曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

『駅は物語る』 15話

2012年03月25日 | 鉄道連載小説
 
《主人公の千路が、さまざまな駅を巡る話》
 
  
生々しい駅名の駅へ 前編
 
東武東上線というのは名前と違ってひたすら北西に向かうが、池袋からそれの急行に1時間半揺られて終点の小川町へ。そこから八高線に乗り換えて今度は1時間北上していく。
 
鉄道好きの千路でも乗り疲れを感じ、たかべんの立ち食いそば屋で休憩を兼ねた栄養補給をした。これから新幹線に乗り込むというのなら駅弁でもいいのだが、両毛線ではなんとなく持ち込みづらい。全部が全部ボックス席ではないし、たとえボックス席に座れても4人ぎゅう詰めのところでは食べるのが困難だ。ということで、ホームで食事を済ますことにしてしまった。
 
乗った両毛線はボックス席だったものの、座席がすべて埋まっていた。やはり駅弁にしなくて正解だ。両毛線は都内に暮らす人々から見ればローカル線の部類に入るだろうが、ローカル線というもの、本数も車両も減らしているので意外と混みあい、ガラガラの車内でのんびり車窓を楽しむというローカル線の持つイメージ通りにはなかなかいかない。
 
千路はドアの横に立ってぼんやり車窓を見る。単線の信越線が左に離れていき、追いかけるように新幹線も離れていく。乗っているのは両毛線だが、新前橋までは上越線の区間を進むので高架の複線。だからローカル色は漂わない。
以前は井野までまっすぐ4キロ突っ走っていたのが、平成4年に高崎から2、8キロの地点に高崎問屋町が新設された。大宮から下ると駅間はぐんと広がってどこも3キロから4キロ相当だが、高崎問屋町~井野間は1、2キロと地方としては不自然な近さ。まっすぐなので隣駅が肉眼で見えてしまう。
 
新前橋で上越線と離れて、しばらく走って前橋に到着。県庁所在地なのだけど、どう見ても高崎や新前橋の方が栄えている。ビルこそ建っているが賑わいはまるで感じられない。
 
本日目的の上毛電鉄は前橋で乗り換えるのだが、前橋駅に接続しているわけではない。ここから10分程度歩かないといけないのだ。これまた不自然なところ。もっとも、不自然を見つけるのが旅の楽しみの一つでもある。
ビジネスホテルに隠れるように、駅前旅館がある。泊まるなら断然こっちだなぁと千路は思う。
 
国道50号の歩道橋を渡ると、繁華街というか、ネオン街の佇まいになる。通りだけでなく、路地にも飲み屋が並んでいる。そんな道を少し進んだところに、上毛電鉄の始発駅、中央前橋があった。
上州の風に押されるように、千路は駅舎に入っていった。
 
 


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