次の文章は、毎日新聞の6月20日11時配信記事の一部です。
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グリーンピース 鯨肉持ち去りでメンバー2人逮捕
国際環境保護団体「グリーンピース・ジャパン」(GP)=東京都新宿区西新宿8=のメンバーが4月、調査捕鯨船「日新丸」乗組員の鯨肉横領を裏付けようと、宅配途中の鯨肉入り段ボールを無断で持ち去った事件で、青森県警と警視庁は20日朝、GP海洋生態系問題担当部長、佐藤潤一容疑者(31)=東京都八王子市みなみ野3=ら2人を窃盗と建造物侵入の疑いで東京都内で逮捕した。
(中略)
GPは5月15日、乗組員ら12人が鯨肉を着服したとして業務上横領容疑で東京地検に告発。佐藤容疑者は記者会見で、無断持ち出しを認めたうえで「横領行為の証拠を入手するためで問題ない」などと説明していた。
(以下略)
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グリーンピース・ジャパンが起こしたことは、目的のために手段を選ばないということになります。このニュースに関してブログ検索したところ、グリーンピース・ジャパンの行動をタリバンをはじめとする中東のテロ組織になぞらえている記事が非常に多いことに、新鮮に驚きました。今回のグリーンピース・ジャパンの行動が、はたしてテロ組織と同じであるといえるのか否か。結論としては、私はとてもじゃないけど同列には扱うことはできません。
「テロリズム」の意味は≪一定の政治目的を実現するために暗殺・暴行などの手段を行使することを認める主義、およびそれに基づく暴力の行使。テロ。≫(大辞林)ですが、語源としては、テロールもしくはテルールという言葉であります。テロールの意味するところは「恐怖」です。
しかし、現代では「恐怖」におさまらず、拡大して解釈されています。
Wikipediaによると、例えばアメリカについては≪アメリカがときどき発表する「テロ組織」の指定要件の1つには「その組織の活動は、合衆国国民の安全あるいは合衆国の国家機密(国防、国際関係、経済的利害関係)を脅かすものでなければならない」という要件も入っている≫とあり、日本では≪政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で多数の人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊する行為≫となっています。
テロの定義については議論されている最中です。テロ組織、テロ支援国家、新しい戦争・・・。難しい問題であると思います。しかし、グリーンピース・ジャパンの行動はテロには属さないと思います。今回の行動は団体の主義主張の強要でありますから日本的なテロと言えなくもないのですが、殺傷行為や破壊行為ではありませんし、本来の意味である「恐怖」は感じられません。「恐怖」というよりは「稚拙」であると思います。
イスラムの人々にとって、アメリカという巨大国家に対して軍事的に対抗するにはテロ行為しかなかったと思います。2001年の9・11のとき、映画のような映像を生放送で見ました。このとき、不謹慎であることは重々承知していますが、「この方法があったか」という言葉が心に浮かびました。軍事力に圧倒的な差があり国家対国家の戦争が現実的に成り立たない場合、飛行機ジャックによる自殺行為も、軍事バランスを超越した手段として選択できると思えたためです。
江畑謙介氏の名著『兵器と戦略』の序章は「兵器の質が絶対的にものをいう」というタイトルでした。この序章の冒頭は、1991年の湾岸戦争時の多国籍軍とイラク軍が有していた「暗視装置」の質の差の話でした。イラク軍の暗視装置は第二世代型暗視装置であり、多国籍軍のものは第三世代型でした。第三世代型の方が当然優れており、これが昼夜の戦闘に圧倒的な差を生じさせました。江畑氏はこのことを「ハイテク兵器ショック」と呼んでおり、≪同じ世代の兵器を持っていないと、国家安全保障が成り立たない事が現実として突きつけられた≫と書いています。
決して、戦争行為やテロ行為を正当化する分けではありませんが、イスラムの人々が自らの尊厳をかけてアメリカに戦争をしかけるには国家対国家の戦争は無理であり、国際法には則っていない「新しい戦争」つまりテロ行為しかなかったのではないか、と思えるのです。
今回の容疑者は鯨肉の入った荷物を運送会社から無断で持ち出したことについて、≪「不法領得の意思はなかったので、窃盗罪は成立しないと考える」などと話し、「悪いことだが、捕鯨船員の横領行為を世間に訴えるべきだと思った」≫と説明しています(産経新聞)。正義を訴えるためには盗みしかなかった、ということです。しかし本当にこの方法しかなかったのでしょうか。非常に疑問です。
私は、「9・11」と容疑者の行動を同列には扱えません。グリーンピース・ジャパンがとった手段にも目的にも疑問を感じます。何がテロ行為なものか。単なる窃盗ではないか。