夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『関心領域』

2024年05月29日 | 映画(か行)
『関心領域』(原題:The Zone of Interest)
監督:ジョナサン・グレイザー
出演:クリスティアン・フリーデル,ザンドラ・ヒュラー,ラルフ・ハーフォース,
   ダニエル・ホルツバーグ,サッシャ・マーズ,フレイア・クロイツカム,イモゲン・コッゲ他
 
 
アメリカ/イギリス/ポーランド作品。
第76回カンヌ国際映画祭ではグランプリを、第96回アカデミー賞では国際長編映画賞を受賞しています。
予告編からしてとても嫌な感じでした。ミヒャエル・ハネケっぽい。
しかし興味を惹かれるテーマなのか、最近観た映画の中ではいちばんの客入り。
 
原作は昨年亡くなったイギリス出身の作家マーティン・エイミスの同名小説。
本作に関しては映画化ということもあってか没後に日本でも翻訳出版されたようです。
 
冒頭、タイトルが表示されたあと、不協和音のなか続く真っ黒な画面。
何十秒か何分か、何が起きるのだろうと思いながら黒い画面を注視せざるを得ません。
 
収容所の所長を務めるルドルフ・ヘスとその妻ヘートヴィヒ、子どもたちが住む家。
壁の向こうは収容所だというのに、ヘス一家はそれを気にまったく気に留めず。
林を抜けて泳ぎに行ったり釣りを楽しんだり、毎日が緩やかで牧歌的。
ヘートヴィヒにとってこの家は理想そのもの。
 
収容所の内部が映し出されることは一切ありません。
ただ一日中、焼却炉なのか何なのか、ジージーと音が鳴り続けていて、
怒声や悲鳴、銃声が聞こえてくることもあるというのに、家族は無関心。
けれど、隣がどういう施設なのかはおそらくじゅうぶんに知っていて、
収容されたユダヤ人の衣服などを物色し、毛皮や口紅を試します。
 
新式の焼却炉の売り込み電話では、いかに多くのユダヤ人を燃やせるかなんて話も出るけれど、
それが実に淡々としていて怖すぎる。
 
いったい何を見せられたのでしょう。ただただ不穏。
一見家族は普通に見えて、心が蝕まれているだろうことを想像してしまいます。
蝕まれないのはおかしい、蝕まれて行ってほしいというこちらの希望なのかも。
 
ユダヤ人が着せられている服を見ると『縞模様のパジャマの少年』(2008)を思い出す。
あれも収容所の近隣に住んでいるナチスドイツの将校一家の話でした。
しばし立ち上がれないほど衝撃的なラストで、それと比べると明らかな衝撃はない分、
どう反応すればよいのか困る。
 
ほぼ満員の客が帰るときに笑みは無し。
「なんか凄い映画やったな」とつぶやいている人はいました。
楽しくはない。でも引き付けられます。

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