三時を回ったところで解散となりました。野田線に乗れば大宮までは一本、鉄道博物館とも掛け持ちできます。ただし、仮に行っても閉館までは一時間少々しかなく、これではさすがに中途半端です。今日のところは見送って、後日出直すことに決めました。残り時間をどう使うか思案の結果、つくばエクスプレスに乗り南千住で下車。目指した店は「丸千葉」です。
「酒場放浪記」で知った店の中でも、昨日訪ねた「中央酒場」と並ぶ関東の双璧といってもよい名酒場です。しかるに
昨秋訪ねたときはまさかの満席で振られ、結局去年は訪ねる機会を逃しました。これが実に二年ぶりの再訪となれば、万全の状態で入りたいと思うのは人情です。焼肉と丼飯をたらふく食らった以上、そのまま飛び込むことはできず、できる限り長い間合いをとれればそれに越したことはありません。ただし、九時で看板という条件を考えると、あまりに引き延ばせば品が切れ出すことが予想されます。その結果、万全には至らないのを承知の上で、七時が迫ったところで飛び込むという、昨日と同じような経過をたどりました。
こうして暖簾をくぐると、カウンターのところどころに空席が。しかしよく見ればいずれにも予約席の札が立っています。返り討ちかと覚悟しかけたところ、マスターからは狭くてよければとの一言が。こうして案内されたのはカウンターの一番奥でした。「狭い」といわれたのは、目の前にレジが鎮座しているからで、通常の一人分の面積に対し、このレジにより三分の一ほどが犠牲になっています。このような場所だけに、よほど混まない限りお客を通すことはないらしく、文字通りの末席ということになります。とはいえ、マスターの定位置の近くから、店内を放射状に見渡せるという位置自体は悪くなく、一人分の酒と肴を置く分には狭すぎるわけでもありません。ここさえ埋まってしまえば見事なまでの返り討ちだったわけで、最後の一つに滑り込めたのはむしろ幸運だったといってよいでしょう。
今回改めて気付いたのが客層についてです。カウンターを中心にした大衆酒場となれば、中高年が一人静かに酒を酌む光景をまず連想しがちなところ、一人客は皆無とはいわないまでも明らかに少数派で、「中央酒場」とは明らかに違います。さりとて「銀次」とも違うような気がしました。しばし反芻して閃いたのが「伏見」です。老若男女問わないお客で賑わう活気に満ちた店内は、今はなき京都の名酒場を彷彿させるものがあります。そのように感じるのは、Jの字に近いコの字カウンター、目移りするような品書きの豊富さ、一人では持て余すほど気前のよい盛りに加えて、カウンターを仕切る快活なマスターの人柄によるところが大きいのでしょう。強烈な個性にかけては、「伏見」の女将が一枚も二枚も上手とはいえ、中高年御用達の大衆酒場とはやや異質な、賑やかで明るい店内の雰囲気は相通ずるものがあります。在りし日の名酒場を偲びつつ盃を傾けました。
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丸千葉
東京都台東区日本堤1-1-3
03-3872-4216
1400PM-2100PM
水曜定休
生ビール・菊正宗二合
カツオサシ
まぐろぬた
あゆ塩やき
とん汁