少し前の新聞記事から。共同通信社の記事を転載。
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共同通信:ひめゆりの証言「退屈」青山学院の入試英語問題
青山学院高等部(東京)が2月に実施した一般入試の英語の長文問題として、太平洋戦争末期の沖縄戦に動員された元ひめゆり学徒による戦争体験の証言が「退屈で飽きてしまった」とする文章を出題していたことが9日、分かった。
同高等部は「元ひめゆり学徒の方々に配慮に欠けた表現をし、深く反省している」と話している。近く元ひめゆり学徒の団体などに謝罪するとともに、生徒、保護者にも経緯を説明する方針。
同高等部によると、この問題は高等部の男性英語教師が自身の体験に基づいて作成。東京の高校生が沖縄を修学旅行で訪れ、防空壕(ごう)や、ひめゆり学徒の記念公園を訪問。元学徒の証言が退屈だったとし、なぜそう感じたのかとの設問もあった。
大村修文・高等部部長は「戦後60年を迎え、戦争の体験者が次第に減る中、かつての戦場を訪れて雰囲気を体感するだけでも戦争体験を引き継いでいけるのではないかと訴えたかった」と説明している。一般入試は1057人が受験した。(2005年6月9日23:12)
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他の全国紙3社の見出しは次のようなものでした。
朝日新聞:入試問題で「ひめゆり学徒体験談は退屈」青学高等部(2005年6月9日 23:18)
読売新聞:「元ひめゆり学徒の話は退屈…」青学高の入試で出題(2005年6月10日 3:10)
毎日新聞:青学高等部:沖縄・ひめゆり学徒隊の不適切な入試問題(2005年6月10日 10:58)
このニュースを知ったとき、かなり違和感を感じました。新聞記事の内容が、あまりにも非常識であったためであります。そこで、原文(実際の入試問題)を読みたくなりました。
インターエデュドットコムというホームページで、
青山学院高等部の入試問題を入手できました。英語は苦手なのですが、何とか読んでみました。問題の英文の要旨は次の通りです。
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終戦から60年が経った。戦争体験者の数が年々少なくなってきている。戦争体験やメッセージを、どのようにして次の世代に伝えることができるのだろうか。
昨年夏、第2次世界大戦の特集を組んだテレビ番組を見た。兵士の死体などのショッキングな映像が流れ、見続けることができず、チャンネルを変えた。数日後、新聞にお年寄りからの投書が掲載された。「言葉では表現できないものを、映像で見せてくださってありがとうございます」というものであった。
私は高校時代の沖縄への修学旅行を思い出した。沖縄の防空壕跡の見学では、洞窟の中に入り、光の届かない完全な暗闇を体験した。
ひめゆり記念講演では、ひめゆり学徒の生き残りの女性が、戦争中の体験を語った。それらの話は衝撃的な内容であった。正直なところ、私は語り部の話に飽きてしまった。その語り部が、話し慣れているように感じられた。もちろん、話に感動した友人もいたし、語り部の話に何の意味もなかっというわけではない。
真実と体験を次世代に伝えることは重要である。その最も適切な手段は、何だろうか。最も分かりやすい方法は「言葉」であるが、話してと聞き手の間に誤解が生じないようにしなければならない。
戦争体験者の話を聞けなくなる日がやってきたとき、体験を伝えるための代替手段はいくつか存在する。場合に応じて、言葉によらない最も良い方法で、メッセージを送るべきである。青山学院高等部の生徒になったら、修学旅行で長崎に訪れることになる。原爆体験者の話を聞く機会があるであろう。そのとき、あなたはどのようなメッセージを受け取るであろうか。
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私の感想は、新聞で取り上げられるような大きな問題は、この英文には含まれない、というものでした。語り部の方々が行なわれている活動を揶揄した文章とは、ほど遠いと感じられました。っていうか、どこが問題なの?
各新聞社の記事は、入試問題原文の内容と違っているように感じられました。「退屈で飽きてしまった」という表現のみがクローズアップされており、事実が捻じ曲げられています。仮にも新聞社なのだから、共同通信も朝日も読売も毎日も、こんな記事を掲載していたら、ヤバイんじゃないかなあ。
ちなみに、このブログ記事を書くにあたって、沖縄タイムスや琉球新報なども含めて、各新聞社の記事を検索してみたのですが、読売新聞の記事がどうしても見つかりませんでした。YOMIURI ONLINEだけでなく、Yahoo! JAPANやgooなどのポータルサイトにも残っていませんでした。読売新聞が、ネット上からこっそりと削除したのかもしれない、と邪推してしまいました。
2000年5月、当時の森喜朗首相の、いわゆる「神の国発言」の際も同様のことを思いました。『日本は「神の国」ではないのですか』(加地伸行、小学館(小学館文庫)、東京、2000)という本にも書かれていますが、マスコミが発言の一部分のみを不当にクローズアップして、首相批判を行なっておりました。発言の全文を読んでみたところ、森首相の発言内容にはまったく問題はなく、すごくまともなことを述べられているように感じられました。
表現が悪いのですが、事実を捻じ曲げた報道は「正義の味方の仮面をかぶった、どす黒い悪」のように思えます。青山学院高等部が謝罪表明したことは、非常に残念でした。各方面からの圧力が凄かったのだと思うのですが、英文に問題はなかったことを冷静に主張して、どす黒い悪を粉砕して欲しかったです。
追伸 このブログを書き終えたあと、ネットで調べたところ、この問題については、1ヶ月ぐらい前にブログや掲示板などで様々な議論を呼んでいたようです。この発見は私が初めてではないようです。がくっ。gooのブログ検索で140本のブログ記事が見つかりました。140本すべてに目を通しました。その中から代表的な記事を以下に紹介します。
「
ひめゆりかぁ・・・」
夢幻の如、2005年6月10日
http://cio.seesaa.net/article/4263524.html
「
入試問題で「ひめゆり学徒体験談は退屈」青山高等部」
黒猫のつぶやき、2005年6月10日
http://blog.goo.ne.jp/9605-sak/e/bb71b1c92ede6982eb4bf3a4fe7b9b39
「
退屈な話」
幻泉館日録、2005年6月11日
http://blog.so-net.ne.jp/gensenkan/2005-06-11-1
「
戦争を語り継ぐということについて~「青学高等部入試問題で「ひめゆり学徒体験談は退屈」」報道をめぐって」
+だちょう+(駝鳥)、2005年6月11日
http://d.hatena.ne.jp/swan_slab/20050611/p1
「
ひめゆりの英文を和訳してみる」
はむはむの煩悩、2005年6月12日
http://tkameda.jugem.jp/?eid=466
「
ひめゆりを扱った英語入試問題のばかばかしさ」
28歳留学一年生、2005年6月12日
http://maystorm.cocolog-nifty.com/insydney/2005/06/post_caa8.html
「
青山学院高等部の問題のざっとした訳です。」
オークランド憂国日記、2005年6月14日
http://blog.goo.ne.jp/bambamtang/e/81d1f6c0f709f00d2eb86861a7b3de6c
「
ひめゆり学徒の体験談は退屈」
チェ・ゲリラの時事評論、2005年6月15日
http://blog.goo.ne.jp/cheguerrilla/e/2d1a1cc57844c7c171a0c8a60bb59bf3
「
「[報道]青学高等部の入試問題で、ひめゆり部隊については本当は何と書かれていたのか」」
愛・蔵太の気ままな日記、2005年6月15日
http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20050615#p1