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依頼者から連絡があり、引き渡してもらいたい日にちが大体決まったという。浦川はカイコの繭を送ってくれている農家に、配送をストップしてくれと連絡を入れた。
すでに依頼料の半分は前金で貰っていた。後の半分は巨大なカイコ蛾と引き換えである。
ようやく細かくて単調な作業から解放されるのか、と浦川は凝った首をぐるぐると回した。
それにしても、こんな変わった依頼は今後ないかもしれないな、と依頼者とのやり取りを思い出した。
「とにかく大きくて生きているのが欲しいんだ」
依頼者が組んだ足をぐるぐる回しながら浦川に言った。
「生きてるっていっても、よくて数日、大抵は数時間で死んじゃうけど」
「数時間生きてれば十分。金は払うからいつ引き渡してくれって言っても大丈夫なようにしておいてくれないかな」
不味いコーヒーを出す店だったが、依頼者は一向に気にする様子もなくお替りをしていた。
――とにかく変わった依頼だった。
たいへんではあったが、それが終わってしまうと思うと多少のさみしさはあった。このところずっとかかりっきりだったのだ。
作業を終えた浦川は、冷蔵庫から缶ビールを出すと数匹の蛾が舞う部屋に戻り、椅子に腰掛けてプルトップを開けた。程よく冷えたビールが心地よい。なによりも落ち着く時間だった。
彼は机の上に乱雑に載っている、次の旅行先にと目星を付けているインドネシアの案内書をパラパラと捲りながら、ビールを喉に流し込んでいった。
(つづく)