夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『6才のボクが、大人になるまで。』

2014年11月27日 | 映画(ら行)
『6才のボクが、大人になるまで。』(原題:Boyhood)
監督:リチャード・リンクレイター
出演:パトリシア・アークエット,エラー・コルトレーン,ローレライ・リンクレイター,
   イーサン・ホーク,マルコ・ペレラ,スティーヴン・チェスター・プリンス他

全館停電の日に3本ハシゴの3本目。これがこの日の本命。
165分の本作はマイルを貯めるのにうってつけですから、
できればTOHOシネマズで観たかったところですが、
ハシゴの効率を優先して大阪ステーションシティシネマで観ました。

少年時代と青年時代、そしてそれ以降の役者の使い分けは当然ですが、
あの子がこんな顔になるかよ、とか、その顔の小さいときがそれかよ、とか、
映画を観ていてツッコミを入れたくなることはしばしば。
そうならないように同じ役者を使ったはいいけれど、
老けメイクがほどこされているのを見ると一気にテンションが下がる私です。

本作はそんなツッコミもテンション下がりも無用。
6歳のボクと18歳のボク、両親も姉もすべて同じ役者。
ドキュメンタリーではない、まったくのフィクションで、
12年間、毎夏、カメラを回して1本の映画を撮りあげたのですから。
過去に例を見ない、ぶっ飛んだ製作手法が見事に結実しています。

今年はおそらく今日までに劇場で190本近く観ています。
そのなかでいちばん良かったというのか、いちばん好きだったのはこれかもしれません。
ずっとずっと観ていたい、そんな気持ちに駆られました。
リチャード・リンクレイター監督の『スクール・オブ・ロック』(2003)は、
私が来世まで持って行きたいほどのお気に入りなのですが、これはそれを超えたかな。

テキサス州の田舎町に暮らす6歳の少年メイソンは、
母親のオリヴィアと姉のサマンサとの3人暮らし。
父親のメイソンSr.は23歳のときにオリヴィアと結婚したが、
離婚してアラスカへ放浪の旅へと出かけてしまう。
アラスカから戻ってきた父親は、週末をメイソンとサマンサとともに過ごしている。

シングルマザーとなったオリヴィアは、自らのキャリアアップを目指し、
大学に入学することを決意する。
そのため、メイソンとサマンサを連れてヒューストンへ引っ越す。
そこで多感な思春期を送ることになるメイソン。

泣かされるわけでも大笑いさせられるわけでもありません。
ただ、メイソンと彼と関わる人たちの日常が描かれているだけ。
だけど、人生って、それだけでドラマなんだとしみじみ思います。

12年間カメラを回したといっても、それを繋ぎ合わせるのはものすごく難しいはず。
なのにとても自然に繋ぎ合わされています。
気がつけばメイソンが声変わりしていた、ニキビができていた、ヒゲが生えていた。
親のほうも、もともとむっちりしていた体型がよりそうなり、いつのまにかシワが増えていた。
特に今が何年かという情報が与えられることもなく、
台詞やニュースや音楽の端々から、観ている者は自然とその時代に想いを馳せます。

最初はいくぶんませたガキだったメイソンなのに、
次第に年齢のほうが彼に追いついてくる。
母親の再婚相手への失望、そして初恋や失恋の痛みをメイソンとともに感じ、
その時代に自分がどうだったかも思い返す。
鑑賞中、そういったことをごく自然にしている自分に気づきます。

イーサン・ホーク演じる父親とメイソンたちの会話にクスッと笑い、
パトリシア・アークエットの突然の号泣に共感する。
自分が何気なく発した言葉がその人の人生に良い意味で影響したと知って救われる。
どれもこれも、12年を通じてのことだと思うと、余計に幸せを感じます。

「瞬間を逃すな」と言うけれど、時間は途切れることのないもの。
すべての時間が「瞬間」。

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