曠野すぐりBLOG 「小説旅日記」

「途中から読んでも内容の分かる連載小説」をいくつか、あと日記を、のんびりと載せていきます。
 

小説・立ち食いそば紀行  小諸の進出(1)

2011年07月28日 | 立ちそば連載小説
 
《主人公の「私」が、各地の立ち食いそば屋を食べ歩く小説です》
 
 
小諸の進出(1)
 
都内に店舗を集中していた小諸そばが、最近埼玉に進出してきた。
 
進出と言ってもまだ2店舗だが、チェーン店のこと、配送コストの問題もあるだろうからいずれはさらに店舗を増やしていくだろう。問題は進出された駅の勢力図で、小諸そばといえば立ち食いチェーンきっての美味ときているので、既存店には大きな打撃となるはずだ。私は小諸そばが進出した駅、新越谷と朝霞台の状況がおおいに気になり、武蔵野線を使って両駅を訪ねてみることにした。
 
 
まずは朝霞台。ここは武蔵野線と東武東上線が交差する乗換駅で、武蔵野線の駅名は北朝霞なのでロータリーに設置されているアーケードには両方の駅名が記されている。で、小諸そばなのだが、東上線の階段下にあるので「朝霞台店」となっている。
 
ロータリーを行き交う人の混雑で分からなかったが、店の前に来ると中に人が詰まっていた。席は満席。そばの出来上がりを待つ客も列を作っている。真っ昼間なら分かるが、時刻はまだ11時だ。恐れいったなぁと思いながら、私はくるっと踵を返した。
 
気になるのは武蔵野線側にある既存店、めん処 一ぷくだ。店の前に行って中を覗くと、客は1人だけだった。
11時でこの客の入りはいつものことかもしれない。しかし対岸は列をなしているのだ。小諸恐るべし。失礼な言い方だが、私は見に来た甲斐があったと思った。
 
めん処 一ぷくは店舗のほとんどが埼玉県にあるチェーン店で、都内の店舗ならともかくここでの苦戦は今後の士気に響くはずだ。バックがJR東日本とでかいので、巻き返しも可能なはずだ。味は一朝一夕にはどうにもならないだろうから、まずは椅子席に変えるところから始めてはどうだろうか。見たところ店舗内の面積は小諸そばと大差がない。それとメニューのバラエティー度か。もちろん味で競っていただければ客としては喜ばしい限りだ。
 
私はめん処 一ぷくで食べていこうかと思ったが、まだ11時ということで、そのまま武蔵野線の改札を通ってしまった。向かうは新越谷である。
 
 
(小諸の進出・つづく)
 



小説・立ち食いそば紀行  朝霞(2)

2011年07月26日 | 立ちそば連載小説
 
《主人公の「私」が、各地の立ち食いそば屋を食べ歩く小説です》
 
 
朝霞(2)
 
すぐに玉子そばができて呼ばれる。私は受け取ると、着席して箸を取った。
 
玉子そばでちょっと失敗したかな、と思う。玉子そばはそばの上に生卵を落とすのだけなので、ハズレのないのが長所だ。しかし汁に同化してしまう具なので、汁を全部飲み干さないともったいないことになる。なので、お腹がすいていないときは苦しいメニューなのだ。汁を飲まなくてももったいないと思わなくてすむ、固定物の具にすればよかった。
 
そんなどうでもいいことを思いながら、私は黙々と食していく。だいたいにおいて、腹がすいていないときに食べる方がどうかしているのだ。そんなヘンテコなことをしている以上、いかなるときも汁を飲み干すぐらい徹底するべきである。
 
ガリレオ八兵衛の麺は歯ごたえがあり、なかなかのものだ。わざわざ来た甲斐があったというものだ。また機会を作って、他のメニューも食べてみたくなった。
 
お客がぽつりぽつりと入って来て、食券を差し出している。この店には煮込みうどんやガリレオそばなど、見るだけでも見てみたいメニューがいくつかあったが、客の注文は天ぷらそばなどの定番メニューだった。
 
食べ終えた私は食器を返却し、表へ出た。この店は表に大きくメニューが貼ってある。私はそれを携帯電話で写すと、駅の階段へと向かっていったのだった。
 
 
(朝霞・おわり)
 

小説・立ち食いそば紀行  朝霞(1)

2011年07月24日 | 立ちそば連載小説
 
《主人公の「私」が、各地の立ち食いそば屋を食べ歩く小説です》
 
 
朝霞(1)
 
寄居から東上線に乗った私は、小川町で10両編成の電車に乗り換え、さらに上り電車に揺られた。
 
一時間弱で朝霞に着く。私は改札を出ると、東武駅ナカのエキアを少しだけ散策し、東口に降りた。
ここのロータリーにある立ち食いそば屋の訪問が、朝霞駅で降りた理由だ。「さぁ、やって来たぞ!」と目的地に着いた到達感がないのが、立ち食いそば屋めぐりの特徴的なところ。むしろ、「あぁ来ちゃったなぁ。なにやってんだろ、おれ」とため息が出る。こんなことばかりやって自分でもどうかと思っているのだが、まぁ、威張れたことでもない代わりに悪いことでもないハズだ。微々たるものだが、この地の経済にも一役買っている。
 
ここにある立ち食いそば、その名も『ガリレオ八兵衛』。一度聞いただけで忘れない名前だ。立ち食いそば屋の場合、異色の店名なほど小汚い店というのが相場なのだが、しかしここは違う。パッと見、こだわりのつけ麺屋というような感じの店構え。開け放っているので中も見えるのだが、店内も清潔な感じだ。
 
私は暖簾をくぐる。先ほど到達感がない云々を述べたが、立ち食いそば屋めぐりにもいいところはあって、その一つが入店の際に緊張しなくていいということだ。かしこまる必要がまったくないし、常連が居ついている心配もない。ぼったくられる心配も皆無だ。
 
メニューの多い店で、券売機の前でお金を入れる前にしばし悩む。お金を入れてから悩むと、機械が待ちきれずにお金を吐き出してしまうことがあるのだ。
 
メニューの中に「宇宙そば・うどん」というのがある。興味を引かれたが、ついさっき寄居で一杯食べたのであまり腹が減っていない。どういうものか見当もつかないが、宇宙というからには、なにかドデカイモノが入っている可能性もある。私は未知のメニューを断念して、玉子そばにした。
 
壁側は座って食べるカタチになっている。スツールタイプではなく四本足の椅子で、安定感がある。私の好きなタイプだ。私は食券をおばちゃんに差し出すと、水を汲んで椅子に座った。
 

(朝霞・つづく)