北池袋 その4
改札側は住宅街だ。モルタルアパートに庭のない古い家屋。都心の住宅地らしくびっしりと隙間なく建っている。だから郊外のそれとは見た目がちがうが、家々というものは生活のにおいを漂わせる。反対側が無機的だったので、余計にそう思う。
池袋が都内でも有数の繁華街になって、サンシャインが建って……。でも、それよりずっと前からの家並みなのだろう。今じゃすっかり繁栄から取り残されたようになってしまったけど、北池袋駅は昔からあって、駅の周りには人の生活があったのだ。
一本、軽自動車も通れないような路地を入ると、祠があってその向こうに駅が見えた。駅には各駅停車が停まっていて、立ち止まって見ているとドアが閉まり、池袋に向かっていった。
その小道には数軒飲み屋があった。今はまだどこも閉まっているが、夕方になればこの辺りは、焼き鳥の煙と芳しい匂いに包まれていることだろう。
まっすぐ進んでいくと、改札の横に出た。小さい駅なので簡単に一周できてしまった。千路はラックからいくつかのフリーペーパーを取ってカバンに入れて、ICカードをタッチして地下道に入った。
せっかくの休日なので、もういくつか駅を訪ねる予定だった。ホームに上がった千路はポケット時刻表を出し、次に向かう駅を物色した。
(おわり)