中村天風(1876~1968)の本は今日も多くの人に読まれている。宮本武蔵の「五輪書」を範とし、人間存在の根源を「心のありよう」に求める。天風が説く「幸福に生きるための心のありよう」とは何か。下記の書物から印象に残った言葉を引っ張り出し、順不同に並べてみた。
心
心は汚い糞溜めのなかに漬けておいて、顔ばっかり一生懸命ペタペタ磨いている人がいる。同じように心もやったらどうなんだい。男もそうだぞ。すべては心が生み出す。あなた方の心のなかの思い方、考え方が、あなた達を現在あるがごときあなた方にしている。人間の地獄をつくり、極楽をつくるのも心だ。右を見れば花園があり、左を見ればゴミや糞が転がっている。右を向いていればいいものを左ばかり向いている人がいる。
不平や不満を口にする悪習慣は、人にいたずらに煩悶や苦悩を心に多く感ぜしめるだけで、人生に価値ある収穫を招来しない。人生の一切合切が「積極精神」で決まる。心が積極的であれば、人生はどんな場合にも明朗、溌剌颯爽、勢いに満ちたものになる。「晴れてよし 曇りてもよし 富士の山」。どんな大事に直面しても平然自若でいることが大切だ。
愉快に生きる
取り越し苦労は百害あって一利なし。何の役にも立たない。新幹線の列車にまともにぶつかれば粉々になるが、ヒョイと身をかわせば列車はすうっと通り過ぎてしまう。相手にしなければいいんだ。何か事が起こった時「私が悪かった」と罪を背負ってしまうと喧嘩にならない。ものが壊れた。「あ、私が悪かった。そこにそれを置いたもんだから、壊れたのね」といっちまうと、これ喧嘩にならないよ。
自己以外の人に対しては、あくまで清濁併せ呑むという寛容さを失ってはならない。笑いは人間にだけ与えられた特別なものに他ならない。笑いは無上の強壮剤であり、また開運剤である。
すべてに感謝
何でもいいから、感謝と喜びで人生を考えるよう習慣づけよう。すべてのことに感謝しよう。生きていることに歓喜の気持ちをもとう。「ああ、ありがとうございます」と言われて、「けっ、俺は損しちゃった」と思う人はいない。あるものは不平と不満だけという憐れな人生に比較して、人生の一切を感謝に振り替え、感激に置き換えて生きられるならば、そこにあるのは価値の高い尊い人生ではないでしょうか。
人数が多ければ、間違いも正しいことのようにされちまうのは、議会だけである。ところが人生も議会と同じように考えているのが現代人の常識である。自分の人生の前にあらわれるすべてのものは、自分の価値認識のために必要な尊いものだと考えるのが一番いい。
同じ事業家でも、欲の固まりでやる者と、「この仕事で、世の中の人のために、本当に役立つものを提供しよう」という気持ちでやるのとでは、その結果が全然ちがう。