夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『エレジー』

2009年08月10日 | 映画(あ行)
『エレジー』(原題:Elegy)
監督:イザベル・コイシェ
出演:ペネロペ・クルス,ベン・キングズレー,パトリシア・クラークソン,
   デニス・ホッパー,ピーター・サースガード他

全米図書賞、全米批評家協会賞、ペン/フォークナー賞など、
数々の文学賞を受賞しているフィリップ・ロスの短編小説、
『ダイング・アニマル』を映画化。
『死ぬまでにしたい10のこと』(2003)や『あなたになら言える秘密のこと』(2005)のスペイン人女性監督が、
もはや誰もが知るスペイン人女優となったペネロペ・クルスを起用して。

デヴィッドは老齢に入りつつある著名な大学教授。
心の結びつきより体。それが彼の信条。
レギュラー出演中のラジオ番組では、
文学を説く一方、軽妙な口調で快楽主義を唱えている。

ある年の最初の講義。
教室に入ってきた美貌の生徒コンスエラに、デヴィッドは目を奪われる。
生徒を招いたパーティーで、彼女に知的な話題で迫るが、
彼の心の中はただヤリたい、それだけ。
彼女が好みそうな演劇に誘うと、思い通りの展開に。

ところが、彼は、彼女の完璧な乳房の虜になるばかりか、
過去にはなかった嫉妬の感情に振り回されるようになる。

『砂と霧の家』(2003)での演技も圧巻でしたが、
本作のベン・キングズレーは意外なほどチャーミング。ハゲでチビなのに(失礼)。
30歳下のコンスエラに本気になってしまい、嫉妬を見せる演技はあっぱれ。
車の中でつくため息。天を仰ぐ表情。彼女の残り香を探す仕草。
彼女も自分のことを本気で好きだとわかっているのに、
老いと信条がどこか素直にさせてくれません。
自己嫌悪に陥っている姿など、可笑しさと切なさが見事に混在。

また、デニス・ホッパー演じる旧友ジョージも憎めません。
テニスコートで、サウナで、カフェで、
ジョージがデヴィッドに送るアドバイスは痛快。
デヴィッドと20年来の体だけのつきあいであるキャロラインや、
父親を憎みながら自らの不倫を相談しに来る息子ケニーなど、
脇の登場人物もいい味を出しています。

こう書くと、あまり重くなさそうですが、
邦題は「哀歌」の意味だし、原作の題名は「死にかけの動物」ですからね。
2年後に現れた彼女の告白。
彼はそれを受け止められるのか。ズシッと来ます。
音楽、風景も寂しく、美しく、余韻が心地いい。

10年後に読めば、同じ本でも印象は変わる。
映画もきっとそうですね。

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