結果となってしまいました。