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苦難の時にこそ、われわれは隣人に対して寛大であらねばならない。そうしていれば世界はわれわれにとって寛大なものになるはず。

終末のフール

2006年03月26日 | 
伊坂幸太郎、集英社、東京、2006

 人気作家の伊坂幸太郎の最新の連作短編集です。設定は、集英社のホームページに掲載されていた紹介文を参照してください。

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あと3年で世界が終わるなら、何をしますか。
2xxx年。「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」と発表されて5年後。犯罪がはびこり、秩序は崩壊した混乱の中、仙台市北部の団地に住む人々は、いかにそれぞれの人生を送るのか? 傑作連作短編集。
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 この本の世界では、3年後に世界が滅亡することになっています。めちゃくちゃ未来ということもなく、近未来の世界でもありません。時代設定は、現代と極めて近いと感じました。
 このような設定の場合、SF映画などでは混沌とした世界が描かれることが多いのですが、この本では非常に静かな世界が描かれています。地球滅亡が発表されてから5年の間は、法律、ルール、マスコミなどが機能しなくなり、略奪、放火、殺人などが日常的に発生します。このような荒れた状態がおさまり、世間が落ち着き、静けさを取り戻した世界が、この『終末のフール』の世界です。残された時間は3年。
 物語は8編。いずれも面白い話でした。それぞれの話に用意されたラストシーンの落とし所が絶妙であると思います。ちょっとだけ人の温かさや、終末なのに希望を感じられるような落とし方がすばらしいです。
 一番、面白かったのは「太陽のシール」というお話でした。30代の夫婦の話です。結婚後、なかなか子供ができなかったのですが、地球滅亡を3年後にひかえたときに嫁が妊娠してしまったという設定です。夫の富士夫は非常に優柔不断な正確で物事をなかなか決められません。子供は欲しい。しかし、たった3年間しか生きられない子供を産むことは無責任ではないか。はたして富士夫はどのような決断を下すのか。ラストが最高に良かったです。
 音信不通であった親子が再会する「終末のフール」も良かったです。同じ感動を味わっていただきたいので詳しく書きませんが、「せっかくですから、和也に魔物を退治させたかったんですよ」というセリフを読んで、感動してしまいました。
 連作短編集ですので、非常にテンポがよく、読みやすいです。面白いですので、オススメします。


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