日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

四谷赤坂麹町

2012-10-30 20:36:04 | 居酒屋
10月も残すところあと二日となり、清酒の季節が間もなく過ぎ去ろうとする中、訪ねておかなければならない店が一軒あります。四谷の名店「萬屋おかげさん」です。一人客は当日空きがなければ入れず、なおかつ8時が最終入店という制約まで加わるため、平日ふと思い立って訪ねるという状況がまず考えられないところ、本日はどういうわけか空席だらけで、そのうえ職場も早く引けるという僥倖に恵まれたため、八月以来の再訪と相成りました。
献立がおまかせ一本に代わって以来三度目となる今回ですが、お通し代わりのおからと薩摩揚げに始まって、小鉢一品、お造り四点、煮穴子、箸休めの小鉢がもう一品、そしておでんと塩むすびで締めくくるという基本的な組み立ては全く同じです。それにもかかわらず飽きが来ない理由は、まず第一に四季折々の食材のおかげと推察します。蓮根を練り込んだ薩摩揚げ、添えられた揚げ銀杏はもちろんのこと、秋刀魚にかわはぎというお造りの組み合わせにも、晩秋から初冬にかけての繊細な季節感が織り込まれていて、これなら半月後、一月後に再訪しても違った形で楽しめるでしょう。
そしてもう一つ秀逸なところは、いわゆる和食の献立とは明らかに違う、酒を呑むために最適化された組み立ての妙にあります。例えばこれが格式高い和食なら、先付、八寸、お椀、お造りといった順序で、見た目も鮮やかな品々が続けて出され、酒はこれらを引き立てる脇役というのが通常です。ところがこの店の献立では、最初のおからと薩摩揚げを肴に生ビールを飲み干して、酒が呑みたくなった頃合いを見計らうかのように小鉢とお造りが出てくるといった案配になります。しかもそのお造りというのが、からすみがけに肝和えなど、酒に合わせて一手間二手間加えた品で、必然的に酒が進む仕掛けになっているのが心憎いのです。居酒屋のコース料理といえば、大人数の宴会を前提にした凡庸なものが多い中、おいしく酒を呑ませるためにここまで計算しつくされた献立はないのではないでしょうか。勘定の高さは相変わらずで、毎週通えるような店でないのはたしかながら、それぞれの季節に一度は足を運びたくなる名店です。

萬屋おかげさん
東京都新宿区四谷2-10 松本館B1F
03-3355-8100
1800PM-2215PM(LO)日祝日・月曜定休

ハートランド
風の森・貴・佐久乃花・遊穂
おから
揚げ銀杏
蓮根の薩摩揚げ
煮穴子
お造り四品(かわはぎ肝醤油・鰹わらあぶり・真鯛からすみがけ・秋刀魚肝和え)
柿白和え
おでん盛り
塩むすび・味噌汁・香の物
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