曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

『駅は物語る』 14話

2012年01月05日 | 鉄道連載小説


《主人公の千路が、さまざまな駅を巡る話》 
 
飯能(2)
 
 
乗ってきた特急がゆっくり動き出し、秩父方面へと向かっていく。もっともスイッチバックなので駅を出た直後は池袋方面に向かっているのと変わらない。
 
特急が去った後の特急専用ホームはひと気がなく、一人立っているのがちょっと恥ずかしい。千路はうつむき加減に階段を上がり、改札に特急券を差し入れた。そして今度は池袋方面乗り場に降りて、ホームの端から行き止まりの線路群を見た。
せっかくある程度のカネと時間をかけて来たのだが、寒かったのと目的物がたいしたことなかったのとで、たった1分で引き返してしまった。トイレで小用を足してから本改札も出て、とりあえずコーヒーを飲むことにした。
 
改札の隣にある2つのお店のどちらで買うかで少し悩む。「明」のドーナツ屋に「暗」のコーヒーショップ。好みとしては「暗」だが、すいていたのでドーナツ屋にした。
ドーナツはすぐに食べ終えてしまった。むしろ選んでいる時間の方が長かった。千路は鉄道ではどこに行くかパッと決められるのに、ドーナツ屋やアイスクリーム屋ではなかなか決められないのだ。
ともかく千路はトレーを返し、再び改札内に入った。せっかく来たからといって別段観光するわけでもない。鉄道好きとはそういうものなのだ。目的地とは、自分が心の中で決めた単なる折り返し点というだけ。長居は無用だ。
 
帰りは新宿に出ようと思ったので、特急は使わなかった。所沢で乗り換えることになるので、特急を乗り継ぐと2つの特急料金でけっこうな値段になる。どのみちすいているのだから急行で所沢に向かった。
 
そして、ゆったり座れたまま所沢に着いた。
西武新宿行きの特急券をホームの自動券売機で買っていると、池袋行きの特急が入線してきた。それがこの冬走っている旧型車両で、千路は急いで先頭まで走ると、携帯電話を向けてパシャッと1枚、横顔を取ったのだった。
 
 
(飯能・おわり)
 
 

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