《主人公の千路が、さまざまな駅を巡る話》
生々しい駅名の駅へ 中編
上毛電気鉄道の中央前橋駅、入口と改札部分が吹きさらしだが、それでも建物内に入れば外より格段に暖かい。ロータリーを突っ切るように流れの速い広瀬川が流れているのでこの辺りの風はことさら寒いのだ。
千路は切符を買って、改札に差し出す。それを女性駅員が受け取ってパチンと鋏を入れてくれる。なんだかとても懐かしい。
残念なのは切符が軟券ということ。同じ群馬の上信電鉄が硬券なだけに、こちらもそうであってほしかった。そのことをおずおずと駅員さんに言ってみると、ちょっと待ってと言って木箱を持ってきた。なんとそこには数年前の使用済み硬券がぎっしり入っていて、いくつか持っていっていいと言う。千路は恐縮しながら、3枚抜き取った。
ホームに入った千路はレトロ感たっぷりの車両を数枚写し、電車に乗り込んだ。
2両編成の車内には桜が咲き乱れていた。といってもすべて造花で、網棚部分からつり革上部にかけて取り付けられていた。
電車は千路の他に数人乗せて、静かに出発した。