日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

新緑萌える東北へ 完結編 - とらや

2016-05-28 21:05:41 | 居酒屋
先月盛岡に泊まったとき、仙台などと同様に居酒屋で呑む習慣がいまだ定着していないという事実について述べ、その理由として居酒屋よりも焼肉屋を選びがちであることを挙げましたが、実はもう一つ理由があります。教祖の推奨店の多くが早仕舞いのところ、こちらの到着が遅れがちで、なかなか訪ねる機会が得られなかったのです。しかし今回、昼の部を少し早めに切り上げたことにより、閉店間際に駆け込めそうな情勢となりました。ならばその好機を活かさない手はありません。「居酒屋百名山」にも取り上げられた盛岡の聖地「とらや」を巡礼します。

各地の酒場を訪ね歩く上で、最も役立ったのが教祖の導きであることについてはもちろんです。しかしこれには副作用もないわけではありません。先人が語り尽くした有名店であればあるほど、事前情報からある程度の予測ができてしまい、それ以上の驚き、感動までは得られにくいからです。その傾向はこちらの経験が蓄積されるほど顕著になってきました。この店についていえば、年季の入った店構え、カウンターを中心にした店内、文字にすれば平凡ながらも完成された肴、老練な女将による客あしらいといったところが特徴と理解しており、それらについては見事なまでに想定の範囲内でした。ただし正確には「想定内のいい方」とでもいえばよいでしょうか。

バスセンターの並びにある、いかにも教祖が好みそうな年季の入った店構えについてはかねがね承知していました。常時満席の人気店だということについても。入れるかどうかが不確定な状況の中で縄暖簾をくぐると、幸いにして右側のカウンターにいくつかの空席が。首尾よく着席したのはよいものの、改めて店内を眺めれば、L字型のカウンターのもう一辺は隙間なく埋まっています。自分が着席した位置にも少し前まで先客がいたのでしょう。やはり時間によっては満席で振られることも十分にありそうです。
L字とはいいながら、角は斜めに切り取られ、二つの長い辺には微妙に角度がついていて、語弊を承知でいうならV字、あるいはハの字に近いカウンターです。斜めの部分に暖簾つきの小窓があり、内側の厨房で店主が調理をこなしていて、カウンターには女将が立ちます。この女将の客あしらいが秀逸でした。
こちらが一見客と見るや、お通しを出さないことと、その代わり最初に一品注文するという作法をまず指南。それもチェーン店にありがちな長々とした説明ではなく、老練ぶりが感じられるさりげない口調です。次の注文を考えていると、おすすめの品をこれまたさりげなく教えてくれるなど、こちらの手の内を見透かしたかのごとき絶妙な間合いには感服させられました。これはお客の表情、動きといったものに常時目を配っているからこそできる芸当です。いずれも懇切丁寧というより、最小限の言葉でさりげなく伝えるのは、20人近くも入るカウンターを実質一人で仕切るという条件もあってのことでしょう。とはいえ、一人酒にはこの阿吽の呼吸が何より心地よいともいえます。事前情報でおおよその想像がつくとはいっても、こればかりはどうにも知りようがありませんでした。
品書きは頭上に経木、その下に日替わりのホワイトボードという構成。かつお、ホヤ、アスパラ、わらびといった具合に品書きはどれも短く、なおかつ初夏の季節感がさりげなく現れた秀逸な構成です。その中からまず鰹を、次いで女将おすすめのうるいを注文。次いで選んだその名も「豆腐」は、教祖の著作でも絶賛された名物です。豆腐を出汁で温め、一味唐辛子を振って葱、鰹節、刻み海苔を乗せるという、見た目には素人でも作れそうな一品を、何故に教祖がそこまで絶賛するかが懐疑的でしたが、その謎も実際に足を運んで解決した感があります。「籠太」「独酌三四郎」の豆腐と並び、訪ねたときは必ず注文したいと思う逸品です。

唯一難癖をつけるとすれば客層でしょうか。一人客が静かに酒を酌む光景を想像していたはずが、自分以外に一人客はおらず、中には三人組、四人組の先客も散見されました。以前仙台の「源氏」を訪ねたときも、自分以外に一人客がおらず拍子抜けしたことがあります。土曜になると客層も変わるのでしょうか。しかし九時を過ぎると新たに入るお客はなく、カウンターを埋めていた先客も次々に席を立って、閉店間際まで残ったのは自分ともう一組だけでした。平日の開店直後に入るという芸当ができない限り、今回と同様遅めの時間に入るというのが現実的なところかもしれません。

以上の通り、おおむね想定の範囲内でありながらも、訪ねて初めて分かったよさが少なからずありました。回数を重ねればさらなる発見も出てくるのでしょう。次回盛岡に泊まる機会が巡ってきたとすれば、この店の再訪が重要課題の一つとなりそうです。

とらや
盛岡市南大通1-5-8
019-623-6745
1700PM-2200PM(日祝日定休)

菊の司三合
かつお刺
うるい
豆腐
山菜煮付
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新緑萌える東北へ 完結編 - 北ホテル

2016-05-28 20:42:20 | 東北
盛岡に戻りました。日中27度まで上がった気温は現在18度、適温無風のキャンプ日和です。
先月下旬に出発したとき、最初に泊まったのが盛岡でした。しかしその時点では、さらに三泊することになろうとは全く予想していませんでした。延長に延長を繰り返し、東北と北海道にまたがる大遠征となった今回の旅ですが、最初と最後が盛岡というのは、単なる偶然とはいえ秀逸な構成と自画自賛しています。
前回は翌朝の始発列車に乗る関係上、宿代の節減も兼ねて宗旨替えをしましたが、道中最後の夜なら慣れた宿を選びたくなるのは必然というものでしょう。今夜はもちろん北ホテルの世話になります。やはり東北と北海道にまたがる遠征をした去年の秋、最後に泊まったのもこの宿でした。長旅の最後の夜をここで過ごせることを幸いに思います。
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新緑萌える東北へ 完結編 - 禾少言売み

2016-05-28 19:53:25 | 東北
影絵になった岩手山を望みつつ滝沢まで戻りました。残りの燃料が気になり始めたため、ここで給油を済ませておきます。
出発からの走行距離は3750kmに達し、今日だけで既に200km以上を走りました。通算17万kmも秒読み段階に入り、あと230kmに迫っています。明日もまっすぐ帰るわけではないため、おそらく仙台に着くまでには到達するでしょう。高速道路上だったり暗い中だったりと、節目としては残念な状況が最近続いてきましたが、明るいうちに盛岡を出ることができれば、今回は日中の達成になるかもしれません。それ相応の状況で迎えられればよいのですが。
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新緑萌える東北へ 完結編 - フロンティアの湯

2016-05-28 18:48:08 | 温泉
東へ下山するのが順当のところ、趣向を変えて西へ下山し、安代から282号線に入りました。南へ走れば盛岡、西へ走れば津軽、時間的にもそう大差のない状況の中、悪魔のささやきを振り切り南下してきたところです。西日はまだ高い位置にあるとはいえ、今から八幡平へ行く時間まではさすがにありません。早めに切り上げ、一風呂浴びてから盛岡へ向かいます。立ち寄るのは「フロンティアの湯」です。
風変わりな名前とは裏腹に、旅館を併設した飾り気のない佇まいは、津軽で訪ね歩いた温泉を彷彿とさせます。居酒屋のカウンターのような、長い辺と短い辺を組み合わせたL字型の浴槽は三つに仕切られ、手前にある長い辺に源泉が注がれて、奥へ行くほど温くなるという仕掛けです。やや褐色に濁った塩辛そうな源泉は、意表を突いて無味無臭でした。
加えて秀逸だったのは、ただ一人の先客が自分と入れ替わりに出て、その後は完全な貸切状態になったことです。以前同じ時期に訪ねたときも、ほぼ貸切だったと記憶しています。場所柄スキーの時季以外はお客が来ないのかもしれません。何とも贅沢なひとときでした。

★フロンティアの湯
八幡平市細野435-1
0195-72-5740
900AM-2030PM(最終受付)
入浴料600円
泉質 ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉(低張性弱アルカリ性高温泉)
泉温 45.8度
pH 7.8
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新緑萌える東北へ 完結編 - 高森高原

2016-05-28 16:46:05 | 東北
続いては高森公園を訪ねます。八重桜の名所として知られ、本土では最も遅くまで花見ができる場所の一つです。津軽から帰るに帰れず延長に至った先週末、予定通りに切り上げられれば、最後に行こうと思っていたのがここでした。

青森でさえ八重桜が先週までにほぼ散っていたことを考えると、いくら高原とはいえもう遅いかに思われる一方、例年の見頃からすればまだ行けるのではないかという期待もありました。五分五分の状況で乗り込むと結果は前者でした。目当ての八重桜は葉桜同然となっており、よく探すと嗄れた花が所々に残っている状況で、近所の土手の八重桜と比べても大差がありません。今がこれなら先週末には既に散り始めていたのではないでしょうか。今年の開花はかなり早かったようです。
結果としては、先々週八甲田で眺めたミネザクラが、見頃の桜としては今季最後だったことになります。とはいえ、去年はあまりの早咲きに為す術もなく取り残され、花見は大型連休前半で打ち止めだったわけです。それが今季は北海道にも渡った上に、五月の最終週まで曲がりなりにも花見ができました。それだけでもう十分ということにしておきましょう。

ほぼ散り終わった八重桜に代わって、先日七戸で見たのと同じ鮮やかな色合いのツツジが斜面を彩っており、木立では春蝉が鳴いています。これでは桜が散っていても当然ではあります。北東北もすっかり初夏の趣となってきました。
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新緑萌える東北へ 完結編 - 弓弭の泉

2016-05-28 14:03:08 | 東北
さらに北上して弓弭の泉を再訪します。鬱蒼とした杉木立の中、大木の根元から湧き出る北上川の源泉と、遠くから聞こえてくる春蝉の声が涼しげです。
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新緑萌える東北へ 完結編 - チキン弁当

2016-05-28 13:24:17 | B級グルメ
一区切りついたところで腹ごしらえを済ませます。本日予定している行動範囲からして、調達手段がほとんどないと予想されたため、東京駅でチキン弁当を買ってきました。岩手川口駅の小公園に、屋根付きテーブル付きのベンチがあったため、こちらを拝借していただきます。
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新緑萌える東北へ 完結編 - 岩手山

2016-05-28 12:50:53 | 東北
盛岡駅で車に乗り換え、4号線を北上して好摩のお立ち台にやってきました。只今正午過ぎの下り貨物列車を撮って一区切りついたところです。
手前に田圃が広がる中を線路が貫き、正面には岩手山が鎮座するという、誰が撮っても様になる絵葉書的な名撮影地です。以前稲穂の時期に訪ねたことがあり、水鏡もさぞやという期待がありました。貨物以外は悪名高き701系の普通列車ばかりというお寒い状況だけに、実質な本数はごく限られるものの、好天となったばかりか風もほとんどなく、水鏡に映し出された岩手山を狙い通りに切り取れたのは幸いです。明日も好天ならば、早起きして再訪するにやぶさかではなくなってきました。
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新緑萌える東北へ 完結編 - こまち1号

2016-05-28 06:31:05 | 東北
盛岡から戻ってきた五日前、大型連休以来続く東北新幹線の慢性的な混雑に鑑み、「やまびこ」で戻ることも検討中だと申しました。しかしその時点ではもう一つの選択肢があることを見落としていました。「はやぶさ」に併結される「こまち」です。
あの後再度照会すると、窓側が全て埋まった始発の「はやぶさ」に対し、「こまち」には十分な余席がある状況でした。仙台、盛岡といえば東北新幹線、東北新幹線といえば「はやぶさ」という固定観念にとらわれがちな結果、秋田新幹線を使うという発想が浮かびにくいのかもしれません。かくいう自分もまさにそうだったわけで、その手があったかと今更ながら納得させられました。これで「やまびこ」よりも出発が30分繰り下がり、到着も30分繰り上がるのは助かります。

★東京632/こまち1(3001B)/845盛岡
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