緑陰茶話   - みどりさんのシニアライフ -

エッセイとフォト

日々の発見と思いのあれこれなど

お一人様ツアーとマンスプレイニング

2024年06月29日 | 話題
タイトルを見て、お一人様ツアーは分かるとして、マンスプレイニングって何? と思われる人もいるかもしれません。
マンスプレイニングは最近、ちょくちょく聞くようになった言葉です。
要するに男性が女性に対して、聞かれもしないのにあれこれ説明したり、アドバイスしたり、蘊蓄(うんちく)を傾けたりすることです。
実は相手の女性の方がよく知っている事柄でもお構いなしにです。

英語のman(男性)とexplain(説明)を足した新造語だということです。
英語圏で使われ始めたのでしょうけど、女性なら誰でもマンスプレイニングで不快な思いをしたことがあるだろうと言われています。
確かに色々と思い出すことはあります。(笑)

側で見ていて、自分のことでなくても、あれは嫌だろうなと思ったこともあります。
随分以前のこと、アンドリュー・ワイエス展があって、そこでたまたま見た光景。
どういう関係か分かりませんが年配の男性と若い女性。
年配の男性がアンドリュー・ワイエスの絵の解説をして若い女性はひたすら聞いている。
その解説もアンドリュー・ワイエスの絵の何がダメかみたいな話。

絵の鑑賞くらい自分の感性でして見たいわって感じです。
若い女性の表情はというと、まさに無表情です。
あれが典型的なマンスプレイニングだったのですね。
当時はそういう便利な言葉がなかったのです。

もう一つの例は知人とホテルの喫茶室で話をしていた時のこと。
知人(女性)がいきなり声をひそめて、私から見ると後ろ隣りの席を顎で示して「私、ああいうの一番嫌い」と言いました。

見ると一つのテーブルに年配の男性が一人、後は若い女性ばかり4、5人のグループ。
話しているのは男性のみで女性たちはひたすら男性の話を聞いている。
大学のゼミの先生と女子学生なのかなとその時は思いました。

不気味なのは両者とも会話が成立していないのです。
男性は相手の意見を聞くことはなく、ひたすら気持ちよさそうに自分だけで話してました。
女性たちは一様に無言で無表情。

マンスプレイニングについて調べてみると、なぜ男性は女性を前にするとあれこれ知識を披歴したがるかですが、女性が自分より知識がある筈がないと思い込んでいること。
知識のない女性に知識を授ける優越感を味わいたいこと。要するにマウンティング。
などなど色々説明されてます。
女性の側からするとマンスプレイニングは余計なお世話以外のなにものでもないですけど。

そのマンスプレイニングとお一人様ツアーの関係は何か、ですが、お一人様ツアーは、性別を問わないお一人様ツアーと、女性限定のお一人様ツアーがあるのです。
女性客の中には絶対に女性限定でないとダメという人もいます。
その理由は見知らぬ男性と話したくないし、話も聞きたくないから。
中には婚活というか、ナンパ目的でお一人様ツアーに参加する男性もいるみたい。
そういうのの相手は絶対にしたくない。

これは関西が特にそうなのか分かりませんが、お一人様ツアーでは女性達はすぐに打ち解けあってお話したりすることが多いのです。
でも男性はポツンと一人か男性同士でかたまっていてもお通夜状態。
それだけならまだしも女性の参加者相手にマンスプレイニングを始める人もいる。

実は一度そういう現場を見たことがありました。
フランス料理の夕食で5,6人掛けの丸テーブルで一人の男性が蘊蓄を傾け、しゃべり倒していました。
幸いにも私は別のテーブルでした。

後で聞いたら、やはり嫌だった人、面白い話だったから構わなかったという人、最初から男性客と一緒のテーブルに座らないように細心の注意をしていた人、色々でした。
聞きたくない話を聞かされたり、女性同士でおしゃべりを楽しみたいのに見知らぬ男性の一方的な話を聞かされたら、せっかくの旅行、豪華のフランス料理もだいなしになりかねない。
だったら最初から女性限定のお一人様ツアーに行くでしょう。

お一人様ツアーではさすがに無いのですが、アメリカでの調査によると、会議のような場で、人が話していて、話を遮られることは男性より女性の方が多いらしいです。
女性の話は無価値で無意味だと思われているみたいです。

女性が意見を述べていると、「それは違うね」とか「関係ないね」とか、バシッと切るように言って、まったく違う方向に話を持っていく男性。
機嫌よくその状況に追随する他の男性達。
最初から話し合う気なんて無いんです。

よく似ているけどちょっと違う状況もあります。
私の経験です。
私は自然観察が趣味で、自然観察会のボランティアスタッフも長年務めてました。
ただそんな話を勤め先でするようなことは、親しい同僚以外ありませんでした。

ある時、勤め先で男性営業マンが葉っぱを持ち込んで「この植物が何か分からない」と他の営業マンに聞いていた時がありました。
取引先でその植物が繁茂して困っていると相談を持ち掛けられたらしいのです。
誰も分からないみたいでした。
それで私が用事で立ち上がったついでにその植物を観に行きました。
葛でした。

「葛ですね、これは」と私が言うと相手は「葛?」と不審な顔をしました。
全然信用していない様子。
そこに70代の専務が口をはさみました。
「葛というのは、あの葛餅の葛か」
「そうですけど」と私が答えると、そんな貴重な植物が繫茂している筈がないとでも思ったのか文字通り鼻で笑われました。

これはちょっとショックでした。
葛は山野に幾らでも自生してますが葛の根から葛粉を精製するのはとても手間がかかり、普通、葛餅で使われるのは北海道産のジャガイモから取ったでんぷんで、いわゆる本葛はそれなりに高価なのです。
また日本の葛は荒地でもよく茂ることから緑化のために外国で植えられましたが、繁茂しすぎて在来の植物を枯らしてしまい、丈夫過ぎて根絶することもできず、Japanese green monster と呼ばれているのです。

そこまで詳しくなくても、葛は秋の七草の一つだから、誰が知っていても不思議でも何でもないことです。
それがまったく信用されなかったとは・・・。

よく似た話は野鳥でもあって、バードウォッチングの会でのこと、初めてバードウォッチングをしたらしい60代くらいの男性、鳥を見つけたものの何の鳥か分からない様子でした。
私が見るとジョウビタキでした。
それで「あれはジョウビタキですよ」と言うと、やはりあからさまに不審な表情。
私の言葉は無視して、首を傾げて、図鑑を調べてました。

バードウォッチングの会は通常、鳥を見つけたら教えあったり、フィールドスコープを持っている人は持っていない人にも見せてあげたり、親切にしあうものなのです。
かの男性は初心者とはいえ、マナー違反というしかありませんでした。
私は友人に「あれがジョウビタキでないというなら何なの」と言いつつその場を離れました。

断っておきますが、葛にしてもジョウビタキにしても、いたってポピュラーで、知っていて偉いというようなものではないです。
私がショックを受けたのは、その種のおじさん達が、自分達が知らないものを女性が知っている筈がないと確信していることです。
だから全く人の話に取り合わないのです。

マンスプレイニングも女性には知恵も知識もないという思い込みから、時には親切で行われるわけですが、はっきり言って相当に不愉快です。

私は別に男嫌いではないですが、おじさんには近づかない、話をしない、親切にもしないという3ないで対処するしかないのでしょうか。
話をして、本当に面白いおじさんもたくさんいるのは知っているのですが・・・。