梅田望夫、平野啓一郎、新潮社(新潮新書)、東京、2006
2006年に最も刺激的であった本は、ちくま新書の「
ウェブ進化論」でした。今、そしてこれから起こるであろう、ネットを取り巻く環境の変化について、情熱的かつ冷静的に書かれた書籍でありました。その筆者の梅田望夫と、作家の平野啓一郎による対談本が、この『ウェブ人間論』です。『ウェブ進化論』がテクノロジー寄りの内容であったのに対し、『ウェブ人間論』はネットによって人間関係や人間自身がどのように変化しているのか、そして今後どのように変化していくのかが書かれていました。
おもしろい点は、対談者である梅田氏と平野氏のネットに対するスタンスに違いがあることです。両者はパソコンアレルギーでもなく、アナログ人間でもありません。スタンスの違いとは、梅田氏はネットの住人(インターネットのユーザー)を性善説的にとらえており、平野氏は性悪説的にとらえていることです(対談本であるため、わざとデフォルメしている可能性はあります)。梅田氏はネット、ビジネス、テクノロジーの変化を前向きに考え、梅田氏自身がその変化を楽しんでいるように感じられました。しかし、平野氏は一歩引いた視点でネットが引き起こす変化を危惧しているように感じられました。
この本に限らず、ネットの功罪に関する本、雑誌記事、新聞記事、ネット記事は、それこそ無数に存在します。匿名性、人間関係、ネットショッピング、P2P、著作権などなど、語られているテーマは多くあります。新しい人間関係の発生、現実世界の人間関係の崩壊、クリエイティブな新人類の発生、匿名性や仮想世界から発生する人格の破壊、出会い系文化などなど、様々です。
近年に広まった新しいプロダクト(製品やサービス)で、功罪について語られるものはネットと携帯電話をよく目にします。一昔前でしたらテレビゲームが功罪について語られていました。しかし一方では、デジカメ、液晶テレビ、デジタルテレビ放送、ホームシアターなどが、その功罪について語られることは極めて稀です。
功罪について語られるものと、語られないものの違いは、人の生活様式与える可能性の大きさの違いであると思います。この違いを敏感に感じ取った人、もしくは本能的に察知した人が、功罪について語り出すのであると思います。この10年間に、ネットや携帯電話は日本人の生活様式に対して大きな影響を及ぼしました。しかし、デジカメや液晶テレビは、ネットや携帯電話ほど大きな影響を及ぼしていないように思えます。ネットは、この10年間に生活様式に影響を及ぼしましたが、今後10年間にさらに大きな影響を及ぼす可能性を秘めています。これからも功罪について語られていくと思います。
少し話しが脱線しました。ネットによって、どのような変化がこの10年間に起こったのか。そして、今後10年間にどのような変化が起こるのか。興味深く読むことが出来ました。新書の対談本ですので、ささっと読むことができます。正月休みのお供にどうでしょうか。