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『プリズン・サークル』

2020年04月04日 | 映画(は行)
『プリズン・サークル』
監督:坂上香
 
次年度に繰り越せない有休もあと1日と2時間。
そのあと1日の休みを取った日、ハシゴ5本を敢行。
その1本目はこれ、第七藝術劇場にて。
 
アメリカの受刑者の取材を重ねてきた坂上香監督が、
日本の刑務所内の様子を長期にわたって撮影したドキュメンタリー作品。
これは日本初のことだそうです。
同様のことを考えた映画監督はいらっしゃったかもしれませんが、
これが初だということは、さまざまな手続きや障壁がきっとたくさんあって、
撮影に至るまでにクリアしなければいけないことが多いのでしょうね。
 
訪れたのは、2008(平成20)年に開所された刑務所“島根あさひ社会復帰促進センター”。
国家公務員である刑務官は約200名、
清掃や食堂等の業務に携わるのは民間会社の社員約300名。
官民協働という新しい形を取る刑務所です。
 
監督は受刑者の体に触れることも声をかけることも許されません。
直接話せるのはごく限られた時間の1対1のインタビュー時のみ。
淡々と刑務所内の様子や受刑者の日々の行動をフィルムに収めています。
 
こちらの刑務所では、1960年代以降に欧米で広まっているTCが導入されています。
TCとは“Therapeutic Community(=回復共同体)”の略で、更生プログラムのひとつ。
日本でこのプログラムが導入されているのはここだけ。
 
凄惨な事件を起こした犯人がさして反省もしていない様子をニュース等で聞くと、
更生なんて絶対に無理、生まれついての悪人は死ねばいいと私は思っていました。
でも、本作を観ると、更生はあり得るかもしれないと考え方が変わる。
 
本作で主にカメラを向けられているのは、
詐欺や強盗致傷、窃盗などの罪で服役中の4人の若者。
刑期は数年から10年未満です。
だから、罪としては一般的にそこまで重いものでもない。
ゆえに更生があり得ると思えるのかもしれないのですけれども。
 
呼ばれるときは常に「おまえ」だとか番号だったりした彼らが、
この刑務所ではきちんと名前で呼ばれる。
自分に名前があるということを生まれて初めて知ったかも。
 
罪を犯したから償えと言われても、
今までいた刑務所では罵られたりいじめられたり。
どうやって生き抜くか怯えているから、
自分がしでかしてしまった悪事の重大さについて考える時などない。
 
TCに参加して初めて、自分の話に耳を傾けてくれる人がいる。
自分に話しかけてくれる人がいる。
そのプログラムはとても興味深く、
事件の加害者と被害者のロールプレイングなどもあります。
 
揃いもそろって不幸な生い立ち。
でも、不幸だったせいで事件を起こしたとは言いたくないとも。
自分の頭で考え、話し、やっとわが身と向き合えた彼ら。
 
刑期を終えて社会に出ても、自立できるのかどうかはまだまだ問題が残ります。
再犯率はほかの刑務所の50%以下とのことですが、
彼らが真っ当な生活を送ることを願います。
 
彼らのうちのひとりが書いた「嘘しかつけない少年」の話が強烈で、
ずっと心に残りそうです。

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