日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

京浜沿線はしご酒 2012秋

2012-10-27 18:44:03 | 居酒屋
腹ごなしを経て、三軒目は「源氏」を再訪します。正統派の大衆酒場であった中央酒場と銀次に対して、こちらの店はかなり怪しげです。戦後間もなく建ったと思しき古びた建物がそのまま残っているのは銀次と同じながら、塵一つなく磨き抜かれた銀次の建物に対して、琺瑯看板を掲げた木造平屋の建物には寄る年波がありありと感じられ、大地震に見舞われればひとたまりもなさそうに見えます。しかも特筆すべきなのは、そんな建物が横須賀中央駅のロータリーという超一等地にあることです。再開発の名の下に取り払われてもおかしくなさそうなこの建物が、今日の今日まで残ったということにまず驚かずにはいられません。
店構えに負けず劣らず店内も怪しげで、カウンターのみの薄暗い店内はかなり散らかって、お世辞にも清潔とはいえません。L字のカウンターの半分ほどは、がらくたといってもよい雑多なものどもで埋め尽くされて、実質的な収容力は十人あるかどうかといったところでしょうか。年配の店主が一人で店を差配しており、あと五年、十年すればこの店はどうなるのかと余計なことを考えてしまいます。
しかし、ただ怪しいだけならここまで年季を重ねられるはずもなく、当然ながら今回再訪することもなかったでしょう。酒は菊正宗、沢の鶴とありふれているように見えながら、たとえば菊正宗は定番の上撰ではなく特撰で、徳利は常温のまま手渡され、背後に置かれた小さな燗付け器で、自ら好みの具合に湯煎するというのが当店流です。店主自ら考案したというあんこうの肝刺しは、いわゆる「あん肝」ではなく、生の肝を塩漬けにした、いわば塩辛、酒盗の部類に属する一品で、これだけでも酒が二合は呑めます。この品を含め、黒板に達筆でしたためられた品々はどれも酒肴にはもってこいで価格も良心的。正統派の名酒場がひしめく横須賀にあって、ひときわ異彩を放つこの店に、横須賀の酒文化の奥深さが表れているようです。

源氏
横須賀市若松町2-5
046-823-2104
1800PM-2400PM

菊正宗・沢の鶴
お通し(穴子湯引き)
あんこう肝刺し
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京浜沿線はしご酒 2012秋

2012-10-27 16:14:14 | 居酒屋
余力を残して一軒目を辞去したところで、頃よく「銀次」の開店時間となりました。本日は腹ごなしもなく、余勢を駆ってそのまま二軒目へ突入します。
右も左も中年の一人客という中央酒場に対して、こちらの客層はやや俗化しています。教祖の著作に幾度も登場する名店だけに、その評判を聞いて訪ねてきたと思しき二人客などが散見され、他の店との比較などを小声で語り合うのが聞こえてきたりして、それが少しだけ引っかかるのです。もう一つの難点は、開店二、三分前に訪ねてもほぼ満席、十分、二十分遅れれば着席もおぼつかないという混みようで、これも一人で気軽に訪ねるには都合がよくありません。それにもかかわらず通い続けてしまうのは、開店から半世紀以上変わらないと思われる古びた店構えと、そこで働く人々の立ち振る舞いが何より秀逸だからで、それらの難点も取るに足らない小さいものに思えてきます。
何度か足を運んで気付くのは、ただ古いだけでなく、広々した厨房に高い天井など、総じて余裕のある造りになっていることです。高い天井に見合った大きな窓は開け放たれて涼しげな夕風が吹き込み、それがまた風情を引き立てます。カウンターの中程に陣取る頭巾をかぶった女将、厨房の右奥に立つ板前と、おばちゃん三人による一糸乱れぬチームプレーを眺めるのも毎度のことながら面白く、例えば燗付けは女将の仕事です。年季の入った湯煎の燗付け器は高低二段に分かれて、加熱するときは深い方へ、保温するときは浅い方へ徳利を沈め、注文が入れば即座に適温で供されるという仕掛けになっています。左手ではもう一人のおばちゃんが湯豆腐の鰹節を注文の都度鉋で削るなど、丁寧な仕事ぶりが名店ならではです。

銀次
横須賀市若松町1-12
046-825-9111
1600PM-2300PM(第四土曜除く土日祝日定休)

酒二合
お通し(糠漬け)
カツオさしみ
煮込み
ぬた
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京浜沿線はしご酒 2012秋

2012-10-27 15:13:03 | 居酒屋
相棒をディーラーに預け、その足で六月以来となる横須賀まで移動してきました。一軒目に訪ねるのは毎度おなじみ「中央酒場」です。
横須賀といえば「銀次」が開く第四土曜を狙って訪ねるのが常ながら、わざわざ足を運ぶ目的は必ずしも「銀次」だけではなく、少なくとも半分はこの酒場で呑むことにあります。壁一面に並んだ黒い経木の品書きと、安くておいしい料理の数々、一切の妥協を許さぬ酒の注ぎ方、さらには機能美あふれる厨房、働く人々のきびきびした立ち振る舞いなど、名酒場が持つべきありとあらゆる条件を備えたこの店ですが、あえてこの店にしかない美点を一つだけ挙げるとすれば、それは客層ではないでしょうか。
客層がよいといっても、もちろん高貴な身分の方々がお出ましになるわけではありません。入口から奥へ向かって伸びる長いカウンターに陣取るのは、背中に哀愁漂う中年男ばかりです。しかし、その中に昼間から飲んだくれてくだを巻くような客は一人もおらず、ある客は物思いにふけりつつ、またある客は文庫本を読みながら、酒と一品二品の肴を広げて、誰もが一人静かに盃を傾けています。そうして小一時間滞在すれば、勘定を手早く済ませて風のように去り、その後には入れ替わるように他の常連客が収まる、それがこの店で延々繰り返される光景です。昼から呑める大衆酒場は全国に数あれど、酒を呑む上での作法というものをわきまえた粋人がこれほど集まる酒場は、この店をおいて他にはないでしょう。右も左も手練れの呑兵衛というこの緊張感が心地よいのです。

中央酒場
横須賀市若松町2-7
0468-25-9513
1000AM-2230PM(日祝日定休)

ホッピー・菊正宗
ぶりさしみ
牛すじにこみ
めごち天ぷら
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