『 蛇と交わった僧 ・ 今昔物語 ( 29 - 40 ) 』
今は昔、
ある高僧に仕えている若い僧がいた。妻子などを持っている僧である。
その僧が、主人の供をして三井寺に行ったが、夏の頃のことなので、昼間から眠くなり、広い僧坊だったので、人から離れた所に行って、長押（ﾅｹﾞｼ・ここでは下長押。現在の敷居にあたる。）を枕にして横になった。すっかり寝入ってしまったが、起こす人もいないので、長い間寝ていたが、その夢に、美しい若い女が傍らに来て寄り添ってきた。共寝して十分に交わって射精した、と見たところで目が覚めた。
そして、傍らを見てみると、五尺ばかりの蛇いた。驚いて飛び起きると、蛇は死んで口を開けていた。何事かと思うとともに恐ろしく、自分の前を見ると、射精して湿っている。
「さては、私は寝ていて、美しい女と交わったと思ったのは、この蛇とだったのか」と思うと、言いようもなく恐ろしくなり、蛇の開けた口を見ると、精液を口から吐き出していた。
これを見るや、「何と、私がよく寝入っているうちに性器が勃起していたのを蛇が見て、寄ってきて呑んだのを、女と結ばれていると思ったのだ。そして、射精したときに蛇は苦しさに堪えられず死んでしまったのだ」と考えつくと、何とも恐ろしく、その場から逃げ出して、隠れて性器をよくよく洗って、「この事を誰かに話そう」かとも思ったが、「こんなつまらないことを話して、『蛇と交わった僧だ』などと言われる」と思ったので、誰にも話さなかった。
しかし、やはりこの事は奇怪なことだと思って、とうとう特に親しくしていた僧に話したところ、聞いた僧もたいそう恐ろしがった。
されば、人気のない所で、一人で昼寝をしてはならない。
しかし、この僧は、その後格別のことはなかった。「畜生は人間の精液を呑むと、堪えられずに必ず死ぬ」というのは本当であった。僧もびくびくとしてしばらくは病みついたようになっていた。
この事は、その話して聞かせた僧が語ったのを聞いた者が、
此く語り伝へたるとや。
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