雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

伝統文化に圧倒される

2024-06-25 19:00:18 | 日々これ好日

       『 伝統文化に圧倒される 』

   訪英中の天皇皇后両陛下の 映像が伝えられている
   親善とか政治的な面からも 意味合いがあるのだろうが
   英国の伝統行事などからは 圧倒されるほど奥深さを感じる
   わが国の皇室を含めた伝統も 負けないだけの歴史があるが
   それぞれの国の 文化や国民性のベースの一部に
   なっているのかもしれない
   そのようなことを考えながら 拝見させていただいている

                     ☆☆☆ 

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夢のお告げを守らぬ報い ・ 今昔物語 ( 20 - 34 )

2024-06-25 08:01:11 | 今昔物語拾い読み ・ その5

    『 夢のお告げを守らぬ報い ・ 今昔物語 ( 20 - 34 ) 』


今は昔、
上津出雲寺(カムツイヅモデラ・京都市上京区にあった寺。)という寺があった。建立されて以来長い年月が過ぎ、まさに倒壊寸前であるが、修理をしようとする人は誰もいなかった。

この寺は、伝教大師(最澄)が震旦(シンダン・中国)において、わが国で達磨宗(菩提達磨を宗祖とする禅宗の別称。)を起こすのに良い場所を選ぼうと手紙を寄こしたので、この寺の場所を絵に描いて、「高尾、比良、上津出雲寺の地、この三つの場所の何れかが良いでしょう」と伝えた。
すると、「この上津出雲寺の地は、特に優れて良い土地であるが、寺に住む僧が戒律を守っていない」と返事があり、取り止めになった所である。
尊い所であるのに、どういうわけか、このように破壊されてしまっているのである。

ところで、この寺の別当(事務を統括する役僧)は、妻子を持つ僧が代々後を継いできていたが、近年、その別当に浄覚(ジョウガク・伝不詳)という僧がいた。この者は前の別当の子である。
ある時、浄覚の夢に、死んだ父の別当が、たいそう老いぼれて、杖を突いて現れて、「我は仏の物を勝手に使ってしまった罪により、大きさ三尺ばかりの鯰(ナマズ)の身となって、この寺の瓦の下(屋根裏のことらしい)にいる。どこに行くことも出来ず、水も少なく、狭くて暗い所で、とても苦しく辛い思いをしている。そのうえ、明後日の未時(ヒツジノトキ・午後二時頃)に大風が吹いてこの寺は倒れようとしている。そして、寺が倒れると、我は地面に放り出されて這って行くうちに、子供らが我を見つけて打ち殺そうとするだろう。お前は、その鯰を子供たちに打たせないようにして、桂河に連れて行って放してくれ。そうすれば、我は大水の中に入り、広々として楽しく過ごせるだろう」と告げた、ところで夢から覚めた。
その後、浄覚は妻にこの夢のことを話すと、「それは、いったいどういう夢なのでしょうねぇ」と言ったが、そのままになった。

その日になって、午時(ウマノトキ・正午頃)の頃になると、一天にわかにかき曇り、激しく風が吹き始めた。木を折り倒し家を壊す。
人々は風の吹きつけた跡を繕ったが、風はますます強くなり、村里の人家を皆吹き倒し、野山の木も草もことごとく折れて倒れた。
そして、未時の頃になるとこの寺が吹き倒された。柱が折れ、棟が崩れて倒れてしまったので、屋根裏の杉の中に長年水たまりが出来ていて、大きな魚がたくさんいたが庭に落ちてしまったので、そのあたりの者どもが桶を下げて、大騒ぎして拾い集めていたが、その中に三尺ばかりの鯰が這い回っていた。まことに、夢の通りであった。

ところが、この浄覚は慳貪邪見(ケンドンジャケン・けちで欲が深く、よこしまであること。)の心が深い男だったので、夢のお告げの事など思いもかけず、たちまち魚が大きく太っているのに心を奪われ、[ 欠字あるが不詳。]長い金属製の杖で魚の頭を突き立て、長男の子供を呼んで、「これを捕まえろ」と言ったが、魚が大きくて捕らえることが出来ないので、草を刈るときに使う鎌という物で、鰓(エラ)のところを掻き切り、蔦を通して、他の魚といっしょに桶に入れ、女どもに頭に載せて家に持ち帰った。
すると、妻はそれを見て、「この鯰は、あなたの夢に現れた鯰に違いありませんよ。どうして殺したのですか」と言った。
浄覚は、「他所の子供らに殺されるのも同じ事だ。なに、構わない。儂が捕らえて、他人を交えることなく、家の子供らと十分に食べてこそ、亡き別当はお喜びになるだろう」と言って、ぶつぶつと切り、鍋に入れて煮て、満腹するまで食った。

そして、浄覚は、「おかしな事に、どういうわけか、他の鯰より格別に味が良い。亡き別当の肉だから味が良いのだろう。この汁を飲んでみよ」と妻に言って、うまそうに食っているうちに、大きな骨が浄覚の喉に突き立ち、「えふ、えふ」と吐き出そうと悶えたが、骨を取り出すことが出来ず、遂に死んでしまった。そのため、妻は気味悪がって、この鯰を食わなかった。

これは他でもない。夢のお告げを信じなかったために、その日のうちにたちまち報いを受けたのである。思うに、どのような悪趣(悪道と同じ。地獄などを指す。)に堕ちて、無量の苦しみを受けるのであろうか。
これを聞く人は皆、浄覚を謗り憎んだ、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


 

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