曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・つなちゃん (1)

2013年01月30日 | 連載小説
《大学時代に出会った、或る大酒呑みの男の小説》
 
 
(1)
 
 
バイトは決めるまでがかったるい。大学1年の夏休み、ぼくはせっかく時間があるのだから働かないと、とは思いながらも、しばらくダラダラしてしまった。
それでもバイトを決めないといつまで経ってもカネが入ってこない。遊びにも行けないし、生活も追い詰められる。そこでぼくは、とりあえずなんでもいいやと新聞広告から適当に決めて、さらには面接にちゃんと行くよう、友人2人もまるめ込んだのだった。
向かったのは建築資材を作っている工場で、人手不足なのですぐに採用となった。もちろん3人とも。
夜間の勤務で、17時から22時。さっそく今晩から来て欲しいということで、押し付けられるように作業服を渡された。
夕方出直すと、17時の、一応退勤時間に20人ほどの作業員の前で紹介され、残業時間に組み込まれて社員と一緒に働きだした。
ぼくたち3人の入ったのはプレスの棟で、10人弱の作業員がいた。3人が社員で、あとはぼくたちと同じアルバイトだった。
そこにいる一人一人からあいさつされた。その中につなちゃんもいたのだけど、その時点では印象に残らなかった。
 
 

『駅は物語る』  20話

2013年01月24日 | 鉄道連載小説
《主人公の千路が、さまざまな駅を巡る話》
 
 
甲州街道
 
 
12月だって1月だって寒いのだけど、1月の方がより寒く感じる。「大晦日」「正月」を控える12月にはイベント前の心浮き立つ感覚があり、対して1月は祭りや楽しみにしていた旅行の終わったような感じがある。気持ちの中の空白が、同じ寒さでもより寒々しく感じさせるのだ。それになにかと慌しい12月よりも人の流れが減り、実際に閑散とした街並みは見た目も寒く感じさせる。
 
その寒々しい駅を見たくて、ピンと張り詰めるような冷えた晩に千路は電車に乗り込んだ。
京王線の下りを高幡不動まで乗り、モノレールに乗り換える。そして立川方面に。
 
どういうわけか、夜のモノレールというものはより寒々しく感じる。高架だからだろうか。いや、単に高架というだけなら鉄道の駅にだってたくさんある。たしかに武蔵野線など、他の路線よりも寒々しく感じるのだが、しかしモノレールはそれ以上の冷え込みを感じるのだ。なんとなく、電車よりも機械的なイメージがあるからだろうか。
万願寺も人の気配がなく寒々しかったが、千路はそこでは降りず、次の「甲州街道」で降りた。
これもまた根拠はないのだが、東京にある街道と名の付く駅は妙に寂びれていて、侘しい気持ちを味わえる場となっている。先日行った青梅街道もそう、同じ多摩都市モノレールの桜街道もそうだ。
 
千路は改札を出て階段を下り、道の方の甲州街道から駅を写した。年の瀬は混雑していただろう街道も、今は通る車も少なく、かなりのスピードですぎてゆく。
暗闇の中で光り輝く無人の小さな駅。千路は脈絡もなく、コロニーなんていう言葉を頭に浮かべた。
 
寒さが肩や腿、頭に、まるで鋭い歯で食いついたようだ。千路は肩を怒らせながら駅へと戻っていったのだった。
 
 

『駅は物語る』  19話

2013年01月04日 | 鉄道連載小説
《主人公の千路が、さまざまな駅を巡る話》
 
 
武蔵五日市
 
 
寒くなって暮れが近付くと、千路は東京を西へと向かいたくなる。
東西に伸びる東京都は東から西へと向かうにつれてローカルになり、寒さが増す。人並みに寒さが嫌いな千路だが、その一方、しんしんと空気が冷え込む、冬という季節の持つ感覚を味わいたい思いもわき起こる。それで、背中を丸めながらも西へと向かいたくなるのだ。
それに寒いといっても東京のこと、東北や甲信越のような、思考も止まるような厳しさはまったくない。ドカ雪に交通が麻痺するでもなく、都心に比べて冷え込みがちょっと厳しい程度。雄大さはないが、安全かつお手軽だ。
ということで、とある夕方、千路は中央線をまっすぐ西へと進んでいったのだった。
 
東京を西へと向かう場合、悩むのは中央線か青梅線か、はたまた五日市線かというところ。中央線で高尾までが最も手軽だが、そのかわり気分は出ない。高尾駅、まだまだ先もあるし、横に京王線のホームもある。
それでとりあえず、立川で降りて青梅線に乗り換えた。青梅線や五日市線は、どん詰まりに向かうという、ある種の哀愁を感じることができる。
拝島に着くまで悩んだが、結局降りて五日市線に乗り換えた。そのまま青梅線に乗って行った方が山深くて寒さもより厳しいのだが、その分時間がかかる。せっかく山深いのだから、青梅線の方は車窓がしっかり見られる昼間に行ってみようと思ったのだ。
 
拝島始発の五日市線は始発から終点まで単線だ。全線単線なのは、東京都を走るJRではここと八高線のみ。
拝島から一つ目、熊川駅を出た五日市線は多摩川を越える。窓などどこも開けていないのに、ここでぐっと冷え込みがきつくなる。
東秋留、秋川、武蔵引田。1駅ごとに1度気温が下がっている感じだ。そして次の武蔵増戸では3度気温が下がってしまったように感じる。そんな駅前風景なのだ。
駅に着くたびに人が減っていき、それも寒さが深まる印象を与える。武蔵増戸を出ると終点の武蔵五日市だが、電車はスピードを上げない。
 
最後、電車は高架を進み、ゆっくりと武蔵五日市駅に到着。11キロ、18分という、乗り鉄にとって消化不良をおこしてしまう短い路線だ。
ここは東京の中の観光地で、以前はなかなかに歴史を感じさせる駅だったのが、今ではコンクリート打ちっぱなしの高架駅となってしまった。まぁ見ることもないと思いながらも一応降りた千路は、振り向いて小さく驚いた。青い電飾の飾り付けに不意打ちされたからだ。
大きなロータリーを歩き、少し離れて全体を見る。これは案外儲けものだなぁと、千路は携帯電話で写したあと、寒さをガマンしながらしばらく見つめていたのだった。
 
 
(武蔵五日市 おわり)
 
 

元日の東上線めぐり

2013年01月03日 | 電車のお話
元日は天気がよかったので、ふらっと東上線沿線の散策へ。
 
車で八高線沿いを北上して、まず下りたのは小川町の駅前。弱々しい日差しのなか、商店街だけでなく大型スーパーまで閉まっていて、これぞお正月といった眺め。静かでした。
そこから国道254号の旧道をさらに北へ。いや、北西へ、か。ともかくほぼ一直線で上り道。そしてうれしいことに線路との併行。ここは好きな眺めなのです。
線路が2本で複線に見えるも、1本は東上線でもう1本は八高線。架線は手前の線路だけです。4両の東上線が私の車を追い抜いて行きました。
 
竹沢駅の手前で左折して、『東上線各駅短編集』の「東武竹沢」の章で書いた木部集落へ向かいます。懐かしい。しかしここを車で走るのは初めて。歩いたときはだだっ広く感じたのが、車ではそう感じないのが不思議なところ。やっぱり車でさらりと流してしまうと、印象もだいぶ違います。車はたくさんまわれて便利だけれど、個人的には歩きが好きです。
人はほとんど歩いていませんが、この辺りののんびりした雰囲気を壊したくないので、スピードを落として走ります。
神社のところで何度か切り替えしてUターンして戻ります。国道を突っ切って、今度は東武竹沢駅へ向かいます。
 
駅の脇の小さな踏切を渡り、広いロータリーに入ります。お店はなくて自動販売機が一台のみ。車を置いて通りを渡り、山の麓にある神社まで歩きました。
途中、すれ違う方々とあいさつ。犬の散歩の人。カートを押しながらゆっくりお散歩のおばあさん。
お参りして車に戻り、自動販売機でお茶を買って出発。駅の改札をバックにお父さんと息子が写真を撮りあっていました。お正月、東上線に乗って小さな旅でしょうか。
 
男衾駅のそばの小さな神社では年配の方々が忙しく飾り付けをしていました。晩にでも集まりがあるのかもしれません。邪魔をしては悪いので、簡単に参ってすぐに退散。
鉢形は寄らずに寄居駅へ。ここも駅前の大型スーパーが閉まっていて、静まっていました。
玉淀駅に向かうも、駅前に車が停まっていたので通り過ぎました。
 
そして帰りがけに鉢形城跡に。門だけで城跡はまったくなく、ところどころ段差のある不自然な野っ原。風はなかったのですが、空気が冷たく、ちょっと歩いて車に戻りました。
 
西日が秩父方面に沈み、夕闇で閉ざされる直前の冬の稜線がとてもいいものです。運転なのでじっくりとは見られませんでしたが、いい正月だなと思える眺めでした。
 
 

『鉄道ジャーナル 2月号』

2013年01月02日 | 電車のお話
 
あけましておめでとうございます。
昨年末、版元さんから連絡があって初版がほぼなくなったということ。それで、増刷が決定です。
これもひとえに、お買いいただいた方、売っていただいた書店さん、宣伝や紹介をしてくれた方やメディアさんのおかげです。たいへんありがとうございます。
 
その『東上線各駅短編集』を取り上げてくれたメディアの紹介ということで、数回前の記事で鉄道ダイヤ情報さんのことを書きました。すると今度は、鉄道ジャーナルさんが新刊情報に掲載されているのも見つけました。これまたとてもうれしいレビューで、著者の心をくすぐるもの。鉄道ジャーナルさんには前著『だいだい色の箱』のときも紹介していただいて、もうたいへんお世話になっています。
ということで微力ながら、お返しに『鉄道ジャーナル 2月号』の紹介です。
今月号は大々的に関西私鉄特集。なかでも大きく、マルーンの阪急電鉄を取り上げています。
阪急の電車、たくさんの写真が載っていますが、やはり鉄道ファンとして型の古い方が魅力を感じます。一般人が見ればたいした違いはないのでしょうが、5000系以降はスマートな面構えで、5000系以前に比べてよそよそしさを感じてしまうのです。
ずらり9番線まである梅田駅の写真も数枚あり、マルーンの居並ぶ様は壮観です。関東ではひとつの私鉄でここまで並ぶ景観というのはないですね。東横線の渋谷駅、あれを倍に増やしたらこんな感じでしょうか。
他にも関西の私鉄がたくさん載っています。私は以前から、なんとなくひと時代前からの車体といった雰囲気の近鉄が好きなのですが、今でもそんな雰囲気が健在です。
あと、私鉄特集とは別のページなのですが、阪和線の記事が載っているのもうれしいところです。今でも走っている103系。文章も自然、ノスタルジックになっています。
関東からわざわざ乗りに行きたくなる一冊となっております。